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コロナの影に潜む食中毒

写真はジビーフのリブロースです。良い感じで水分が抜けてきました。あと10日程度で繊維が緩んでおいしくなる・・・かな。

さて、「熟成」というワードで取材を受けることが多いのですが、僕が考える熟成と同業他社、有識者の皆さんが考える熟成の捉え方が違うように思っています。僕はあくまでも精肉店としての経験から得た現場本位のやり方なので、どこかと比べることもできないし、いまじゃ正解なのか不正解なのかも分からないのが現状です。そもそも正解なんてないのかも知れませんが、僕のやり方を真似している方もいるそうで、ありがたくもなんともなく、かなり危険だと思います。

特にウェットエイジング、いわゆる真空パックされたブロック肉を仕入れてパックから出して乾燥させたり、骨を外した肉を普通の冷蔵庫に置いたり、何度かレストランの冷蔵庫でそれらしいものを見たことがありますが、やめたほうがよろしいかと。

僕が手当て熟成する肉について。僕のなかでルールがあって、評価の低い牛をおいしくしてA5とは別の価値を見出す。というのが「なぜ熟成させるのですか」の答えです。安全性というのは、書くまでもなく当たり前のことですし、僕のやっていることは真似できるレベルではないと思っています。

先日、滋賀の焼肉店で食中毒が起こりました。原因はユッケだそうです。許可なく生食を提供していたのだと思いますが、日本全国、当たり前のようにユッケやタルタル、生レバーを提供している飲食店があります。自己責任とかいって仲間内で食べる分には良いと思っていても、食中毒が起これば、仲間外の事件に発展します。病院から保健所へ、そして提供した飲食店は営業停止となり、死人でもでれば法律が変わる可能性だってあり得ます。そもそも、真空パックで仕入れた肉を生で食べるなんて僕には信じられない。

話を熟成に戻します。僕が行う熟成はいくつかパターンがあります。すべて微生物の力と偶然から成るものですが、勘違いされている方の多くが、肉の表面にふわふわのカビを付着させることで熟成肉として完成したと思い込んでいることです。香りもそうです。肉はもともとなんらかの香りはあります。小難しい生物用語はさておき、その変化の過程において、よくない香りもあるわけです。このあたりは様々な経験、実験によって判断することになりますが、毎日のように肉を触って、大学の先生や研究者の力を借りても分からないことだらけなのです。だから熟成肉の文献なんか世界中探してもないんです。

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写真はブラウンスイス牛です。水分量が多いので枯らして調整したのですが、ご覧のようにカビをつけず、ビーフジャーキーのような乾燥肉に仕上げます。肉によって手当てを変えるのは魚屋さんやお鮨屋さんと同じです。

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5㎝ほど削ると小豆色の肉が顔をだします。まだ、かなりの水分が残留していますが、味に関わる必要な水分なので残しておきます。自由水と結合水の関係はまた別の機会に書くとして、コロナに翻弄された数ヶ月ですが、食中毒は確実に起こっています。くれぐれも違法な生食、許可なき生食、なんちゃって熟成肉はやめたほうがいいと思います。

あと、僕が熟成させるのはあくまでも牛だけです。しかもランクの低いものだけ。その最たるものが経産牛ですが、かりにサシの多いA5を熟成させたとしましょうか。脂が酸化して和牛香と熟成香が混ざって元々の良さを消してしまうのです。豚を熟成させる人もいますが僕はやりません。鹿も羊も同じくです。水分調整程度はしますが、それ以上の必要性を感じません。プロフェッショナル仕事の流儀に出演したときに鹿の熟成をやりましたが、あれは特別です。最初で最後です。

来秋、僕が考える熟成の集大成ともいえる施設を建設予定です。土地を確保しているだけでまだノープランですが、追ってご案内できればと思います。

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新保吉伸/Niiho Yoshinobu
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