三項関係

ただ、淡々と「人は信じて良いかもしれない」を学習する

「誰も信じられない」
「自分のことを信じてくれる人はいない」
「だから生きている意味がない、死にたい」

僕は、精神科病棟で働いていたのだけど、
こんな風に生きづらさを抱える人が精神科病棟には多く入院していました。

そんな苦しみを感じている人たちとの精神科病棟での入院中の対話の中で
僕が大切にしていたことを改めて書いてみようと思う。


人を信じられないし、自分のことを信じてくれる人もいない、

そう思っている人が多かった。


だから僕は、
ただ淡々と、「自分たち医療者は味方なんだよ」というメッセージを色んな側面から発して、

患者さんの心の中に

「人を信じても良いかもしれない」

そんな風に「誰も信じられない、信じてくれる人はいない」という確信を持っている信念に、揺らぎを与えることを、意識して関わっていた。


これまで何度となく、家族や友人、会社の人たちから責められたと感じて、

「誰も信じられない」
「人は攻撃するものだ」
「だから自分を守らなければいけない」

そんな風に頑なになっている患者さんが多かったから。


医療者がアドバイスをしたり、指摘したりすると、それを「攻撃」に受け取ることもよくあった。

入院している患者さんと接していると、

薬を飲まない、課題をやらない、自傷行為をする、怒鳴る、暴力を振るう、ルールを守らない、などなど

医療者にとって様々な困りごとが精神科病棟ではよく起こります。


そんな時、ついつい医療者はその問題行動をやめさせようとする流れに進みたくなるんです。

だって、こういう出来事が起きると、医療者であっても心が揺れてしまうから。
それが人情というもの。
なるべくスムーズにいってもらいたい、そんな風に思っているときに、そうじゃない事が起きる。これは医療者であってもやっぱりビックリするから。

けど、その医療者にとっての困りごとは、患者さんから発する「辛さのサイン」だと受け取って、

「なぜ、どうして、こんなことが起きるのだろう」

そうやって患者さんの見える「行動」だけじゃなく、その裏にある思いや気持ちを考える事が大切だと思い、

一旦自分の心が揺れた時、もう一度その裏にあるものを冷静に考えて、関わっていました。

考えすぎだと言われることもあったけれど。

けど、考えすぎなくらい考えないと、きっと患者さんのことは分からない。

そんな簡単に患者さんのことが分かるなら、そんなに分かりやすいなら、きっと入院するくらい苦しんでないはずだから。


患者さんの過去の話を聞いていると、人から否定されることが多かったというエピソードをよく聞く。

そんな風に否定されたと感じることが多い患者さんは、

医療者が患者さんのことを思ってする指摘やアドバイスであっても、

患者さんが起こす問題行動と見える行動をやめさせようとすると

この図のような「二項関係」となり、

患者さんが対立構造と受け取ってしまうことがよくありました。

「ルールを守ろう」=「自分の辛さを否定された」=「この人は敵だ」
「薬は飲まなきゃいけない」=「自分の辛さを否定された」=「この人は敵だ」
「自傷行為はやめよう」=「自分の辛さを否定された」
=「この人は敵だ」

患者さんのことを思って話しているはずなのに、「医療者は敵だ」と感じさせてしまう対話がよく起きていた。


だから、

「患者さん」VS「医療者」の二項関係の構造を

「患者さん&医療者」→「現象」の三項関係の構造にしていく。

「課題をするのって難しいですよね、どんなものだったらできるか一緒に考えて生きませんか」
「自分を傷つけるくらい辛かったんですよね、どんな気持ちが強いときにそうなりやすいか教えてくれませんか。」

のような、その現象を一緒に解き明かしていこう、一緒に対処していこう、分からないから教えて欲しい

そんな思いで。

医療者は敵ではない → 人は信じてもよい
現象は否定しなくてもよい → 自分を否定しなくてもよい


そんなことを学んでいく機会になればとか変わっていました。


最初は、僕のことを信頼してくれることに注力しながら、関わるのですが、

そうして信頼されてきて気持ち良くなってしまいすぎていると、

「こんな風に自分を否定しないで、一緒に取り組んでくれた人はいない」

のような発言が出ることもあります。


そうすると、

お、これはマズイマズイ、信頼はされているけれど、逆に危ないサインでもあるなとも思うわけです。

「この医療者は信頼できるけど、ほかの医療者は信頼できない。」

そんな風に、新たな二項関係を強固にすることになるから。


自分のことを信頼してもらえてきたら、

「少しずつ他の医療者とも練習していこう」という話を患者さんにしながら

他の医療者にも協力してもらい、


「あれ、他の医療者のことも信じていいかも」

そんな風に、

1人から2人へ、3人へ

そして、
大きなくくりで「医療者」は自分のことを攻撃しないのかも、信じてもいいのかも

「病院」に行けばもしかしたら大丈夫かもしれない

そんな風に、患者さん自身の「人は信じられない、信じてくれる人はいない」を少しずつ揺らしていく。

少しずつ人を信頼する練習をしていく。

そんな風に関わっていました。


今までずっと人を信頼できないと思っていた人が、1回の関わりや入院で全てが良くなったり、人を信頼出来るように激変することはないと思っています。

もし、激変したのならば、それはきっと何か無理をさせているはずだから。

少しずつ、無理しないで、少しずつ良くなっていく、けど確実に良くなるから、そう思って関わってくことが、

人を信じることができることにつながると信じて。

ただ、淡々と三項関係の練習を。

ただ、淡々と人を信じるためのきっかけを。

それが日常生活での誰かを信じるためにする行動につながると信じて。

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SAKAMO | 坂本岳之
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