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海上自衛隊が韓国・顕忠院を表敬──一方通行の「親善」(平成19年9月16日日曜日)
(画像は顕忠院を表敬した海上自衛隊@中央日報)
韓国の中央日報によると、日本の海上自衛隊の将校たち200人が、韓国海軍との共同訓練に先立って、ソウルの国立墓地顕忠院を表敬しました。中央日報は参詣の模様を写真入りで伝えています。
さて、小泉首相の靖国神社参拝をめぐり、激しい批判がわき上がったのは5年前(平成14年)の夏のことでした。首相は「わだかまりなく追悼の誠を捧げるために議論する必要がある」との談話を発表し、そして設置されたのが、いま首相の座に駆け上がろうとしている福田内閣官房長官(当時)の諮問会議「追悼・平和懇」でした。
「わだかまり」こそは「追悼・平和懇」の出発点でしたが、今回、海上自衛隊が表敬した顕忠院はまさにその「わだかまり」を考える格好の材料です。
◇1 「反共」と「抗日」
顕忠院は、かつて「日帝」支配のシンボルとされる朝鮮神宮が鎮まっていたソウル市南山の南・漢江の対岸に位置しています。面積は日本の明治神宮内苑のほぼ2倍。43万坪。三方を冠岳山の山並みに囲まれ、四季折々の花が咲く庭園墓地に16万3000余の墓石が整然と並んでいます。
http://www.mnd.go.kr:8088/
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顕忠院の公式サイトによると、その歴史は北朝鮮との軍事対決に始まります。最初は国軍墓地で、朝鮮戦争後の1955年に造成されました。無名戦士の墓や在日学徒義勇軍の墓もあります。65年には国立墓地に昇格し、警察官も埋葬されるようになりました。
顕忠院のシンボル「顕忠塔」が建立されたのは67年です。高さ31メートル、花崗岩製で、上空から見ると十字形をしています。英雄烈士の御霊(みたま)が東西南北、国をあまねく守護するという意味合いがあるようです。祭壇前の香炉は朝鮮戦争で戦死した将兵の認識票が材料に使われているといいます。
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塔の左右には23メートルの壁が翼を広げています。左側は朝鮮戦争など、右側は抗日独立戦争をシンボライズしたレリーフです。顕忠院は「反共」と「抗日」という2つの大きな民族の闘いがテーマになっていることが分かります。塔内部には朝鮮戦争の戦死者10万4000人の位牌が並び、地下には無名戦士6200余柱の遺骨を納める納骨堂があります。
71年には李氏朝鮮末期の義兵、3・1独立運動、抗日武装闘争の活動家など350人をまつる「顕忠台」が建てられ、最近では93年に上海で抗日独立運動を展開した大韓民国臨時政府の要人たちをまつる慰霊碑と墓域が設けられ、近年になればなるほど、「抗日」の要素が拡大しているように見えます。
顕忠院の最大のイベントは6月6日です。この日が「顕忠の日」とされる理由はとくにないようですが、国の休日となるこの日、首相直属の機関が主催し、政府、遺族、各界代表、各国大使館関係者ら5000人が参列する追悼式が開かれ、全国民がいっせいに黙祷をささげます。つまり韓国民は国をあげて「反共」とともに「抗日」精神を確認するのです。
顕忠院には李承晩、朴正煕両大統領の墓所があります。片や革命で国外に追われ、片やしばしば「軍事独裁」のレッテルつきで批判される2人ですが、韓国民にとっては紛れもなく「国家指導者」であり、だからこそここに眠っているのでしょう。
この2人の大統領に対して、「わだかまり」があるのかないのか、慰霊・顕彰の誠を捧げようとする韓国民が、日本に対しては、その良識を貫けず、「わだかまり」を強調し続けています。
◇2 「親善」「表敬」への「答礼」がない
他方、日本側ですが、韓国側の批判をなだめるかのように平成13年10月、訪韓した小泉首相は金大中大統領との会談に先立って国立墓地に詣でました。首相は翌年3月にも参拝しました。
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小渕首相も、森首相も献花しています。安倍首相も表敬しました。皇族では、サッカー・ワールドカップの開会式に先立って、高円宮・同妃両殿下が献花・焼香しています。今年の3月には斎藤統幕議長が参詣しています。
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そして、今回の海上自衛隊ですが、韓国のメディアのなかには「軍国主義の象徴である旭日旗を掲げて入港した」のは「大事件」であり、「すべての行事を取り消して、仁川港を去れ」と迫る、激烈な社説を載せ、過剰反応したところもあるようです。戦没者に対する表敬は国際的な親善行為であることが理解できないのでしょうか。
このブログで何度か触れたように、1970年には北朝鮮のゲリラがこの「反共」のシンボル、顕忠院を爆破しようとしましたが、その北朝鮮が一昨年、ソウルで開かれた「光復六十周年」の大イベントに代表団を送り込み、手のひらを返すように、開幕式に先立って顕忠院に表敬しています。
そのとき韓国のマスコミが新たな問題として指摘したのは、北朝鮮が答礼として金日成廟などへの表敬を要求した場合、韓国はどうするのか、でした。7年前の金大中、金正日会談の際も北朝鮮は執拗に要求したといいますが、10月に予定される南北首脳会談で盧武鉉大統領が「わだかまり」を捨てて、表敬するのか、注目されます。
同様のことは日韓についてもいえます。日本の要人が、皇族までもが、「わだかまり」なく何度も「抗日」のシンボルに表敬しているのに対して、韓国はどう答えるのか。一方的な国際儀礼がきわめて不自然であることはいうまでもありません。「わだかまり」を口にすることそれ自体が国際儀礼に反することですが、「追悼・平和懇」を決裁した福田さんはやはり靖国神社に代わる無宗教の国立の追悼施設を推進するのでしょうか。