
次元の低い皇室ジャーナリズム──皇太子殿下「ベトナムご訪問」前の記者会見。「知る権利」を振りかざすも、文化論・歴史論の深まりもなければユーモアもない(2009年2月17日)
(画像は会見に臨まれる殿下。宮内庁HPから拝借しました。ありがとうございます)
▽1 かみ合わない質問と回答
今週は予告通り、皇太子会見について書きます。(平成21年)2月5日、殿下はベトナム公式訪問を前にして記者会見に臨まれました。
会見の質疑は3問です。第1問はベトナム訪問に関する抱負。第2問は妃殿下が同行されないことについてのお考え。問題は第3問で、外国報道協会の代表質問として、殿下のご関心の高い水の問題を抱えているベトナムを訪問することは、殿下のご公務見直しの手がかりになるのか。天皇陛下と雅子妃殿下もストレスでご病気になられたようだが、新しい皇室・公務のあり方についてのお悩みがお心の負担になりえるのか、というような質問でした。

この第3問について、殿下は水の問題の重要性を指摘し、個人的に関心を寄せていることなどを話されたのですが、質問の後段にはお答えになりませんでした。質問と回答がかみ合っていません。

そして巷間、伝えられるところによると、そのあとの「関連質問」を東宮職の職員が時間厳守を理由にさえぎり、会見を一方的に打ち切ったというのです。
職員の対応に収まりがつかない宮内記者会は「取材の制限、妨害に等しい」と抗議文を提出し、これに対して翌日、野村一成東宮大夫が謝罪の文書を明らかにしたというのです。
▽2 国民の知る権利?
結論からいうと、何と低次元のジャーナリズムなのかと私は思います。小泉さん風にいうと、「笑っちゃうぐらいにあきれる」というべきです。
この会見はベトナム訪問を前にセットされています。とすれば、会見は第1問とその回答ですでに終わっています。第2問の妃殿下に関することは、わざわざ会見で聞く必要もないでしょう。従来通りの、おおかた予想される以上の答えが殿下ご自身の口から返ってくるはずはありません。会見であえて問うことは挑発なのでしょう。
第3問にいたっては、そもそもこの会見に相応しい質問とは思われません。このような質問を「代表質問」として許しているところに、私は宮内官僚の無能を感じます。事前の打ち合わせ段階で拒否すべきです。
会見が一方的に打ち切られたことに対して、記者会がいきり立っている姿もじつに滑稽です。例によって「国民の知る権利を尊重しない」と息巻いているのですが、会見を取材の場と考えているようではプロの記者とはいえません。
第2問とも関連しますが、妃殿下が体調を崩されるようになったのは、拙著にも書いたように、報道のあり方に原因があります。勇み足の「懐妊兆候」報道が何をもたらしたか、メディアは忘れたのでしょうか。「天皇陛下と雅子妃殿下もストレスによってご病気をなされたようですけれども……」などと、善意の第三者を装う質問をよくもまあできるものだと「あきれる」のです。
▽3 文書回答で十分
この会見には足りないものが2つあります。ひとつは文化論・歴史論の深まり。もうひとつはユーモアです。
殿下は日本とベトナムの歴史的交流について、阿倍仲麻呂や雅楽などを取り上げていますが、宮内記者会には殿下と堂々と文化論を渡り合える素養のある記者がいないのでしょうか。もしいればきっと深みのある会見になるはずです。
さらに望みたいのはユーモアの精神です。会見の内容を読むだけでギスギスした雰囲気が痛いほどに感じられ、じつに不愉快です。このような会見が「国民の知る権利」を根拠に行われるのは偽善以外の何ものでもありません。
東宮大夫は謝罪をする必要はありません。会見も不要です。文書回答で十分です。抗議文に「申し訳ない」と謝罪する東宮大夫の姿勢も改められるべきです。