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緑化でつなぐ日中のきずな by 廣瀬道男・財団法人オイスカ事務局長(2006年5月6日)

(画像は内モンゴル沙漠化防止プロジェクト。オイスカHPから拝借しました)


 中国大陸で行っているオイスカの緑化活動に触れる前に、少し組織の紹介をさせていただきたい。

 創立は1961年で本年、満45周年を迎える。名称は産業・精神・文化の発展高揚のための機構という英語の頭文字を採って「OISCA」と表現しているもので、創立以前、数回にわたって開催された国際会議の中で産まれたのがオイスカ・インターナショナルである。

 わが国ではその後、「財団法人オイスカ」が設立され、途上国を主な対象に、農業分野での開発協力や人材育成、さらには緑化活動を通じた環境への取り組みなどの国際協力活動を展開しており、母体でもあり国連経済社会理事会の諮問資格ジェネラルを有するオイスカ・インターナショナルの有力な実働部隊としての役割も担っている。

◇1 環境問題に国境はない


 さて、オイスカが海外での緑化活動を正式にスタートさせたのは1980年。決して人的にも資金的にも余裕があって始めたものではないが、70年代の後半、アジア各地で実施していた農村開発協力を担っていた日本から派遣の技術者から「年々、環境悪化が進むアジアの山岳地の現状を放置していれば、いずれ農業もできなくなる」という、彼ら現場からの声が基となった。

 以来、「ラブ・グリーン」を合言葉として、ネパール、タイでの植林活動を皮切りに、アジア太平洋地域の各地で緑化活動を展開してきている。80年代の後半からは、海岸線でのマングローブ植林にも積極的に取り組んでいる。

 そして、2000年からようやく中国大陸での緑化活動にも取り組むようになる。現在、日中緑化交流基金や企業等の支援を得て、重慶や貴州省、湖北省宜昌、内蒙古等でそれぞれ水源林保全や砂漠化防止のための緑化活動を推進している。

 隣国でもある中国大陸での緑化活動が、なぜ他の国に遅れること20年余、となったのか。

 実は、72年の日中国交樹立(台湾断交)を機に、日台関係の将来を憂いたオイスカは、民間の立場で台湾(中華民国)との関係強化を図るための交流を積極的に展開してきた経緯がある。それ以来、台湾のオイスカ総局との関係や国内支援者の感情などもあり、大陸での緑化推進の必要性は感じつつも、具体的な協力活動を躊躇してきた面は否めない。

 ただし近年、さまざまな環境変化のなか、地球環境問題には国境がない、という大局的視点から大陸での緑化にも関わるようになった。

 実際、わが国でも中国の工業化が原因と見られる酸性雨の被害がかなり以前から各地で報告されていたし、つい先日も、東京で黄砂が観測されるなど、西日本を中心にわが国での黄砂の観測回数も年々増加している状況は、決して他人事では済まされないところまで来ている、との判断である。

◇2 「政冷経熱」だからこそ



 現在、日中間は「政冷経熱」といわれているように、政治的にはギクシャクしている。中国のさまざまな強圧的な態度に、日本人の嫌中感情も高まっている。オイスカの支援者の中にも「あのような中国に何故協力するのか」という根強い反発も、決して少なくはない。

 そうした声は、日本人の一人として個人的には十分理解できる。しかし、前述したように、環境問題には国境がない、ということである。同時に、政治的に冷え切っていればこそ、民間レベルでのこの分野での協力活動は、日中間の将来を考えたとき、決してマイナスにはならない、と。

 万里の長城ならぬ「緑の長城」計画という壮大な計画を控え、オイスカは中国大陸でも一歩一歩、可能な範囲で緑化を通じた環境協力を展開していきたいと考えている。


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