\○○しない林業/パーマカルチャー日記(70)
こんばんは。
portal of nature(自然への入口)
齋藤朱美です。
先日、自問自答した記事
この記事で、「耕さない農業のように、目から鱗のやり方(やらないやり方)が林業にも在るのかもしれない。」と描きました。
そこで、「○○しない林業」について、私が出会った本のご紹介をしながら掘りさげてみようと思います。
1 植えない林業
だいぶ前に買った本です↓
「植えない」森づくり―自然が教える新しい林業の姿
2014年頃、
私は、山形県の日本海側で松くい虫の防除の仕事をしていて、酷い被害に悩んでいました。
その時出会ったのが、パーマカルチャーと、この本でした。
インドから来てくれたパーマカルチャーの先生 チャタジーさんとお会いし、「虫の被害があるのは、森が多様では無いからです。(種的に、かつ、森の階層構造的に)」と教えていただき、私は目から鱗が落ちたのでした。
いま生えているクロマツ林は戦後に植えられたものが多いです。クロマツ林の中には、部分的に広葉樹が生えてきていている場所もありました。松くい虫の被害でクロマツが無くなり穴が空いた場所は、そのままにしておけば広葉樹が生え、多様な森になるのかもしれません。この本にも、松くい虫跡地を放置したところ、立派な広葉樹林になった事例が紹介されています。
しかし、私が担当した地域は、江戸時代から砂防林としてクロマツを植えた歴史があり、その恩恵を受けてきた地域なので、伐採跡地をそのままにしたり、クロマツ以外の他の樹種に変えるということを受け入れるのが難しい地元の方々もいました。白砂青松が彼らの大切な風景なのです。
森をどういう森にしていくかは、森林所有者や地元の人たち(森の恩恵を受けている人たち)の理解が不可欠だと実感します。
先日、たまたま観たテレビドキュメンタリー「地球ドラマチック」で、今後温暖化が進むと森林の病害虫被害が増える可能性があると紹介されていました。大気中の二酸化炭素が増えると植物中の窒素が減るので、虫はより沢山の植物を食べる必要があるそうです。
実際に、ドイツのトウヒ人工林が、増加したキクイムシの被害に遭い、広い面積で枯れていました。そして、枯れた跡地に、森林官がブナなどの在来の他樹種を植えていました。
ドイツでは植えていましたが、降水量が多い日本では、本の通り植えなくても森林になるのだと思います。(個人的には植えなくても森林になるには条件が必要と感じています。本にも例外事例が載っていました。)
今後、更に二酸化炭素濃度が上昇するであろう将来を考えると、日本の森林の全てではなくとも、植えない森づくりによる多様な森づくりをした方が、病害虫や災害に強い森になるのではないかと考えます。
このことを、分かりやすく、実感をもって、地域の人たちから理解していただくには、どうしたらいいんだろう。
2 間伐しない林業
「ノーコスト林業のすすめ」
この本は今の職場で出会いました。
山形県鶴岡市(旧温海町)のスギ林での焼き畑と温海かぶ栽培のことが紹介されていたから職場にあったのでしょう。
本には昔(戦前)は間伐をしていなかったと描いてあります。
間伐の大切さを教わってきた身としては、驚きの展開ですが、私には納得する部分もあります。
事実、私は、山形県朝日町で一度も間伐していないという130年生のスギ林を見せていただいたことがあるのです。
また、250年生の秋田の天然スギの年輪を見たとき、私は「間伐をしていたら、この年輪にはならない」と感じました。それくらい、細かな年輪でした。暗い林内で耐えながら成長したことを読み取ることができました。
ですが、戦後にヘクタールあたり3,000本植えられたスギ林を間伐しないまま250年放置したら秋田の天然スギのようになるとは、私は思いません。
木や草を燃料にしたり田畑に漉き込んでいた戦前と、化学肥料を使い石油やガスを燃料とするように変わった今とでは、人が森林に与える影響が違うと私は思うからです。
いわゆる「間伐」をしていないとしても、戦前の森林では枯れた木を採集する人、たまに収入を得るために伐採する人がいたのではないだろうかと想像しています。
今、間伐をしないでそのままにしたら、モヤシのようにヒョロ高い、葉の少ない木が密集した林になると思いますし、現にそんな森林が沢山あります。
目標とする直径を目指して計画的に太らせるために間伐を行うのだとすれば、間伐をして年輪幅の広い木材を早く(50年スパンで)生産するか、間伐を(あまり)しないで年輪幅の狭い木材を時間をかけて(100年スパンで)生産するかの違いなのではないかと思います。
(参考文献)
横井秀一さんの森づくりの技術より
「間伐の目的」
3 皆伐しない林業
2019年、
私は岐阜県立森林文化アカデミーで研修を受けたときに、奈良県の林業専門の県職員の方にお会いし、バックキャストの考え方を教えていただいたのでした。
その際、彼がスイスに視察しに行ったときの記録紙をプレゼントしてくださり、私はスイスの林業について知りました。(その記録紙は、わたしにとって大切な宝物です)
その後、「スイス林業と日本の森林 (近自然森づくり)」という本を見つけて、興奮してすぐに買いました。
なんと、プレゼントしてくれた奈良県職員の方が本に登場しています!
近自然という考え方は、スイスでは様々な分野で取り入れられており、林業でも実践されているそうです。
自然をとことん観察し、その在り方に即した工法が環境に配慮し、しかもコストがかからず経済的に利点があるとの考え方です。
「自然から学ぶ」という姿勢に、私はとても共感します。パーマカルチャーにも通じます。
この、近自然森づくりで採用されている施業が将来木施業とのことです。育てる木を決めて、その木の成長を妨げる木を伐採します。
一見、普通の間伐のようですが、スイスの将来木施業で育てると決める木は、植栽した針葉樹に限らないので、針広混交林になっていくそうです。
これは、質の高い広葉樹が高値で取引されることを森林施業をする人たちも理解しているということになります。
その針広混交林は、先程ご紹介したパーマカルチャーの先生 チャタジーさんがおっしゃった病害虫に強い多様な森ということになります。災害にも強く、生物も多様な理想的な森林です。
しかし、いま、私が働いている地域では多くの面積で皆伐され、スギを再び植えています。いまの現実の森林です、、、。
でも、森林全体を面的に見て、バランスをとりながら、部分的にでもスイスでおこなっているような多様な森づくりをしていきたい。
スイスの近自然森づくりを実践している方々が日本にもいらっしゃいます。
・山の喇叭吹き
表紙写真は、秋田県の天然スギ林です。
すごく、気持ちの良い森だったのです。
成熟した50mを越えるスギ林に、トチノキを中心とした広葉樹が混交していました。
わたしは、この森を1つの目標として、バッグキャスティングで森林の仕事に取り組んでいきます。(宣言)