まったく同感──「女性宮家」を主張する朝日新聞社説に噛みついた椎名哲夫元東京新聞記者(令和2年1月13日)
さんざんな御代替わりの年が過ぎたのも束の間、今年は皇位継承をめぐる国民的議論が沸騰しそうな気配が濃厚です。じつに憂鬱です。
早くも年明け早々、4日のデイリー新潮に、「『女性宮家』を声高に主張する『朝日新聞社説』の本音を読み解く」と題する、椎名哲夫元東京新聞記者の挑戦的な記事(週刊新潮WEB取材班編集)が載りました。女性天皇・女系継承容認の本音を隠して、皇位継承問題を「将来の主権者に」と主張するのは、先延ばしと同じで、欺瞞だと大新聞の社論を切り捨てています。
〈https://www.dailyshincho.jp/article/2020/01041130/?all=1&page=2〉
▽1 「決めるのは国民だ」
まったく仰せの通りです。
椎名さんが批判するのは、大嘗祭直後、11月18日の社説「皇室制度の今後 政治の怠慢に終止符打つ時」です。〈https://www.asahi.com/articles/DA3S14260076.html〉
社説は、概略、次のように主張しています。
御代替わりで皇位継承問題が先延ばしされてきたが、これ以上は許されない。
継承資格者は3人。いま継承順位の変更につながる見直しは非現実的だが、ご活動の維持存続は早晩立ち行かなくなる。
ご活動の絞り込みは必要で、実際、進んでいるが、国民との接点が減れば、象徴天皇制の基盤が揺るぎかねない。その対応策として、「女性宮家」創設をあらためて検討すべきだ。
他方、旧宮家の男子を復帰させる案があるが、600年前に別れ、戦後は民間人だったのをいまさら戻し、女性宮家を飛び越して資格者とすることに幅広い賛同は得られまい。
象徴天皇制の存続には規模の維持が不可欠で、現実的に「女性宮家」問題に結論を出すことが優先されるべきだ。
国民統合の象徴をめぐり、国民に深刻な亀裂が生じるのは好ましくない。当面は新女性宮家の様子を見守り、判断は将来の主権者に委ねるという考えもあろう。決めるのは国民だ。
憲法の国民主権論に立ち、憲法が定める象徴天皇制の基礎とされるご公務の維持には、「女性宮家」創設が当面、必要だと訴えています。代わり映えのしない主張です。
▽2 朝日新聞社説の「欺瞞」
椎名さんの批判が面白いのは、次のように、朝日の社説には「欺瞞」があると見ていることです。
社説が「女性皇族を飛び越えて『国民統合の象徴の有資格者』とすることに幅広い賛同が得られるとは思えない」というのは、「国民統合の象徴の有資格者にするのは女性皇族が先だ」と言っているようなものではないか。
「当面は悠仁さまと新女性宮家の様子を見守り、判断は将来の主権者に委ねる」というは、将来は女系(婿入りした男性の父系)に皇統が移ることも認めるという前提に立っていることになる。
「判断は将来の主権者に委ねる」というのは、朝日が批判する「政府は検討を先延ばしにしてきた」ことと同じではないのか。
「女性宮家」創設賛成の本音を隠して、まずは既成事実を作ろうと、読者を欺いているというわけです。しかも論理が一貫していないのです。
なぜそうなるのか、というと、議論の立て方がそもそもおかしいのです。
椎名さんが「女性宮家」創設論の経緯を振り返り、説明しているように、皇位継承問題と「女性宮家」問題は別のテーマでした。しかし両者を切り離して検討するとした野田内閣の「女性宮家」創設論議は国民を欺くものでした。独身を貫くわけではないから、子供が生まれ、皇位を継承すれば、新たな皇統が生まれる。「女性宮家」創設=女系継承容認なのです。
朝日の社説は、この核心部分を誤魔化しているというわけです。
▽3 皇室2000年の歴史を無視
椎名さんは、朝日が言下に切り捨てる旧宮家復活にも言及し、誤解が多いと指摘しています。
朝日の社説がいうように、600年前に離れたのは事実だが、戦後の皇籍離脱まで皇統の備えとして11宮家は存続してきた。600年間、出番はなかったが、離脱後も品位と矜持を保つために苦労してきた。
とりわけ東久邇宮家は今上陛下とも近い。東久邇宮稔彦元首相は明治天皇の皇女と結婚し、長男盛厚氏は昭和天皇皇女と結婚した。その5人のお子さんは今上陛下の従兄弟であり、複数の男子がおられる。
朝日の社説はこうした事実をまったく無視しているのです。だからこそ、椎名さんは「何を検討すべきなのか」と問いかけています。男系維持のために、旧皇族の若い男子を現在の宮家の養子に迎えるなど方法はあり得ます。
要するに、朝日の社説は皇室伝統の男系主義が守られるために知恵を絞るのではなく、逆に皇室のルールを破ることを、国民主権主義にかこつけて驀進しようとしているかのように見えます。つまりそれは二千年の歴史を持つ天皇とは異質のものであり、歴史的天皇の否定ではありませんか。もしや、それが本当の目的でしょうか。
▽4 憲法が定める「王朝の支配」
最後に蛇足ながら補足します。
椎名さんは「女性宮家」創設=女系継承容認と指摘しますが、私の読者ならご存知のように、そもそも両者は同じものとして始まったのでした。「女性宮家」創設が結果として女系継承容認に結びつくのではなくて、女性天皇・女系継承を容認するならあらかじめ「女性宮家」創設が必要だという論理です。
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2点目は、御公務御負担削減です。朝日の社説は削減は必要で、対策はいまも行われていると説明していますが、宮内庁の削減策は失敗したとはっきり理解すべきです。
先帝の御在位20年のあと始まった削減策で、文字通り激減したのは祭祀であり、いわゆる御公務は逆に増えました。とくに減らないのは庁内人事異動者と赴任大使の拝謁です。社説がいう象徴天皇制の基盤ではなく、官僚社会の壁がネックなのです。
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3つ目は国民主権主義です。決めるのは国民だと社説は声を荒げていますが、それでいいのでしょうか。皇室には皇位継承に関するルールがありますが、社説にはそれに対する眼差し、敬意が欠けています。女性天皇は歴史に存在しますが、夫があり、子育て中の女性天皇は歴史に存在しません。なぜなのか、考えていただけないでしょうか。
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もうひとつ、憲法は皇位は世襲と定めています。もともとdynasticの意味で、王朝の支配を意味します。王朝交替の否認が近代の女帝否認の核心でした。椎名さんがいうように、女系継承は新たな王朝の始まりです。朝日新聞は憲法を守るために憲法違反を認めよと仰せなのでしょうか。矛盾しています。
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