「ウォーハンマー40,000:キルチーム」(3版)の感想
以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。
前提
「ウォーハンマー40,000」10版(以下40k)はプレイ済み。
過去の版は未プレイ。(ルールブック自体は確保しているので、いずれプレイして、比較したいとは思っている)
他のスカーミッシュゲームをプレイしたことがないので、その全体に対する感想も含んでいると思われる。
特に40kとの違いに言及する。
感想
40kのスカーミッシュゲーム
厳密なスカーミッシュゲームの定義はわからないのだが、本作においては小規模という意味に違わず、1モデル1ユニット(つまり、物理的な1つのミニチュアがゲーム的にも1つの単位として常に使用されるということだ)としてプレイするもので、10±4ユニットぐらいのゲームである。
各モデルは、40kの方でも使用できるが、その中の1ユニット、あるいは6~14体ぐらいのモデルを使用して、ゲームを行っていく。
これだけ小規模なので、戦場の大きさも40kの最も一般的な規模である2000ptと比較すると4分の1程度に収まっている。
では、戦略性や戦術性が弱くなっているかと言えば、そんなことはない。
確かに、アーミーの構成の幅は狭いものとなっているが、様々なオプションにより、幅が出せる他、ゲーム内における選択肢は多いというゲームになっている。
大まかなゲームの枠としては、それほど大きくは異なっておらず、各プレイヤーがユニットを操作していき、敵を攻撃しながらも勝利点を稼ぎ、特定のラウンドが終了した時点における勝利点の高いプレイヤーが勝利となる。
態勢というルール
40kのスカーミッシュゲームである、ということもあり、40kに違わず射撃が十分な強さを持っているゲームとなっている。
その中で、必要な所持品を減らすという意味も込みだとは思うが、長距離を測る必要がないように設計されており、ピストルのような小さな武器だけの射程が設定され、他の銃器に関しては射程は無限大になっている。
無限大だ。見えてさえいれば、撃てることになる。
しかし、これでは、初期配置からすぐに射撃のし合いになり、先攻が有利であったり、白兵が不利であるようになってしまうだろう。
それを防ぐため、本作には態勢というルールが実装されている。
これは各ユニットごとに、戦闘態勢と隠密態勢というステータスを持ち、それがどちらかによって射撃の対象にできるかの処理が異なるのだ。
戦闘態勢というのは、その名の通り、戦闘を行っている態勢であり、基本的には攻撃を行えば、この態勢になる。
この状態は、40kにおける通常の状態に近く、相手から視認され、射程内に入っていれば、問答無用で撃たれてしまうような状態だ。
一方、隠密態勢では、テレイン(背景となる地形のミニチュア)によって隠れていれば、相手から撃たれることはない。射撃の対象にならないのだ。
とは言え、無敵と言うわけではなく、自身と相手の間にテレインが挟まないような状態になったり、かなり近づけば撃つことができるし、それができる距離まで近づけば、突撃からの白兵を行うことはできる。
このような前提において、各プレイヤーは戦場の中央付近に配置されている作戦目標マーカーの近くに集い、それによって勝利点を稼ぐことを目指すことになる。
その結果、なにが発生するのかというと、静と動のやり取りだ。
まず、序盤においては、各プレイヤーのユニットは基本的に隠密態勢であるのであって、テレインに身をひそめながらも前進していく。そして、近づくことによって、攻撃可能になると、どちらかのユニットが攻撃する。
すると、攻撃したユニットは(一般的に)戦闘態勢になるので、それを攻撃することができるようになる。そうなると、攻撃が終わったユニットも攻撃できるようになるので、他のユニットが攻撃する。そして、それを……
というように攻撃の連鎖が発生しやすいようになっているのだ。
これにより、射撃が主体のゲームにも関わらず、序盤から撃ち合いになるのではなく、序盤はじりじりと細かな配置のやり取りを行っていき、どちらかが口火を切ると、一気に攻撃をし合い、その結果を踏まえて、また移動や攻撃を行い、という形になる。
これらのルールにより、戦術性を確保しながらも、ゲーム自体の収束性はよくなっており、静と動のやり取りの両方が楽しめる。
シンプルなルールではあるが、その切り替えのスイッチが面白く、よいルールであると感じた。
ステータス表示の媒体としてのチップ
上述の態勢などのステータスは、盤面上にモデルの近くにチップを置くことによって、管理することになる。これが煩わしくもあるが、盤面に集中できる効果を生んでいるように感じた。
まず、本作では、40kとは異なり、各プレイヤーが交互に1体ずつユニットを処理していくという方式を取っている。
これによって、各ユニットが行動済みなのか、未行動なのかを判別するのは難しく、覚えていられないので、なにかしらの記憶媒体が必要になる、という点が、ゲームデザイン上の必要性として生まれる。
この時、幾つかの方式が考えられる。
別のゲームなどでよくみる方式の一つは、カードなどを使用する方式だと思われる。これは、各ユニットあたりのデータをカードなどにし、それを横にするとか、その上に置かれたキューブの位置を変えるとか、そういう形で状態を記録するという手法だ。
しかしながら、本作においては、それは難しい。
40kとモデルを共有しているがゆえに、すべてのモデルに個性があるわけではない、という点が一番大きいと個人的には感じる。
どういうことかと言えば、装備品や見た目が似通ったミニチュアが複数体いることがあり、それは実際に(40kでもキルチームでも)同一のデータとして扱われる。これをそれぞれに紐づけたカードで、手元で管理をする、というのは難しいように思える。
40kで使用する場合には、モデルの差が大きくない方が色々とプレイしやすいとか、(感覚の個人差はあれど)見栄えが良いとか、そういう点があり、あまりにも個性的にするのは難しい。
その時に、ガンナーAはこの状態で、Bはこの状態なのだが、盤面のこのモデルはどちらかなのか、というのは間違えが起こりやすいと考えられる。
一方、本作で採用されているようにチップをそのままモデルの近くにおく、という形であれば、間違いは発生しにくく、わかりやすい。
ただ、基本的にはチップは2面しかなく、2つの状態しか管理できない。よって、未行動・行動済みしか表せないために、態勢の違いなどで複数のチップを必要とするのは難点だ。
ただ、逆に言えば、他のバフ・デバフなどもチップにすることで盤面で同時に参照することが可能であるし、わかりやすい表示にはなる。
40kでも、ファンメイドのグッズなどで、バフ・デバフや状態をモデルの横に置くことで、管理を行うことがあるが、それを公式に行っていることでちょっとした手間はあるものの、ゲーム自体は分かりやすくなっている。
盤面さえ見れば、おおよその今の状況が把握できるのだ。
攻撃のロール処理に関する違い
40k(やAOS)では、攻撃の処理に関して、ヒットロール、ウーンズロール、セーヴィングロールという過程を踏み、ダメージ量を決定している。
それに対して、本作では互いに一度ずつのロールを行って、その結果としてダメージ量を決定するようになっている。
この差について考えたい。
まず、40kにおいて、ロールが複数回存在するのは、これによってダメージの絶対量を少なくする(判定が複数回成功したもののみが有効量になるため)他、一般的には最大値と最小値の幅は大きくなる一方で、平均値は安定する(ダイスを大量に振ることになるため)、ゲーム的な処理を多くすることで、それぞれに関与する効果などを作成しやすくする、というような目的があると筆者は考えている。
本作では、ゲームの規模を小規模にするために、処理を簡略化することを第一に、このようにダイスの判定を最小限にしていると思われる。
しかしながら、上述のような条件のいくつかに関しては、それを満たすような工夫はされている。
まず、クリティカルという処理が、もっと根幹的に機能するように設計されている、という設計上の違いがある。
40kにおいては、クリティカルは絶対成功という側面が強く、付随する効果によって、追加の利益が得られる、という程度のものであった。
キルチームにおいては、クリティカルは大成功のニュアンスが強く、それによってダメージ量が増えたり、防御がされにくかったり、というようになっており、これは40kとは異なり、武器やユニット固有の能力ではなく、コアルールの方の処理として設計されている。
これによって、ロールの結果は、40kにおいて、成功・失敗に分けられるが、キルチームにおいては、クリティカル・成功・失敗の3つに分けられることになり、ロールの回数自体が少なかったとしても、それぞれの組み合わせの量が増えている。
これによって、最大値と最小値の幅が広くなっていると言える。成功と失敗しかなければ、ダイスを4個振った時には、何個成功するのか、という点しかないが、クリティカルという結果が増えることにより、何個クリティカルかつ何個成功なのか、という組み合わせが生まれる、ということだ。
また、これに付随したゲームの処理も多く、それによって、ロール数が少ないながらも、ゲームの効果のデザイン領域を確保している。
簡略化しつつ、その面白みをなくしていない、という点で、面白い試みであると感じられた。
加えて、これに関する処理が射撃と白兵で少し異なっており、白兵は互いの武器で攻撃し合うような形で、射撃は攻撃と防御が明確化するような形で設計されている。
基本的な動きは同じなので、わかりやすくはある一方で、白兵戦の方が相手が白兵戦が得意かどうかの影響が大きかったり、互いにダメージを与え合う可能性が高かったり、とフレーバーにあった結果が自然に生まれるような処理になっていて、ゲーム的な差も感じやすくなっている。
効果の名称のわかりにくさ
個人的にプレイしていて、二番目に大きな問題に感じるのはこの点だ。
たとえば、『切断』はクリティカル成功が1個もない場合、通常成功1個をクリティカル成功にできるという効果で、『懲罰』はクリティカル成功が1個以上出ている時に、失敗1個を通常成功にできるという効果だ。
名称と効果がまったく直感的ではない、と言ってしまってよいだろう。
とはいえ、これらの効果はかなりゲーム処理的であり、これらをフレーバーに基づいた単語にするのは、なかなか難しいだろう。
極端なことを言えば、クリティカル成功をC、通常成功をN、失敗をDなどと記号化し、『切断』を『C0:N1→C1』、『懲罰』を『C1↑:D1→N1』みたいな表現にするような形でしか、わかりやすくはならない。
ただ、こうなると、サイバーパンクのような字面になってしまうし、このようなプログラム言語的な表現を好まない(あるいは、把握しにくいと感じる)プレイヤーも多い。
何度もプレイするプレイヤーならば、自然と(特に自身が良く使うなら)覚えられると思うし、少ないプレイ回数であれば、表を参照することによって生じるコストも低い(参照回数が少ないということなので)と考えられているのかもしれない。
このような表現は、様々な事とのトレードオフになりやすい部分なので、それぞれのゲーム事情に合わせた表現を考えることが求められるだろう。
訳語の重複
前項が二番目であるなら、一番大きな問題に感じるのは、この点である。
遮蔽と遮蔽状態と隠蔽状態、戦略的方策と戦略策略に戦闘策略……というように、紛らわしい言葉があまりにも多すぎる。
戦略と戦闘のような用語は、対応関係にあるので、多少はしょうがないにしても、遮蔽や隠蔽というような単語はもっと他に良いものがあったのではないか、と思わず思ってしまう。
それぞれの要素自体は、比較的わかりやすいのだが、単語が似ているというだけでも、理解が難しくなるし、実際のゲームにおける口頭の確認などでも聞き間違えたり、認識を誤ってしまいやすくなる。
もちろん、語句が似ているからこそ、系統的に理解しやすいという側面があるのは否定しないが、現状では悪い影響の方が強いと感じられる。
日本語は見た目的な表現の幅が広い言語ではあるので、この辺を上手い具合に調整することがゲームデザインにも求められるだろう。
統一性があるがゆえのゲーム処理
40kと比較して、一番思うのは、例外的な存在が少ないために、様々な処理がわかりやすくなっている、ということだ。
40kとは違い、ユニットと兵が分離した概念ではないために、どの処理がどちらに対応していたのか、ということを覚えなくても済む。
また、すべてのユニットが(似たようなサイズ・形状の)ベースに載っているので、射線やテレインの介在関連もわかりやすく、判断もしやすいルールに従ってプレイすればよい。
これは、40kと比べてかなり利点がある。(前々から思っていたが、40kもすべてのモデルをベースに載せて、ベース主体のルールにすべきだ、という考えがより強くなった)
とはいえ、これはほとんどすべてのモデルが似通った歩兵である、という統一性があるからこそできるという面もあり、40kの魅力でもある、馬鹿みたいに大きい巨大兵器の横で、わらわらと小さい歩兵が群れを成している、というような情景がキルチームで再現されることはない。
これらは、トレードオフでもあり、それぞれにそれぞれの良さがある、と見るべき点もあるだろう。