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人口1万人の小さな町が、起業家でにぎわう理由

先日、埼玉県比企郡ときがわ町で、起業家の育成事業に取り組む関根さんにお話をお伺いにしてきました。

ときがわ町は町内の約7割が森林となっている、人口1万人の小さな町です。当然、人口減が悩みの種になっているのですが、この町に移住してきた企業研修のコンサルタントの関根さんが、2018年から「比企起業大学」という起業家育成の事業を立ち上げて、今まで60人以上の起業家を世に輩出し、約2割の人がときがわ町に移住して、町の活性化の一助となっています。

関根さん自身は私と同じ経営コンサルタントという立場なので、取材する前までは、関根さんが自治体や商工会の起業家創業事業を請け負っているだけだと思っていました。しかし、話を聞いてみると関根さん自身で「ときがわカンパニー」という民間の合同会社を立ち上げて、行政とは別に、この起業家育成の事業に取り組まれていました。

民間企業が別法人を立ち上げて、行政から一歩身を引いた環境で、独自の町作りに携わるというのは、非常にレアなケースと思います。

関根さんの事例を取材して思ったことは、町の至る所で若い起業家が事業を起こして、自治体に活気をもたらしているという点です。起業家を町に呼び込むことで若い世代が町に移り住むようになり、その人たちが魅力的な事業を立ち上げて、さらに町外からの人を呼び込む仕組みができているので、常に町の中で「何か面白いことが起きている」という現象が起きる流れが既に町内に出来上がっていました。

私も起業家向けのコンサルティングをしていますが、正直、起業で町おこしをすることに対しては懐疑的な思いがありました。小さなビジネスが自治体に与える影響はわずかですし、地域の活性化という目で見れば、非効率だと思っていたからです。

しかし、今回、関根さんの取り組みを間近で見させていただき、町の活性化には起業家の育成は必要ではないかという考えに変わりました。

以下、その理由です。

起業家が増えると税収も増える
事業を起こす人が増えれば、そのぶん、法人税が増えることになります。起業した当初は微々たる税収かもしれませんが、事業が軌道に乗り、売上を伸ばすことができれば、数年後には大きな税収の柱になっていきます。また、ときがわ町のように起業家が起業家を呼び込む流れができれば、さらに町の経済が潤うことになり、税収を増やしていく道筋を作ることができるようになります。

起業家が増えると町民の自立心が高まる
起業家は常に決断のスピードが求められる仕事です。また、責任を人に押し付けることができないので、自己責任が基本の仕事になります。目標を達成するためには最後まであきらめない心が必要ですし、自分の夢を実現するためには、多種多様な人とコミュニケーションを取る交渉能力が求められます。そのような起業家が町に増えれば、行政に頼らず、自分たちで行動を起こす自主的な町民が増えることになります。催事や防災、子育ての取り組みも自治体に頼ることなく、自分たちで創造して、解決する力を身に付けている人が増えていけば、民間主導の町づくりを実現することが可能になります。

仲間が増えて大きな事業に取り組むことができる
起業家同士が交流することで、町作りの仲間を増やすことができます。一人の力だけでは何もできなかったことが、多くの人の力を借りることで、大きな取り組みにチャレンジすることができるようになるので、自治体に大きなイノベーションを起こすことができます。

関係人口を増やす
起業家は町外にも多くの人脈を持っています。その人たちが町の事情を知ることで、町を支援してくれるようになれば、町民以外の応援団を作ることができます。その町に住まなくても、その町を応援する人が増えれば、やがて移住や消費のきっかけを町外で作ることができるようになります。

起業家の育成には大きな予算はいらない

その他にも、起業家が増えることで若い世代が移住してきたり、町内の若い起業家と交流する人が増えれば、新しい意見や考え方が町内に流れ込んできたり、自治体をさらに活性化させることができるようになります。

起業家が増えることが直接的に町の活性化につながるのではなく、起業家が増えることによる間接的な要因が、町の活性化につながると考えたほうが適切です。ビジネスが町に与える影響というのは、想像以上に大きいのではないかと思います。

起業家の育成には、大きな予算が必要ありません。栄町や栄町商工会が、起業や副業の指導経験が豊富なコンサルタントを招いて、セミナーやアドバイスをする機会を増やすだけで、起業家を増やすことは可能です。

もちろん、起業家を志す人を集める“集客”には、それなりに苦労するとは思います。しかし、栄町は印西市や成田市という10万人以上の都市を背景に抱えているので、そのエリアをターゲットにして、「栄町で起業しませんか?」とアプローチをすれば、起業を志す人を栄町に集めることはそこまで難しい話ではありません。

実際、栄町には創業支援の補助金交付制度があるので、このあたりの取り組みをもう少しアピールして、独自の起業家育成の事業と組み合わせれば、それなりの集客はできるのではないかと思います。

ちなみに、ときがわ町の比企起業大学は、毎年、5~6人ぐらいの新規の起業家が全国から集まってくるそうです。リアルとオンラインで説明会を開催することに加えて、起業家たちが全国の至る所で「ときがわ町の起業家育成はとってもいいよ」と口コミで広めていることも、比企起業大学に起業家を志す人が集まってくる要因になっています。

起業家育成事業は、少し時間と手間のかかる施策にはなりますが、将来的に町を活性化させるビジョンとしては、一考する価値は十分にある取り組みといえるのではないでしょうか。

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