話題になった、令和6年4月11日 岸田首相の米議会両院会議演説全文を読んだ忌憚のない感想。
*タイトル通りの忌憚のない意見です。
自分は政治的にはいわゆる無党派層で、心情としてはやや左よりの中道だ。今の日本の政治におけるボリュームゾーンの一人だと思う。
そんな自分が話題になった↑の岸田首相の演説を読んだ感想。
一番思ったのは、次の大統領選ではトランプが返り咲く可能性が高いと考えているんだなということだ(正確には返り咲くことを最も危険視しているんだなと思った)
演説の内容が「世界の安全保障において米国が大きな犠牲を払って損をしている。これからは無償奉仕ではなく取引(ディール)をする」というトランプ(とその支持者)の世界観が前提となって作られているからだ。
「米国はノブレス・オブ・リージュを果してきた、そのためにずっと犠牲になってきた(損をしてきた)」という米国像に「(それは米国の妄想ではなく)日本もそう思っている」という承認を与えつつ、その像に向かって「損をさせませんよ」と言っている。
今、問題になっているUSスチールの買収も、トランプは自分が大統領であれば成立させなかったと言っている。
大きな票田である労働組合が買収に反対しているので、バイデン大統領も否定的な見解を示しているけれど、今回の会談では直接的には話題に出していない。
この問題にも演説の中で言及している。
わざわざ製造業を名指しして雇用を生んでいるというのは、買収しても雇用や年金を保障する、買収を認めてくれれば米国に今後も投資が増えるというメッセージだと思う。
名称を出していないだけでほぼその話をしている。
それ以外は米国の……特に保守層が持ちたいと望んでいる「強く正しいがゆえに世界のために犠牲を払ってきた米国」という幻想を称賛しているだけの文章だ。
「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国」から始まる「グローバル・パートナー」の項は、正直読むに堪えなかった。
現在のガザの一件を見るだけでも、米国が自国の利害で動いているだけということは多くの人は分かっている。
だからいざ、グローバル・サウスの国々の支持が必要になった時に、欧米も中露も信用できないのは大して変わらない、まだしも中露のほうが望んでいるものが露骨なだけ信用できると思われる。
*エマニュエル・トッドの言うことは賛成しかねたり、ちょっと極端じゃないかなと思うこともあるけれど、「欧米が世界に好かれていないということに今さら気付いて驚いていることに逆にビビる」(意訳)という意見には賛成である。グローバルサウスの国々のことを書いた本は、何を読んでも根底に欧米への不信感がある。
演説を読んで、これが今の日本の立ち位置なのかと思わされ情けない気持ちになった。まあわかってはいたけれど。
心情的な情けなさを別にしても、こんなに米国一辺倒の立場を鮮明にしたら、他の国と信頼関係が築きにくいのではないかということが気になった。
一番気になったのは、中国を名指しで批判していることだ。
中国が(というより習近平政権が)信用できるかどうか、信用するかどうかはともかく、それを明言する必要はない。
米国に対して旗幟を鮮明にすることに効果がある、とは思うが公的な場で国名を出して批判するということはなかなかない。(ロシアや北朝鮮のように明確に非難される行動をしている国ならともかく)
言い方にしても、日米の脅威と言うより「世界全体の害悪」のようなニュアンスがある。
ドイツやオーストラリアは中国との関係改善に動いているのに、こんなに前のめりに米国に追従して大丈夫なのかな。
名指しでここまで批判するのは何故で、どういう効果を狙っているのか、中国の心象がどこまで悪化するのか、ということが知りたいと思った。
国際政治や今の世界情勢に知識がある人で、単純に効果としてどうか、どういうことかを政治思想の偏りなく説明してくれる人がいるといいんだが。
そういう人を見つけるのも大変なんだよな。
◆まとめ
自分も日本に住んでいる人間の一人なので、外交に関しては端から見たらどれだけ「?」と思うようなしらじらしいことでも、必要であれば面の皮厚く言える人が首相であるほうがいいとは思う。(あくまで外交に関してだが)
日本の現在の立ち位置はこういうものであると思うし、そうであればその現実に基づいて振る舞うしかない。
ただ、そんなはっきりと米国を取ると公の場で明言しなくともいいのでは、という気はするけどな。どうなんだろう。