「石丸現象」はなぜ起きたのか。
前回の記事は前段で、ここからが本題(長い)
「なぜトランプが支持されるのか」を読んで、先日東京都知事選で起こった「石丸伸二が二位になった現象」も雛形は同じなのではないか、と感じた。
石丸二位の要因については「投票した人がショート動画ばかり見ている、複雑なことが理解できない無知で騙されやすい詐欺にすぐに引っかかりそうな、無責任で公共のことなど何も考えない人間だから」という論調しか見ることがなかった(観測範囲の問題かもしれないが)
つまり「投票した人たちの特性に要因を見出す説」ばかりだった。
165万8363人もの人が投票したにも関わらず、誰もこの現象を社会構造を加味して考えようとせず(ド直球に言えば)「投票した人間がアホだから」で終わらそうとしている。
石丸伸二が165万8363票も取ったことよりも、だんだんそのことを不可解に感じるようになった。
石丸伸二に投票した属性については、若い世代が多いということ以外に男性が多いという特徴がある。
NHKの調査では女性は小池・蓮舫・石丸の順の得票数になっている。
では「投票した人の特性論」に合わせると、女性よりも男性のほうが「ショート動画ばかり見ている、複雑なことが理解できない無知で騙されやすい(以下略)」という特性を備えた人間が多いのか。
そんなことはないと思う。
「なぜトランプが支持されるのか」を読んで、トランプ現象と同じで石丸伸二現象の背景にも投票した人の中に既存の社会構造への危機感があるのではないかと感じた。
「絶望的な行き詰まり」と「それを打破して欲しい」という気持ち、もっとはっきり言えば「とりあえず壊して欲しい」という気持ちがあるのではないか。
アメリカの場合は「壊して欲しいもの」は、「ネオリベラリズム、ネオコンサバティブを体現した小さな政府指向の社会構造」であり、トランプ支持者は「大きな政府(保護主義)」への回帰を望んでいる。
日本の場合は逆である。
生まれるときから住んでいると色々と不満もあるが、日本は基本的には社会保障が手厚い。過去には「最も成功した社会主義国」という言われ方をすることすらあった。
だが現在は負荷が大きくなり、破綻も見えてきている。
負荷が大きくなった手厚い社会保障によって割を食わされる……そう感じやすいのは誰か。
若い世代である。
将来年金が受け取れるのか、医療保険は現行のまま存続するのか、結婚はできる(する)のか、子供を持つか(持てるか)わからない、それなのに社会保障の負担を負わされる若い世代が、その構図に反発……が言い過ぎならば違和感を持ってもおかしくはない。
さらに言えば、他の社会構造を加味せず社会保障自体だけを見れば男性に対する差別が残っている。
自分も見直しのニュースを見るまで制度の内容を余り知らなかったので驚いたが、女性は子供がいなくても配偶者がなくなった時点で30歳以上であれば生涯遺族年金が受け取れる。男性は受け取れない。
日本は「夫が主たる収入源で妻はそれを支える」という家族のモデルケースによってほとんどすべての社会設計がなされているが、それにしても凄い差だ。(改正されるが)
現在「男性差別ではないか」という訴えによって裁判が行われている。
社会におけるジェンダー格差が解消されつつあるのに(もしくはそういう意識を持っている世代が)なぜ社会の基本設計だけ依然として「男が主たる働き手として大黒柱になること」が前提とされたままなのか、そこに疑問を持ってもおかしくはない。
仮に若い世代(特に男性)の投票行動の中にこういった動機が潜在的にでも含まれているのであれば、社会における世代間格差、不平等をまったく加味せずに捨象して選挙について論じる……しかもその社会構造への違和感を表明する投票行動を、あたかも人格的欠点や能力や知識の不足のようにあげつらう言動に対して強い不信感を持つと思う(自分だったら持つ)
社会保障の恩恵を十分受け取れる層……もしくは現在のような社会構造を放置していた層が、若い世代からは既得権益層に見える、そしてその不平等について声を上げたら、自分たちがあたかも人格的道徳的知識的に劣っていることが要因のように言われる。
アメリカの分断の原因がそっくり再現されている、と自分は感じた。
石丸伸二の公約動画を見た感想を聞かれても「内容がなさすぎて何も言えない」としか言いようがないが、唯一思ったのは、基本的に公的サービスの縮小(合理化)を考えている、小さな政府指向なのだなということだ。
若い世代(特に男)は、自分たちが大黒柱になることを前提にしている、現在の日本の社会主義的な大きな政府指向の社会構造に疑問を持っていて(自分たちが犠牲になっているとうっすらと感じていて)これを何とかリセットしたい、少なくともそれをコンパクトで効率的にしてくれる人間を求めているのでは、というのが自分の考えだ。
日本は世代間(性別間)で利害や認識が異なっていることが政治的な対立を生みやすい。
それは善悪でも上下でも知能の優劣でもなく、利害の対立なのだ。
それを認めなければ、欧米の状況から今言われていることから、何も学んでないないか、ひょっとして都合が悪いから忘れたフリをしているのでは(←これは自分も凄く不思議なのだが)と言われても仕方がない。
そういう欺瞞が分断を生むんじゃないのかな。
◆余談
社会保障の配分としては、若い世代(十八~二十代)への給付を手厚くする方向に転換するべきだと思う。
トマ・ピケティが「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」の中で資産への累進課税を主張している。
20万ユーロ(約2400万)以下は0.1%、それ以上には段階的に累進課税していく。
そしてその税収(資産)を若い世代に再分配する。
これだといわゆる「親ガチャ」による教育格差を部分的に解消できる。
支給されるのが二十五歳であれば、親に使われたり他人にだまし取られるリスクも減る(この辺りは義務教育に知識を組み入れたり、対策が必要だとは思うが)
後々まとまった金額が入るのであれば、奨学金も借りやすいし、親も教育資金の問題に頭を悩ませなくていいから、少子化の解消にもつながるのではないか。
自分も固定資産税や自動車税を払うときは憂鬱な気持ちになるが(なるけど)仮にこういう使われかたをするなら税率を上げられても賛同する。
自分は(おそらく)平均よりは社会主義寄りの考え方の人間なので、こういう政策を実現可能なまでに具体化して掲げるところが出てきたら投票すると思う(他の問題との兼ね合いもあるが)
ありとあらゆる手を打って、若い人に、移民の人に、子供に、自分たちの社会を選んでもらわなくてはならない。
そのために社会の根本の設計から見直す、そういう人が出てきてくれればなと思う。