明治の「立儲令」と来月の「立皇嗣の礼」は何が違うのか?(令和2年3月29日)
(画像は立儲令)
4月に予定される「立皇嗣の礼」で中心となるのは19日の「立皇嗣宣明の儀」「朝見の儀」と21日の「宮中饗宴の儀」の3つです。いずれも「国の儀式」として皇居宮殿で挙行される予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大で「宣明の儀」は参列者の規模を縮小することとなり、「饗宴の儀」は「取り止め」となりました。
3月24日付け当ブログでは、今回の「立皇嗣の礼」が明治の「立儲令」を踏襲するものとはなっていないことを指摘し、存在が広く知られていないと思われる立儲令とその附式をご紹介しました。
何が違うのか、簡単におさらいすると、立儲令では「立太子の礼は附式の定むるところにより、賢所大前においてこれを行ふ」(第四条)とされ、大前で天皇、皇太子が拝礼し、勅語のあと壺切御剣が授与されたのですが、今回はそうではなく、宮殿で国民の代表者たちの前で宣明の儀(国の儀式)が行われ、これとは別に、同じ宮殿内で御剣親授の儀式(皇室行事)が行われたあとに三殿に謁する儀が行われるという形式になっています。
また、三殿に「奉告」の儀は「親告」の儀となり、「参内朝見の儀」は「朝見の儀」に改称されました。立儲令には「皇太后に朝見の儀」の規定がありましたが、今回、「太上天皇(上皇)に朝見の儀」というものは行われません。
さらにいえば、日本古来の神事というものは、神前に食を捧げて祈り、神人共食の食儀礼によって完結されますが、今回は国民との直会の機会が失われることとなりました。
ご承知のように、現行憲法が施行された昭和22年5月に宮内府長官官房文書課長名による依命通牒が発せられ、「從前の規定が、廢止となり、新しい規定が、できていないものは、從前の例に準じて、事務を処理すること」(第3項)とされており、いまも「廃止の手続きは取られていない」(平成3年、宮内庁高官国会答弁)そうですから、廃止された立儲令はまだしも、その附式に準じて粛々と行われていいはずです。
しかし、そうなっているようには見えません。それはなぜなのか、といえば、憲法の政教分離規定への配慮であることは明らかですが、いつ、どういう経緯で、そのような変化が生じたのかです。
ここでは真相に立ち入ることはせず、前々回、掲載した立儲令およびその附式との対比ができるように、官邸のサイトに載る式典実施連絡本部の資料および宮内庁発表の資料から4月19日の儀式に関する細目の主な部分を抜き出してみます。〈https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gishikitou_honbu/dai5/gijisidai.html〉〈https://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/shiryo/tairei/gijishidai-020324.html〉
1、神宮に奉幣の儀
皇大神宮
豊受大神宮
神宮の祭式による。
このときの服装は、勅使が衣冠単、勅使随員が衣冠単、出仕が雑色
2、賢所皇霊殿神殿に親告の儀
賢所の儀
4月19日午前8時,御殿を装飾する。
午前8時45分,大礼委員が休所に参集する。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が賢所参集所に参集される。
次に天皇,皇后が綾綺殿にお入りになる。
次に天皇に御服を供する(侍従が奉仕する。)。
次に天皇に御手水を供する(侍従が奉仕する。)。
次に天皇に御笏を供する(侍従が奉仕する。)。
次に皇后に御服を供する(女官が奉仕する。)。
次に皇后に御手水を供する(女官が奉仕する。)。
次に皇后に御檜扇を供する(女官が奉仕する。)。
次に御扉を開く。この間,神楽歌を奏する。
次に神饌及び幣物を供する。この間,神楽歌を奏する。
次に掌典長が祝詞を奏する。
次に大礼委員が着床する。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が参進して幄舎に着床される。式部官が誘導する。
午前9時,天皇がお出ましになる。掌典長が前行し,侍従が御剣を捧持し,侍従が随従する。
次に天皇が内陣の御座にお着きになる。侍従が御剣を奉じて簀子に候する。
次に天皇が御拝礼になり,御告文をお奏しになる(御鈴を内掌典が奉仕する。)。
次に天皇が御退出になる。前行及び随従は,お出ましのときと同じである。
次に皇后がお出ましになる。掌典長が前行し,女官が随従する。
次に皇后が内陣の御座にお着きになる。女官が簀子に候する。
次に皇后が御拝礼になる。
次に皇后が御退出になる。前行及び随従は,お出ましのときと同じである。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が拝礼される。
次に大礼委員が拝礼する。
次に幣物及び神饌を撤する。この間,神楽歌を奏する。
次に御扉を閉じる。この間,神楽歌を奏する。
次に各退出する。
このときの服装は、天皇が御束帯(黄櫨染御袍)、皇后が御小袿・御長袴、侍従が衣冠単、女官が袿袴、掌典長,掌典次長,掌典及び楽長が祭服、内掌典が衣袴,袿袴、掌典補及び楽師が祭服、出仕が麻浄衣
皇霊殿の儀
神殿の儀
賢所の儀に倣う(御鈴の儀はない。)。
3、神武天皇山陵に奉幣の儀
4月19日午前8時,陵所を装飾する。
午前10時,勅使が参進して着床される。
次に神饌を供する。この間,楽を奏する。
次に掌典が祝詞を奏する。
次に幣物を供する。
次に勅使が拝礼の上,御祭文を奏される。
次に幣物及び神饌を撤する。この間,楽を奏する。
次に各退出する。
このときの服装は、勅使が衣冠単、勅使随員が衣冠単、掌典が祭服、掌典補及び楽師が祭服、出仕が雑色
4、昭和天皇山陵に奉幣の儀
4月19日午前8時,陵所を装飾する。
午前10時,勅使が参進して着床される。
次に神饌を供する。この間,楽を奏する。
次に掌典が祝詞を奏する。
次に幣物を供する。
次に勅使が拝礼の上,御祭文を奏される。
次に幣物及び神饌を撤する。この間,楽を奏する。
次に各退出する。
このときの服装は、勅使が衣冠単、勅使随員が衣冠単、掌典が祭服、掌典補,楽師が祭服、出仕が雑色
5、立皇嗣宣明の儀
午前10時40分,参列者が宮殿の春秋の間に参集する。
午前10時45分,皇嗣,皇嗣妃,親王,親王妃,内親王及び女王が皇族休所に参集される。
午前10時55分,参列者が正殿松の間の所定の位置に列立する。式部官が誘導する。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が正殿松の間に入られ,所定の位置に着かれる。式部官が誘導する。
次に皇嗣,皇嗣妃が正殿松の間に入られ,所定の位置に着かれる。皇嗣職大夫が前行し,皇嗣職宮務官長及び皇嗣職宮務官が随従する。
午前11時,天皇,皇后が正殿松の間にお出ましになる。式部官長及び宮内庁長官が前行し,侍従長,侍従,女官長及び女官が随従する。
次に天皇のおことばがある。
次に皇嗣,皇嗣妃が御前に参進され,敬礼される。
次に皇嗣がおことばを述べられる。
次に皇嗣,皇嗣妃が所定の位置に戻られる。
次に内閣総理大臣が御前に参進し,寿詞を述べる。
次に天皇,皇后が御退出になる。前行及び随従は,お出ましのときと同じである。
次に皇嗣,皇嗣妃が退出される。前行及び随従は,入られたときと同じである。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が退出される。
次に参列者が退出する。
このときの服装は、天皇が御束帯(黄櫨染御袍)、皇后が御小袿・御長袴、皇嗣が束帯(黄丹袍)、皇嗣妃が小袿・長袴、宮内庁長官,侍従長,侍従,皇嗣職大夫,皇嗣職宮務官長,皇嗣職宮 務官(男子)及び式部官長が衣冠単、女官長,女官及び皇嗣職宮務官(女子)が袿袴
6、皇嗣に壺切御剣親授
4月19日午前11時25分,天皇が鳳凰の間にお出ましになる。侍従が前行し,侍従長,侍従が壺切御剣を奉持して随従する。
次に皇嗣が御前に参進される。皇嗣職大夫が随従する。
次に侍従長が壺切御剣を御前に進める。
次に天皇のお言葉がある。
次に天皇が壺切御剣を皇嗣にお授けになる。
次に皇嗣が壺切御剣を皇嗣職大夫に渡される。
次に皇嗣が退出される。皇嗣職大夫が壺切御剣を奉持して随従する。
次に天皇が御退出になる。侍従が前行し,侍従長及び侍従が随従する。
このときの服装は、天皇が御束帯(黄櫨染御袍)、皇嗣が束帯(黄丹袍)、侍従長,侍従,皇嗣職大夫,皇嗣職宮務官が衣冠単
7、賢所皇霊殿神殿に謁するの儀
賢所の儀
4月19日午前11時35分,御殿を装飾する。
午後0時20分,大礼委員が休所に参集する。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が賢所参集所に参集される。
次に皇嗣,皇嗣妃が綾綺殿にお入りになる。
次に皇嗣に儀服を供する(皇嗣職宮務官が奉仕する。)。
次に皇嗣に手水を供する(皇嗣職宮務官が奉仕する。)。
次に皇嗣に笏を供する(皇嗣職宮務官が奉仕する。)。
次に皇嗣妃に儀服を供する(皇嗣職宮務官が奉仕する。)。
次に皇嗣妃に手水を供する(皇嗣職宮務官が奉仕する。)。
次に皇嗣妃に檜扇を供する(皇嗣職宮務官が奉仕する。)。
時刻,御扉を開く。この間,神楽歌を奏する。
次に神饌及び幣物を供する。この間,神楽歌を奏する。
次に掌典長が祝詞を奏する。
次に大礼委員が着床する。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が参進して幄舎に着床される。式部官が誘導する。
午後0時35分,皇嗣,皇嗣妃が参進される。掌典長が前行し,皇嗣職宮務官が壺切御剣を奉じ,他の皇嗣職宮務官が随従する。
次に皇嗣,皇嗣妃が内陣の座に着かれる。皇嗣職宮務官が壺切御剣を奉じて外陣に候し,他の皇嗣職宮務官が簀子に候する。
次に皇嗣,皇嗣妃が拝礼される。
次に皇嗣,皇嗣妃が退出される。前行及び随従は,参進のときと同じである。
次に親王,親王妃,内親王及び女王が拝礼される。
次に大礼委員が拝礼する。
次に幣物及び神饌を撤する。この間,神楽歌を奏する。
次に御扉を閉じる。この間,神楽歌を奏する。
次に各退出する。
このときの服装は、皇嗣が束帯(黄丹袍)、皇嗣妃が小袿・長袴、皇嗣職宮務官が衣冠単,袿袴、掌典長,掌典次長,掌典及び楽長が祭服、内掌典が衣袴,袿袴、掌典補及び楽師が祭服、出仕が麻浄衣
皇霊殿の儀
神殿の儀
賢所の儀に倣う。
8、朝見の儀
午後4時15分,皇嗣,皇嗣妃が皇族休所に参集される。
午後4時30分,天皇,皇后が宮殿の正殿松の間にお出ましになる。式部官長及び宮内庁長官が前行し,侍従長,侍従,女官長及び女官が随従する。
次に皇嗣,皇嗣妃が御前に参進され,皇嗣が謝恩の辞を述べられる。式部官長が誘導する。
次に天皇のおことばがある。
次に皇嗣,皇嗣妃が皇后の御前に参進され,皇嗣が謝恩の辞を述べられる。
次に皇后のおことばがある。
次に皇嗣,皇嗣妃が所定の席に着かれる。
次に皇嗣が御前に参進される。
次に天皇が皇嗣に御盃をお授けになる。侍従が奉仕する。
次に皇嗣が皇后の御前に参進される。
次に皇后が皇嗣に御盃をお授けになる。女官が奉仕する。
次に皇嗣が席に戻られる。
次に皇嗣妃が御前に参進される。
次に天皇が皇嗣妃に御盃をお授けになる。侍従が奉仕する。
次に皇嗣妃が皇后の御前に参進される。
次に皇后が皇嗣妃に御盃をお授けになる。女官が奉仕する。
次に皇嗣妃が席に戻られる。
次に天皇,皇后が御箸をお立てになり,皇嗣,皇嗣妃がこれに倣われる。
次に天皇,皇后が皇嗣,皇嗣妃に御禄をお授けになる。侍従長が皇嗣に伝進する。女官長が皇嗣妃に伝進する。
次に皇嗣,皇嗣妃が御前に参進され,拝謝される。
次に皇嗣,皇嗣妃が皇后の御前に参進され,拝謝される。
次に皇嗣,皇嗣妃が席に戻られる。
次に天皇,皇后が御退出になる。前行及び随従は,お出ましのときと同じである。
次に皇嗣,皇嗣妃が退出される。
このときの服装は、男子燕尾服、女子はローブデコルテ、勲章着用
以上、引用終わり。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?