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「SCOUT」の感想

 以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。



前提

  • 違いがあるかはわからないが、オインク版でプレイ。

  • 2~3人プレイのみ。



感想

手札管理系のゴーアウト

 最近、一定の盛り上がりを見せる手札を上手く制御して、プレイしていくタイプのゴーアウトゲームだ。むしろ、本作がその盛り上がりを作った、と言っても過言ではないだろう。

 ゴーアウトというのは、「大富豪」(ラダークライミング型)や「UNO」(マッチング型)といったゲームに代表されるジャンルであり、配られた手札を他のプレイヤーよりも早く出し切ることを目的とするものだ。日本人に人気のジャンルであり、なじみ深いものだろう。

 本作において特徴的なメカニクスはいくつかあるが、基本的には手札を上手く管理しつつ、複数枚出しを上手く使いつつ、手札をなくすということに焦点を当てていることが大きな点だろう。

 上述のような古いゲームでは、手札を配られたら、基本的にそれで戦い、無理だった時にドローする、というようなゲームが多い。

 一方、本作では、場に出ているカードを獲得するアクション(スカウト)が存在し、それにより、(同時出しがしやすくなることで)手札を強化することができる。また、手札を並び替えできないようにし、組合ではなく、順列(順序性がある)にすることによって、管理要素として成立させている。

 このように、以前の作品がランダム性による影響が大きく、ゲームプレイとしても手なりになりがちだったところを、手札の管理をメインにすることによって、計画性を持たせることに成功したゴーアウトゲームであり、この潮流は「ナナトリドリ」(「ハチトレイン」)のような後発のゲームにも引き継がれていると感じる。



手札管理における各メカニクス

 各要素が綺麗にかみ合っているため、端的に説明することが難しいので、ここで基幹的な要素をまとめて紹介し、それぞれがどのように機能しているのかを考えてみたい。


 まず、各カードは2つの数字を持っていて、それが上下に割り振られている。最初に手札を配られた時に、(各カードではなく、手札全体で)上下どちらかでプレイすることを選び、その後は基本的に向きが固定される。

 次に、上述のように手札の順番は固定となっている。これに意味が生じるのは、複数枚を同時出しする時だ。連番と同数字のどちらかで同時出しができるのだが、この時には隣接している必要がある。連番の時は、昇順・降順のどちらでもいいが、その順序で並んでいなければいけない。

 また、場にカードをプレイする時には、場札よりも強い必要があるが、この時には、枚数>数字の順序で確認をする。詳細は省略するが、基本的には枚数が多い方が強く、同じ枚数ならば数字が大きい方が強い。旧来のゴーアウトにあるように、複数枚出しは同じ枚数の複数枚出しで対応する、というような形ではなく、1枚出しからシームレスに連番や同数字出しに繋がっているということだ。

 加えて、各手番において、カードをプレイしない(できない)場合、場札から一定のルールでカードをもらい、手札に加えることができる(作品名と同じ名称のスカウトというアクションだ)。この時、手札のどこに追加してもよいし、カードを逆にして(逆側の数字を使うようにして)加えてもよい。さらに、各プレイヤーには、『スカウト&ショー』というアクションが1ラウンドに1度だけ使用できる権利が得られており、これを使用することで、スカウトをした後にカードをプレイすることができる。

 最後のルールとして、自分以外のプレイヤーが皆スカウトをして、自身の手番が回ってきた場合には、即座にそのラウンドで勝利する。

 このような形で、プレイヤー数だけラウンドをプレイし、それによる勝利点の合計によって、最終的には勝敗が決まるようになっている。


 これらのルールを見てわかるように、各要素が高度にかみ合わっており、それぞれの良さを引き立てていて、無駄がない。

 まず、それぞれが手札を上手く管理し、それを上手くプレイしていくことに焦点が当たっている。

 同時出しが強い、という前提があった上で、手札の並び替えをできないようにし、プレイとスカウトによって、手札のカードの出し入れができるようになっている。これによって、この部分のカードを早く出しておきたいな、とか、こことここがワンチャン繋がるかも……というような、展望や計画を立てることが可能になっている。

 一方で、(プレイ人数にもよるだろうが)どうしても、カードを出さなければならないような状況もあり、予定が崩れてしまって、それをカバーする必要が生まれたりする。このようなバランスがとても面白い。

 数字が2つ書かれていることによって、ゲーム開始時には、事実的に2つの手札から選べるようになっていて、極端に悪い手札になりにくいようになっているし、自分で選ぶ、という行為が何よりも大切で、その手札(強いてはそのラウンド全体)を受け入れやすくなっている。

 加えて、2つの数字が書かれていることによって、スカウトにより、手札を改善できる機会が増えており、なかなか手札の状況が進展しない、というような状態も珍しい。逆に言えば、プレイする時には、逆側の数字のことも多少は考慮に入れて、プレイする必要がある。

 一方、スカウトばかりやっていても、勝利点的には問題があるし、ちょっとした隙を付いて、他のプレイヤーが上がってしまうこともある。


 これらは、各メカニクスのかみ合わせによって、高度に成立しているものだ。これより足しても引いても、これによりは面白くならないだろう。その軽量さに対して、ゲーマーでも十分に満足できるプレイの重さと面白さがあり、ボードゲームの最大手サイトであるBGG(Board Game Geek)において日本人デザイナーのボードゲームの中で、ランキングトップを取っていることも、ドイツ年間ゲーム大賞(通称赤ポーン)にノミネートされたことも、納得の出来となっている。(軽量級のゲームが過小評価されがちなBGGにおいて、執筆現在、105位とトップ100間近なのは、本当にすごいことだし、徐々に上がっているようなので、トップ100に入るのも遠くないだろう)



順子と刻子の関係

 「ナナトリドリ」は本作をかなり軽量化することによって、よりゲームに親しみがないプレイヤーも気軽にプレイできたり、テンポを爆速にして、遊びやすくした後発作品である、という認識を筆者はしている。逆に言えば、これぐらい思い切った単純化がなければ、本作が収まっている最適解から逃れることはできない、ということのように思う。

 上述した様々なメカニクスにより、これらの違いが生まれているとは思うが、特に、単純でありながらも差が生じていると思うのは、連番の複数枚だしが可能であるか、そうでないか、という違いだ。

 本作では、上述したように、連番の複数枚出しもできるし、同じ数字の複数枚出しもできる。このような関係が「麻雀」の順子と刻子の関係に少し似ているプレイ感を受けることがあった。

 「麻雀」の方は、雀頭がある、というパズル性の違いはあるものの、順子と刻子が許されることによって生まれる作用は色々とあるように思う。

 たとえば、6・7・7・8・8というようなカードの並びになっていた時に、どこで区切って出すのか、あるいは、何のカードをスカウトしてそれをどこに刺すのか、というような選択肢が生まれる。これは割と単純な例ではあるが、考えようはあるし、ここに隣接するカードが増えていった場合には、その選択肢はなかなかのものになる。

 このリスクとリターンのトレードオフ、それぞれの手にどれぐらいのコストをかけていくか、というような感覚は面白いものであり、本作を簡略化する形のフォロワーからは得られないようなものであった。



3人プレイにおけるスカウト&ショー

 3人プレイにおいては、特にスカウト&ショーの権利が上手く別軸の管理要素として機能しているように感じられた。

 スカウトというアクションは、上述のように手札を強化する意味合いもあるのだが、同時に場札が弱化するという側面もある。

 3人においては、2人がスカウトしてしまうと、勝者が決定してしまう。結果として、2枚弱化させてからプレイできる(別の側面で言えば、1枚強化してからプレイできる)スカウト&ショーの権利が重要であると感じ、これをどこで切るのか、というのが手札とは(関連しているが)別軸の管理要素であると感じられて、面白かった。

 また、上述の理由から、スカウトをした場合、次のプレイヤーは必ずプレイしなければならない(勝利条件である自身以外のプレイヤーがスカウトしたという条件を満たしてしまうため)という縛りが事実上、存在することでそれを巡る駆け引きも生じて、好みであった。



2人プレイにおけるプレイ感の変化

 ゲームの特性上、2人プレイは、少し例外的な印象を受けた。

 ルールも少し特殊で、スカウト&ショーがなくなり、スカウトに回数制限が付くような形となる。

 実際のプレイでも、こちらのスカウトは単純に相手に利する、という関係がある上に、上記のような回数制限もあるので、よりパズル性が高いように感じるし、初期手札の重要性も上がっているように思う。

 3人以上であれば、スカウトをすることは、そのオーナーへ点数を与えるという側面もあるが、自身の札は強化されるし、ある意味では場札の処理を他人に押し付けるという側面もあった。

 2人プレイでは、そのような側面は鳴りを潜めてしまうので残念ではあるが、特有の感覚はあるし、少ない追加ルールながら、破綻もしていない。

 また、3人以上では、カードを配り切るので、カウンティングが有効であり、逆に言えば、それをすると有利になる以上、それをしたい、という圧力が生まれるかもしれないが、2人プレイでは未使用のカードが存在するためにそのようなことはない。そういう側面から見れば、ある意味での気楽さがあるようなプレイ感になるかもしれない。


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