見出し画像

「SIBLINGS」の感想

 以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。




前提

  • Ver.1.0.11でプレイ。

  • ノーマルモードでクリア。



感想

受け特化の「SEKIRO」ライクゲーム

 「SEKIRO」に影響を受けていると思われるゲームだ。

 純粋なアクションゲームというわけではなく、「WOLF RPGエディター」を使用して製作されたゲームということもあり、RPG的な部分もある。

 プレイヤーはマップ上で主人公を動かすことになり、敵シンボルと接触すると戦闘になる。とは言え、一般的なRPGとは異なり、敵シンボルは動かないために、自ら接触しなければ戦闘にはならず、マップも基本的には一本道であり、(おそらく)探索などの要素も存在しない。

 単に、戦闘と戦闘間での操作(TIPSの確認やセーブ、設定変更など)のために存在している形で、事実的には敵(ボス含めた)と戦闘をラッシュするような構造である。


 戦闘に入ると、ビハインドビューに近い画面構成になっており、手前に主人公がおり、中心に敵が描かれている。

 そこで、主人公は2つの行動が選べる。一つは『斬撃』で、一つは『整える』だ。前者は攻撃で、後者は自身の体幹を回復させる。これは単にコマンドを選ぶだけで、すぐに効果が処理される。

 すると、敵が動いてくる。

 敵の動きはアクションゲーム的になっていて、リアルタイムで動く。その攻撃のタイミングに合わせて、防御をしたり、回避を行う。タイミングよく防御すると、弾きになり、相手の体幹が削れる。

 つまり、本作の戦闘は、「SEKIRO」から防御系統(の一部)を引用した形で、シンプルに概念化された戦闘システムを持っている、という形だ。

 ラスボスを倒すとクリアになる。



「SEKIRO」からの引き算

 上述したように、「SEKIRO」をベースとして、色々と引かれている。

 まず、位置関係が存在しない。

 移動をして回避をするようなものは、タイミングよく対応した方向キーを押して回避、という形にデザインされており、距離関係を測る必要はない。

 次に、攻撃系統が存在しない。

 『斬撃』という選択があるものの、基本的にはこれを選ぶことになり、事実的には『斬撃』をしない代わりに『整える』ことができる、というべき設計になっている。つまり、基本的には相手の攻撃を弾くことに焦点が置かれており、必殺技を連打したり、ヒット&アウェイを繰り返す、というような逃げ道は塞がっている。

 最後に、体力も回復しない。

 体幹は『整える』で回復することができるものの、体力を回復する要素は存在せず、単に失敗が蓄積されていく。

 結果として、かなりシンプルにはなっている。しかし、それゆえに雑味がなくなっているとも言え、個人的には好きな実装だった。

 一般的に、ジャンルを定義するようなゲームが生まれた場合、そのフォロワーは、そのゲームから『足す』か『掛ける』ことを選びがちだ(○○×△△というゲームがいくつ世の中にあることか……)。しかし、それゆえに、元祖が持っていた良さを消してしまうことがほとんどで、そんなフォロワーを追っていても満足できないことは多いだろう。

 本作は、『引く』ことによって、元祖の一側面をこれでもか、とばかりに強調しており、その部分に面白さを見出していたプレイヤー(筆者含む)にとっては、とても満足できるものになっている。



ターンベースにするメリット

 ゲームエンジン上の都合もあるのかもしれないが、本作は一応、ターンベースのゲームになっている。相手の攻撃はリアルタイムで行われるが、主人公の行動は好きなだけ止めて置くことができ、その間に敵が攻撃してくるようなこともない。ターンベースではある。

 たとえば、本作の戦闘を完全にリアルタイムにすることは、構造上は可能だろう。『整える』は、たとえば、その間、何もできないアクションとして実装を行い、後は単に敵が攻撃してくるのをひたすら受ける、という形にもできる。しかし、そうしていない利点があるように思えた。

 まず、本作は上述したように、かなり防御系統に寄せた設計になっている。相手の攻撃を上手くいなす、という所に焦点が合っており、たとえば、こちら側が何らかの必殺技を打つ、というようなこともない。相手の攻撃を上手く受け、耐えるだけだ。

 その中で、ちょっとした選択だけでもプレイヤーに委ねられていることによって、制御感が生まれていると感じた。いつでも一呼吸置くことが出来ることで、相手に翻弄されるだけではなく、こちらが制御できる範囲もある、安全圏が存在する、という心理的な効果がある。

 また、攻撃の区切りがはっきりとし、パターンが理解しやすくなる、という点も大きく感じられた。

 本作は、ビハインドビューを使用しており、相手の危険な攻撃に対して、上手く回避ができたのかどうか、という点が比較的わかりにくかったりする。それらを落ち着いて確認できるし、技の区切りが明確であるから、この攻撃にはこういう対処法、その攻撃にはそういう対処法、という組立がしやすく感じ、わかりにくさによる死が避けられている、と感じた。



他の作品との比較

 ここでは、筆者がプレイした他の類似作品との違いを考えたいと思う。

 まず、「SEKIRO」に関しては、上述したように(3Dの)位置関係、攻撃系統がなくなっている、という点が大きいと思われる。これは密接に関係していて、こちら側の行動がリアルタイムではなくなっているので、攻撃の系統の設計が制限されるし、位置関係がないのも大きな制限となっている。これらをカットしたのは英断と言え、本作の強みとも言えるだろう。ただ、位置関係という複雑性が薄れている、という点は大きく、本作はより、音ゲー(リズムゲー)の系統に近いと言える。単発的なノーツがランダムで流れて来て、それに上手く応えていくという感覚には確かに近い。

 では、音ゲー(リズムゲー)とは何が大きく異なるかと言えば、一番はその中でも対処に自由度がある、ということだ。(デザインによっても異なるが)基本的に音ゲーは、Aを要求されればA、Bを要求さればBをタイミングよく押す必要があるだろう。本作の場合は、対処法に自由度がある。弾き以外にも、構えで受けることができるので、タイミングが苦手な攻撃はそれで受けることもできる。攻撃によっては(理解が間違っていなければ)弾きや構えではなく、回避することもできる(と思う……)。出てくる指示に従うというよりは、特定の組み合わせに対し、自分が最適だと思う対処法を組み立てるという遊びが存在するのだ。

 また、事実的な一本道という意味では、「Sifu」にも近いと言える。こちらは格ゲー的な攻撃系統が用意されているので、その点は本作と大きく異なる。また、一本道ではあるものの「Sifu」は探索要素や道中の敵、ショートカットも重要な要素だが、本作は事実的にはボスラッシュ的な構造をしている点も異なる。余談だが、加えて、2ボスが強い、という特徴があるのも気になった。おそらくだが、1ボスはチュートリアルの側面が強いのに対し、2ボスはゲームの基本システムを把握し、身に着けたことを確認するためのボスであり、難度の高さを感じるのではないか、という仮説がある。(「SEKIRO」の場合、葦名弦一郎がそれにあたるだろうか?)

 つまり、音ゲーに比べ、対処法が変動し、それを自身で組み立てるような面白さがあるが、「SEKIRO」に比べ、要素が簡素化され、よりゲームの問いに対して、対応していく、という点に重きが置かれている。



鋭敏さから来る楽しさ

 上述しているように、体力を回復する手段(エスト瓶にあたるもの)が存在しない。これは、位置関係が排除されている以上、体力と回復薬の関係のデザインが難しいからではないか、と考えている。

 しかし、相手の攻撃は(流石に「SEKIRO」ほどではないとはいえ)苛烈であり、許容されるダメージ量は相対的に少ないと言える。

 つまり、ミスが許されにくいのだ。

 そもそも、「SEKIRO」ライクのゲームは、対処法の構築と修行の遊びに特化したゲームであると言え、ミスの許容度は低めに設定される。その分、フィードバックが鋭敏になり、この種の遊びの質が高まるのだ。

 その中で、本作の許容度がさらに小さくなった結果として生まれるのは、抜身のような鋭さを持ったフィードバックである。

 不思議なことに、本作では、そろそろクリアできる、と感じた時、実際にすぐにクリアできるようになっている。2ボスやラスボスと言った、トライ回数が多かった敵に対しては、ギリギリ勝てなかった、という感じではなくとも、もう勝てるようになった、という不思議な実感があり、実際にその後に、2~3回しかミスをせずに、勝つことができた。

 つまり、遊びの幅が洗練化されていて、許容度も低いために、クリアできる時には、まるで容易にクリアできるようになっている、という感じだ。自転車に乗るのは大変だが、一度乗ることができれば、何度でも乗ることができる、という感覚に近い、と個人的には感じる。よく『負けに不思議の負けなし、勝ちに不思議の勝ちあり』というが、本作は『勝ちにも不思議の勝ちなし』という感覚であり、それがとても良いと感じられた。

 このような性質を持つゲームは、バランスの調整が難しいと思われ、商業的な作品でもそれに失敗しているゲームは枚挙に暇がない。本作はフリーゲームにも関わらず、調整も優秀であり、とても楽しいゲームであった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?