「大造じいさんとガン」のストーリー解釈と「タニシを集める養女の夢設定」への感想を語りたい。
めっちゃなつかしい。
自分もこの話が凄く好きで「今まで勉強した国語の教科書の物語の中からひとつを選んで、絵を描きなさい」という課題で、残雪とハヤブサの戦いのシーンを描いた。
「残雪」という名前に、当時から「カッコよ」と痺れていた。リアル中二になる前から厨二だったのだ。
という思い入れがある話なので、思い出しついでに自分の解釈を話したい。
※解釈違いが許せる人だけ読んで下さい。
自分の記憶では「羆嵐」のような自然の象徴的存在と一人で向き合う、という筋立てだと思っていたが(ン十年ぶりに)読み直したら違った。
先にこの部分から説明すると、自己の輪郭を知ることを目的として何かと対峙する話は、基本的に「社会」という枠組みを外さないと(第三者が存在すると)成り立たない。
だから必ず一対一の関係に収斂する。
「羆嵐」の銀四郎も一人で戦いを挑むし、世界と対峙する「イントゥ・ザ・ワイルド」(凄く好き)も「ノマドランド」(これもめちゃ良かった)も、引き留める他人(社会)を振り切って一人で旅に出る。
この類型の話は、厳密には対峙する相手も「自己」であり「世界に自己しか存在させないことによって、自己を感じ知ることができる(それを目的としている)」という造りになっている。
「大造じいさんとガン」がこの類型の話である場合は、上記の棘内にある「タニシを拾う養女の夢設定」は成り立たない(もしくはタニシ養女の設定が成り立つのであれば、「大造じいさんとガン」という話が存在しなくなる)というのが自分の考えだ。
「夢」というジャンルの成り立ちが、「原作世界の中に仮説的な存在を登場させることを楽しむ」というものだとすると、原作ストーリーの原理が何であるかというのは他の二次創作(妄想)以上に重要ではないか、と思った。
詳しくないので違ったらスマンが。
ただ、である。
読み直して気付いたが、「大造じいさんとガン」は自己対峙の要素を含んでいない。
ガンの頭領である残雪は、大造じいさんにとって「完全な他者」だ。
ハヤブサとの戦いで傷ついた残雪を、大造じいさんは助け面倒を見る。元気になった残雪は檻から出されると、大造じいさんに何の反応も示さずに「一直線に」空に飛び上がっていく。
ストーリーを読むと、残雪が「大造じいさん」という存在を認識している描写が一切ない。
物理的にも精神的にも、大造じいさんが残雪を一方的に思い、追いかける関係だ。
恋愛に例えるなら、大造じいさんの片思いである。
この話を一対一の関係に収斂させるためには(大造じいさんが残雪を振り向かせるためには)大造じいさんが残雪を閉じ込めたままにしておかなければならない。(物理的に、もしくは精神的に拘束しなければならない)
そうすれば残雪は、嫌でも大造じいさんという存在を認識せざるえないからだ。
「ベルセルク」でグリフィスがガッツにやったことはこれである。
しかし大造じいさんはグリフィスとは違い、残雪を解き放って終わる。(そうでなければ小学校の教科書に載らないだろうが)
話を戻すと、「大造じいさんとガン」は大造じいさんが残雪という他人(鳥)を一方的に思い追いかける話だ。他人同士の(社会的な)関係だから、第三者が割り込むことも出来る。
一見似ているように見えるが、「羆嵐」は物語の原理的に穴持たずと銀四郎の間に他人は割り込むことはできない。「大造じいさんとガン」は大造じいさんと残雪の間に他人が割り込むことが出来る。
こういうベースとなる構図の違いに、読み直して気付いた。
自分は「タニシ養女」のような一対一の濃密な関係に割り込む立ち位置のキャラが大好きだ。
「タニシ養女設定」がいいなと思うのは、子供であるところだ。
文章を読んでも、振り向いてもらう確率がなくともただひたすら一途に大造じいさんを思う殊勝で健気な設定になっている。だが実際の行動を見ると残雪を捕らえるためのタニシを集めたり、猟銃を練習したり、二人の間に割り込む気満々である。
あたかも片思いの彼女に何をプレゼントしようか悩んでいる男のために、「これ渡したら喜ぶと思うよ」と笑顔でプレゼントを用意する幼馴染みキャラ(偏見)のようだ。
しおらしく健気に振る舞っているが、何を考えているのか、何をやり出すかわからない。そんな怖さがある。
隙あらば残雪を狩ろうとしているのではないか。
ところでタニシ養女は、大造じいさんが一時的に残雪を保護していた時は何をしていたんだろう。気持ちを押し殺して、毎日毎日タニシを捕ってきたりなど面倒を見ていたのだろうか。
タニシ養女は大造じいさんと残雪と三人で暮らしていた時、何を考えてどう過ごしていたんだろう。
このままだと、鈍感大造じいさんを間に挟んだタニシ養女と残雪の壮絶な愛憎劇を三次妄想してしまいそうだ。
その前に「タニシ養女夢設定」の原作(?)が流れてこないかな。