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書籍『ワークショップ』の要約
先日、Facebookの個人アカウントに「書籍『ワークショップ』を久しぶりに再読したら発見がたくさんあったので読書会とかしたら楽しそう」と投稿したら思った以上に反応があったので
「言い出してしまった手前、やんなきゃいけない気がする」
と思い準備をしていました。これはその準備の一貫として書籍の要約をした内容をまとめたものです。
書籍の紹介
『ワークショップ - 新しい学びと創造の場 - 』は2001年に岩波新書から出版された本です。日本においてワークショップやファシリテーションの講座を先駆的に実践してきた中野民夫さんが書いた著書で、新書なので専門外の人にもわかりやすくまとまっている一冊になります。
すでに20年くらい前に出た本になりますが、入門書としてはコンパクトにまとまっているように思います。Amazonリンク
要約の狙い「いいワークショップが増えてほしい」
ワークショップデザイナーとしてワークショップを作る側の人間として良いワークショップを作るのは当然のことです。一方で、僕が一人の参加者としてワークショップに参加することも多々あります。
この時、「え、これワークショップじゃなくて講義じゃね?」と思うものや「ファシリテーターがんばれよ!」と思うものに巡り合うことがあります。
そういうワークショップが減るためにはどうすればいいかなぁと思った時、この本を下敷きにした「テスト」を作ればいいんじゃないか?と思いました。
最低限、ワークショップを作る人なら9割方正解できるようなテスト。それを作るための教本として最適なものはどれか考えた時に浮かんだのがこの本でした。
ただ、いきなりテストを作るのはちょっと手間なので、その前に読書会を開き読み込む状況を作る。その、読書会を拓くための準備として一旦要約してみる。
という一連の流れの中の「要約してみる」に位置するのがこのnoteです。
要約した部分
この本は4部構成になっています。今回はこの中から、1部と3部を中心に「ワークショップとは何なのか?」に関する部分をまとめました。
各部のタイトルは以下のとおりです。
【要約】第1部ワークショップとは何か
第2部ワークショップの実際
【要約】第3部ワークショップの意義
第4部ワークショップの応用
ただ、第3部の中でも「三 ワークショップの可能性」と「四 ワークショップの限界と注意点」は要約から外しました。これも含めるとおそらく5,000文字を超えてしまい、読むのが大変になると思ったからです。
しかし「ワークショップの限界と注意点」に書かれている「洗脳との違いは?」や「参加者の心構え」は興味がある部分ですので別の機会に要約を作ろうと思います。
ワークショップとはなにか?
『ワークショップ』ではワークショップをこう定義してあります。
講義など一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学びあったり創り出したりする学びと創造のスタイル(P11)
ここから、ワークショップと講義は対比したものとして語られることがわかります。その違いは講義が一方的な知識伝達であるのに対し、ワークショップは双方向性であることが特徴とされています。
ワークショップの始まりと広がり
「ワークショップ(Workshop)」という言葉はもともと作業場や工房という意味で使われていました。これが現在のような意味で使われ始めたのは20世紀のアメリカを中心にした演劇や美術の世界でした。
そこから本書では7つの分野へワークショップが広まっていったと書かれています。
このnoteではざっくり「20年前の時点でこれだけの分野にワークショップが広まっていたんだなぁ」と思っていただければ充分です。詳細が気になる人は本をお読みください。
ワークショップの3つの特徴
本書ではワークショップには3つの特徴がある(P132)と書かれています。
それは「参加」「体験」「相互作用」の3つです。これらはお互いに重なり合って、影響し合いながらワークショップらしさを出しています。
ワークショップの特徴① 参加
従来の教育で一般的な、教える側から学ぶ側への一方通行的な知識伝達型と違って、ワークショップでは、双方向的な「参加型」の学びを大切にする。
(P133)
ワークショップで強調されている特徴の1つが「参加」という要素です。この参加の鍵を握るのがファシリテーターと呼ばれる存在です。
プログラムを回していく重要な役が、ファシリテーターである。もともと「容易にする、促進する」などの意味の"facilitate"から来ている言葉で、従来型の教育の「先生」に代わって、参加者主体の学びを促進し容易にする役割である。(P146)
なぜワークショップでは参加が重要なのでしょうか。それは、先生から教えてもらう講義ではなく、一人ひとりが体験から学ぶ場だからです。
同時に、参加者が主体的に参加しやすいように環境を整えることに対して責任を持つのがファシリテーターや主催者です。
(※齋藤商店補足:ワークショップは)参加者の積極的かつ主体的な参加が不可欠な要素となる。
ただ、知らない人同士が集まった時など、お互いに緊張するのは当然だし、新しい場でどう振る舞っていいいか慎重に探ろうとするのが普通だ。主催者やファシリテーターは、初めての人が自然に場に溶け込みながら参加しやすい環境を作っていく責任がある。
(P134)
ワークショップの特徴② 体験
2つ目の特徴である「体験」を理解するには、本書が考えている創造的な学びの場に必要な4つの要素を知ることが必要です。
4つの要素とは、知性・からだ・感情・直感(もしくは霊性)です。
知識偏重の教育に対する反省から出てきたとも言えるワークショップでは、言葉だけでの理解よりも、身体を使ってやってみること、感じてみることなど、心身まるごとの「体験」を重視する。「知性(Mind)」だけでなく、「からだ(Body)」を使い、時には「感情(Emotion)」に触れたり、「直感・霊性(Sprit)」も動員するホリスティック(全包括的)な学びなのだ。
P137
これらの4つの要素を人間にとって重要な側面として考えた時、講義は知性面からのアプローチに偏りすぎていると批判します。
しかし、ここで重要なのは知性を否定しているわけではないことです。人間を全体として見た時の一部に「知性」があるのであり、知性だけでは良い学びは生まれない、という考え方がワークショップの根底にあります。
そのため、これら4つの要素を総合的に取り入れた"身体まるごとの「体験」"をワークショップでは重視しています。
ワークショップの特徴③ 相互作用
ワークショップには先生ではなくファシリテーターがいます。ファシリテーターの役割は、参加者が主体的に参加する手伝いをすることです。そして、主体的に参加する人が増えると学び合いの関係が生まれます。
本書でその考え方を表した一文が以下の引用です。
先生と生徒のような関係ではなく、基本的に対等な参加者一人ひとりが主人公であり、その学びの場を構成するかけがえのない一員なのだ。
(P140)
この対等な関係を築くために有効な姿勢の1つが積極的傾聴とも訳される「アクティブリスニング」です。
アクティブリスニングの原則は、ひたすら共感をもって聞くということであり、「批判しない」「同情しない」「教えようとしない」「評価しない」「ほめようとしない」ということだ。
(P142)
重要なことは、本書に書かれている通りに「批判しない、と書かれているので批判はNG」と考えて行動することではありません。目指しているのは、お互いに学び合うことが発生することです。
そのためには、相手の言うことをまずはしっかり聞くことが必要です。その上で、反対の意見を持っているのであれば自分の意見を伝えること。逆に言えば、反対意見を伝えるためにまずは相手の言葉を受け止めることが必要なのです。
まとめ
以上が『ワークショップ - 新しい学びと創造の場 -』に書かれている「ワークショップとはなにか?」に関する部分を要約したものです。
まとめてみて思ったのは、特に定義の部分は今でも全然通用するなぁ、ということです。一方で、3つの特徴である「参加・体験・相互作用」の中身については、今ならもっとブラッシュアップされているのではないか、とも感じました。
読書会をするなら、今回の要約では取り上げなかった第4部「ワークショップの応用」を、より実践している人の話と交えて聞けたら良さそうだなぁと思いました。
それと、やっぱり最初に書いた通り「ワークショップの限界と注意点」については別途まとめたいと思いました。ワークショップは決して洗脳のツールではないけれど、悪用すればワークショップ風の洗脳会もできてしまう。それはワークショップデザイナーの端くれとして許しがたいと思うからです。
読書会については、ちょっとゲストとの調整とかいろいろ面倒なので少しずつ準備します。興味ある方はお楽しみに。齋藤商店のFacebookページをフォローしておいてくれたら告知します。(一緒に企画してくれる人募集!)
おわり。