「なぜトランプが支持されるのか」という記事が、わかりやすく面白かった

「トランプは政治的病の原因なのではなく、アメリカの政治的病の結果」だとすると、トランプが台頭した原因である「アメリカの政治的病」とは何なのか。

※全三回の記事だけれど、今のところは二回まで掲載されている。細かいところでは異論もあるのだけれど、大枠はこの通りだなと感じた。

 これ自体は読めばわかるが(ここまでわかりやすくてまとめられていなくとも)以前からポピュリズムが台頭した原因として上げられてきたことだ。
 さほど長くもないし読みやすい記事なので、興味がある人は上の記事自体を読んで欲しいが、一応自分の理解を要約として書く。

 アメリカの政治は四十年ごとに潮流が変わるサイクルがある。近年では1981年のレーガンの大統領就任によって政治の潮流が変化した。
 ネオコンサバティヴ(ネオコン・新保守主義)と新自由主義である。
 政府は社会や市場になるべく介入しない、大きな政府から小さな政府への転換がはかられる。
 共和党に労働者からの支持を奪われつつあった民主党は、この時期から金融業と台頭してきたIT産業と結びついていく。
 市場を統制しない新自由主義指向によって、国内産業が衰退し、労働力は安価な国外に求めるようになり、格差が広がっていった。
 そこにリーマンショックが追い打ちをかける。
 オバマ大統領はリーマンショックによって打撃を受けた経済構造の立て直しと収拾がつかなくなった世界各地の戦争の収束を期待されて当選したが、期待に応えることが出来なかった(中間層救済策を縮小したり、実施しなかったりした)
 人々が、民主党は富裕層の権益を守り、中下層の人間を顧みず、アイデンティティ政治に走るようになったと感じた結果、自分たちを見捨てたネオコン・新自由主義・小さい政府指向の社会構造を破壊し、一から立て直してくれる人を求めた。
 その結果トランプが台頭した。
 アメリカの民主主義はトランプが破壊するのではなく、破壊された結果トランプが現れたのだ。

 今までもうっすらこういう理解ではあったけれど、 

 カリフォルニア大学バークレー校教授のクリスティーナ・ローマー大統領経済諮問委員会委員長(当時)は、住宅ローン破産に直面した中間層救済のために1兆8千億ドルの経済刺激策を提起したのですが、8千億ドルに減額され、「破産する者は破産させる」ことになりました。
 当時シティバンク頭取だったルービン元財務長官が、マイケル・フロマン(後の通商代表)をメッセンジャーとして送り込み、オバマ政権の人事を思うままにしたことはウィキリークスで暴露されています。
 ルービンの意図をくんだサマーズ(国家経済会議議長)やガイトナー(財務長官)といった経済チームの主要メンバーが中間層救済案を潰してしまいました。この経緯を証言する本などが最近次々と公刊されています。
 トランプ現象の背景を考える時に最も重要な出来事だったと認識されているからです。

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー/太字は引用者)

 こういう細かい経緯と、それがどんどん暴露されていることは知らなかった。

 スタンレー・グリーンバーグという民主党の古参の選挙戦略家も2019年の著書でオバマ政権時代の中間層崩壊を描きだしました。それに反発して「フェイク」だとの批判が出たので、フェイクニュース調査組織「ポリティファクト」がグリーンバーグは「正しい」と結論づける報告を出しました。
 連邦準備金制度理事会(FRB)のデータを基に、2007年から16年までの所得階層別の保有資産を調べたところ、上位10%だけが27%富を増やしたのに対し、他はすべて損失、特に真ん中(40~60パーセンタイル)の層は70%もの資産を失っていました

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー/太字は引用者)

 世界各国の経済格差を調べたトマ・ピケティらのデータベースでも、アメリカではオバマ政権時代に上位1%の資産が全個人資産の36%に達し、救済されなかった中位層以下はリーマン後に大幅に資産を減らした実態は明らかです。
 ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、W・バフェット3人の資産だけでアメリカ人下位50%の資産合計額に並ぶ、すさまじい不平等です。

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー/太字は引用者)

 新自由主義を唱えて、不法移民を安価な労働力として受け入れ、国内産業は守らず安価な外国に移転させて、格差はどんどん広がりつつある。見捨てられた中間下層の人々が声を上げると、富を独占しているエリートたちが「それは差別だ」と糾弾する。
 現状、アメリカで起こっていることはこういう見方もできる(この記事によれば、その構図が厳然たる事実である、ということになる)


 移民推進のエリートが住む東西の海岸沿いの州に、南部国境州の知事が不法移民をバスで送り込み、多くの庶民が拍手喝采しています。

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー/太字は引用者)

 このニュースを見た時、こんな子供っぽい意趣返しがなぜ支持されるのか不思議だった。
 ニューヨーク市は不法移民の保護施設が溢れかえって、財政をかなり圧迫しているというニュースを見たことがある。

「金持ちのエリートがどこまできれいごと(というより、低賃金で労働を押し付けるために不法移民を受け入れているというなら欺瞞)を保てるか見てやろう」
 そういうことだったんだなと思った。

 これで民主党が「それでも自分たちに正しさがある」と言うならわかるが、現実はこうである。

 バイデンが関税政策やインフラ投資で、かなりトランプと重なる政策を推進しているのは、トランプ路線でなければ中間層は納得しないとわかっているからです。
 民主・共和の支持者で意見が割れていた移民問題でも、バイデンはトランプと同様に規制強化を言い出しました。票が取れるからです。

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー/太字は引用者)

 結局、トランプの「アメリカファースト」を批判しながら、民主党も同じ政策を取らざるえない。
 これはUSスチール買収問題でも感じた。

 ペンシルべニアで大票田を敵に回すわけにはいかない、という現実的な判断である。
 どんなに理想論を口にしても、現実を無視するわけにはいかない。というより、不法移民の問題も環境ビジネスも道徳だけで推進しているわけではない。

 1990年台初頭に約350万人だった不法移民の滞在者数は、クリントン時代に激増して1千万人台に達し、今も1100万人程度います。
 法の適用外なので最低賃金すら支払われず、いくらでも使い捨てできる底辺労働力としてアメリカの資本主義を支えています。

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー太字は引用者)


 ところが自分たちが自分たちの「現実」を口にした時だけ、道徳によってのみジャッジされ糾弾される。

 ヒスパニックや下層階級にトランプ支持が増えているのは、自分の職と賃金が脅かされているからです(略)
 それを「人種差別主義者」と叩くのが、警備付きの高級住宅地に住む富裕層エリートで、多くが民主党支持者です。トランプ現象を左右の分裂と捉えるのもまやかしで、起きているのは上下の間、金持ちエリート層と中間層以下の大衆との分裂なのです。

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー/太字は引用者)

 普通の国なら革命が起きますが、アメリカ政治もマスメディアもエリート層が完全に抑えているため、庶民は救われないままでした。
 そこに自分たちの声が届きそうな大統領が現れた、と多くの人々は思ったのです。
 高関税に不法移民規制と貿易保護主義、産業政策で国内の製造業や従来型エネルギー産業を立て直し、インフラ投資して雇用を生み、外国との戦争ではなく国内に予算を使うとするトランプの主張(トランピズム)は大衆に支持されています。

(引用元:「なぜトランプが支持されるのか」会田弘継氏インタビュー/太字は引用者)

「なぜトランプが支持されるのか」の内容に多少疑問もあるし、自分と少し考えが違うと思う部分もある。
 また書いてある内容自体はとてもわかる部分もあるが、それを踏まえてもトランプはないだろうという気持ちが強い。
 中国に60%の関税をかけると言っているが、そんなことをしたらまたインフレになるのでは、今の状況でもう一度ソレイマニ殺害のようなことをやったらどうするつもりだ、今度こそ大規模な戦争になるのでは、など現実的な部分でも疑問がつきない。

 ただ一点この記事が本当にその通りだなと思うのは、結局誰もが自分の利益の配分しか考えていないのに、そのことをあたかも倫理や道徳の問題のように糊塗する……政治を善悪で語ろうとする欺瞞は分断を生む。
 ましてや自分に都合の悪いことは捨象して、自分の都合のいい枠組みで相手の人格に責任を押し付け糾弾するということは回復不可能な対立を生む。

 トランプのような人物を台頭させないためには、「相手と自分が対立しているのは、お互いの利害が異なるせいでそれを調整しなければいけない。それが政治なのだ」という基本を忘れないことではと思った。

 そうしなければ「11月の大統領選は神にでも祈るしかない」という気持ちを今度は日本で味わうことになりそうだ。


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