
新聞記者【ぐすたふ】のシネマ徒然草子.Chapter16
今日は社会派映画をご紹介。
2019年の日本アカデミー賞を総ナメにした作品(作品賞・主演男優賞・主演女優賞獲得)です。
私自身、内閣や政府内の組織構成などに疎いところがあるので、映画を見ながら「?」が出るところもあったり。勉強しなきゃな、と反省。
少し難しいところがあるとしても、根本は人間の正義と悪を描いた作品なので、どんな人でも、映画の筋を感じることは難しくないかと思います。
日本社会に一石を投じる作品に、ご招待。
※記事の中にはネタバレも含まれますので、これから映画を見ようと思っている方は作品概要以降、ご自身の判断で読んでいただけますと幸いです
1.作品概要
題:新聞記者
監督:藤井道人
主演: シム・ウンギュン、松坂桃李、田中哲司他
制作国、日本公開年:日本、2019年
※画像はNetflixより、お借りいたしました
ストーリー概要:
主人公 吉岡エリカは、東都新聞社会部の女性記者。彼女の父親もジャーナリストをしていたが、誤報記事を発表したことで自殺に追い込まれたという過去を持つ。
ある日、彼女の働く東都新聞社会部に差出人不明のファックスが届く。内容は一枚の羊の絵と、内閣府による大学新設計画に関する極秘資料であった。上司の陣野から調査を任された吉岡は、調べを進めるなかで内閣府の神崎という男にたどり着く。ところが、神崎への接触を試みようとした矢先、彼は自殺してしまう。
神崎の死に疑念を持った吉岡は、上司の制止も振り切り調査を続ける。そこで彼女は内閣情報調査室の杉原に出会う。彼は死んだ神崎の元部下で、彼自身も神崎の死に疑問を抱いていた。
「なぜ神崎は自殺しなければならなかったのか?」
相対する立場の吉岡と杉原の2人は、この疑問の真相にたどり着くべく、動き出す。
2.ぐすたふの「ここを見て!」
主人公のシム・ウンギョンは韓国出身のため、日本語のイントネーションがナチュラルとは言えません。
(映画の中では、日本と韓国のハーフ&アメリカ育ちの設定です)
そのため、個人的には、なかなかセリフからは主人公の感情が伝わりにくいな、と感じたりもしました。もう少し抑揚あってもいいんじゃないかな〜と勝手に思ったり…。
そんなシム・ウンギョンの演技で「素晴らしいな」と感じたシーンが、父の遺体と対面し号泣するシーン。
父の遺体を直視できない、現実を受け止めきれない、でも現実が目の前にある、という主人公の混乱と悲しみが、鮮烈に表現されていました。こちらも目頭が熱くなってしまいます。
「演技」って一言で言っても、色々な要素で構成されているんだなぁ、と映画をよく見るこの頃はとても強く感じます。セリフだけじゃだめ、表情だけじゃだめ、仕草だけじゃだめ。反対に、セリフに違和感があっても、表情が物語る、仕草が醸し出す、ということもあるわけで。演技という仕事は、本当に奥が深いんだろうなぁ。
もう一つ「ここを見て!」を挙げるとしたら、横断歩道越しに吉岡と杉原が見つめ合う最後のシーン。ここの松坂桃李演じる杉原の表情を見て!
深く暗い目の下のクマと、精気の感じられない目、力の入らない口元。この表情が本当に素晴らしい。杉原が乗り移ったのか!?と思えるほど。う〜む。
メイクでより印象的に仕上げているのかもですが、だとしたらメイクも素晴らしい。光の加減具合も素晴らしい。あらゆる要素の相乗効果が本当に本当に素晴らしい。
今回の「ここを見て!」は、日本アカデミー賞を受賞した主演の二人の、ワンダフルなシーンでしたとさ。
3.ぐすたふのひとりごと
この映画を見て感じたのが「私もっと積極的に社会を知りたい、進んで勉強しなきゃ、現実を疑う目線も持たなきゃ」という焦りでした。
政治的事件が発生すると、どこかの議員の秘書が自殺されたりするじゃないですか。テレビでそんなニュースが流れている間は、可哀想、どうしてなんだろう、とか思ったりするんですが、発端となる事件の詳細やその経緯を追うことなどは、恥ずかしながら、したことがなかったんです。そもそも中学で勉強したはずの選挙制度や内閣の構造自体もあやふやで、税金の使われ方・議員の給与や手当の詳細の把握なんてもってのほか。
私、何にも知らないんだな、と。
私が政府・内閣に対して疑問を持つことがあまりないのは、目に見えるかたちで自分が明らかな被害を被ったという実感がまだないから(消費税増税は嫌だな、と思いながら、払いきれないわけではないというところで受け入れてしまっておりました…でも年金制度はふざけるな、と思ったり思わなかったり笑)。
そして何より、私が生まれた時から日本政府は存在していて、政府(議員)が政治を回しているのが普通で、政治は国民のために、善であるということを前提に行われているのだ、という思考だったから。もともとあるものを疑うのって、とても難しくないですか…?
でもこの映画で改めて思い知らされました。
「内閣」も私と同じ人間の集まり。欲や嫉妬や柵や人間関係があるのだということを。それによって、時に政治が歪んでいるということを。
だからこそ、自分の目で、耳で、頭で、きちんと情報を確認して、私自身が判断していかなきゃいけない。じゃなきゃ、マスコミが報道するかたちでしか、物事を見定められなくなってしまう。
人間社会が発達したから「内閣」という組織や制度ができた。発達したからマスコミという情報機関ができた。ただそれを作っているのは、特別進化したわけでもない私たち「人間」だ。だからこその脆弱性を常に心に留めておかないといけない、と思う。
(日本政府は絶対におかしい!歪んでる!と言っているわけではありません。おかしくないかな?と常に問う姿勢が大事だということです)
ちなみにwikiによると、シム・ウンジョンが主演に抜擢された理由は、反政府のイメージがつくことを嫌い、日本の女優のなかでこの役を引き受けてくれる人がいなかったからだとかなんとか。
ふーん…。
真実の見極め、なかなかいきなりは難しいな。