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操られ、踊らされている? 女系継承容認派に秋波おくる参院調査論文 その2(2020年06月28日)
皇位継承は古来、なぜ男系主義なのか、日本国憲法を起点とする「2.5代」ご公務天皇論からは、その根拠は見出し得ません。かといって、皇祖神の神勅に基づき、皇祖神を祀り、稲を捧げて祈るのが天皇の祭祀だと思い込んでいる国学、神道学の立場からも男系継承主義の本義は説明できないでしょう。
少なくとも古代律令制の時代から、皇祖神のみならず天神地祇を祀り、米のみならず粟を神前に供し、あらゆる民のために、公正かつ無私の祈りを捧げることが天皇第一のお務めとされた一点にのみ、女性天皇は認められても、夫がいる、あるいは妊娠中、子育て中の女性天皇は歴史に存在しない皇位継承の最大の理由が隠されているのではないでしょうか。
つまり、葦津珍彦が指摘したように「公正かつ無私なる祭り主」の万世一系なる祈りの力で、国と民がひとつに統合され、未来永劫、平和が保障されるという古代からの天皇統治のあり方が最重要ポイントなのでしょうが、日本国憲法が最高法規とされ、いまや国民の85%が女帝容認に傾くご時世に、いまさらその歴史的価値が理解されるのかどうかが問われています。
さて、それでは前々回に続いて、岩波祐子・参院調査室調査員のリポート『「安定的な皇位継承」をめぐる経緯―─我が国と外国王室の実例』を読み進めます。
▽5 表層的な議論を追う
岩波さんは平成17年4月の衆参憲法調査会報告書における議論に続き、同年11月の小泉政権時代の『皇室典範に関する有識者会議報告書』について解説します。
有識者会議は座長には元東京大学総長の吉川弘之氏、座長代理に元最高裁判事の園部逸夫氏が座り、ヒアリングが実施され、旧宮家の男系男子の子孫を皇室に迎える案なども提案されました。
しかし報告書は、結論として、皇位継承資格を皇族女子や女系の皇族に拡大し、皇位継承順位については、天皇の直系子孫を優先し、天皇の子である兄弟姉妹の間では、男女を区別せずに、年齢順に皇位継承順位を設定する長子優先の制度が適当であるとされた。これらを基本として、皇族の範囲についても、女性天皇及び女性の皇族の配偶者も皇族とすること、永世皇族制の維持、皇籍離脱制度の見直し等も言及されている、と岩波さんはまとめ、報告書の「結び」をそっくり引用しています。
けれどもその後、岩波さんが指摘するように、小泉総理は皇室典範の改正案をまとめて国会に提出する意向とされますが、文仁親王妃紀子殿下の懐妊発表で提出は見送られたままとなっています。
一点だけ補足すると、報告書には「女性宮家」という表現はないものの、その中身が盛り込まれています。平成8年に始まる政府・宮内庁の女性天皇容認はイコール「女性宮家」創設だったのですが、岩波さんのリポートにはまったく言及されていません。つまり、女系継承容認論が政府部内でどのように生まれ、成長してきたのか、岩波さんには見えていないのでしょうか。
次は、野田政権時代の『皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理』ですが、岩波さんの解説は少し変です。
岩波さんは、野田政権の下で、女性皇族の婚姻による皇族数の減少と皇室の御活動の維持という課題について、有識者ヒアリングが行われたと説明しています。現行の皇室典範の規定の下では女性皇族は婚姻により皇籍を離脱することから、皇室活動の安定的な維持と天皇皇后両陛下の御負担軽減が喫緊の課題だというわけです。
岩波さんが心を寄せているらしい女系容認派の園部さんは、なるほどヒアリングのときに繰り返し説明していました。
「天皇陛下の大変な数の御公務の御負担をとにかく減らさないと。それは大変な御負担の中なさっておられるわけでして、そうした天皇陛下の御公務に国民はありがたいという気持ちを抱いていると思いますが、国民として手伝えるのは天皇陛下の御公務の御負担を減らすことなんです。
そのためには、どうしてもどなたかが皇族の身分をそのまま維持して、その皇族の身分で皇室のいろいろな御公務を天皇陛下や皇太子殿下や秋篠宮殿下以外の方も御分担できるようにする。そして、減らしていくというのが最大の目的です」
しかしこの説明自体に無理があったのでした。当初は、「天皇皇后両陛下の御負担をどう軽減していくかが緊急性の高い課題となっている」と説明していたのに、「論点整理」では、悠仁親王殿下が皇位を継承される将来の問題に飛んでしまいました。岩波さんの論考にはむろんその説明はありません。
その後、衆議院の解散、総選挙が行われ、政権が交代します。安倍総理は、女性宮家の創設について、きわめて慎重な対応が必要と表明しました。岩波さんの解説の通りです。
結局のところ、小泉総理の有識者会議といい、野田総理のヒアリングといい、男系主義の意味はなんら見出せませんでした。岩波さんは本質論を避け、表層的な議論を追いかけているだけのように見えます。
▽6 「生前退位」問題とは何だったのか
つぎに、論考は、先帝の退位をめぐる議論に進みます。
岩波さんの説明では、平成28年7月の「生前退位」報道に始まり、先帝の「おことば」、「有識者会議」などを経て、皇室典範特例法が成立していく過程で、女性宮家の創設、女性・女系天皇への拡大、旧宮家の皇族への復帰等について、早期に議論の場を設けるべきではないかなどとの意見が交わされました。
有識者会議の最終報告書は「おわりに」で、皇族数の減少への対策は一層先延ばしのできない課題となるとして、現在の皇室典範の皇族女子の婚姻による皇籍離脱、皇孫世代の皇族の状況に触れて、「皇族数の減少に対する対策について速やかに検討を行うことが必要」と指摘しました。
皇室典範特例法は衆議院本会議で多数で可決され、参議院本会議では全会一致で可決、成立しましたが、その際、「女性宮家の創設などは先延ばしできない」などとする附帯決議が付されることとなりました。
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結局、議論は皇族の減少という現実論に集中し、歴史的な男系主義の意義の追究は行われませんでしたが、そのことの解説は岩波さんの論考には見当たりません。それどころか、いわゆる「生前退位」問題とは何だったのか、本質論は何も見えてきません。「生前退位」報道以後、どんどん曲がっていった女系継承容認論に操られ、踊らされているだけではないでしょうか。
岩波さんはなぜこのリポートを書くことになったのか、もしかすると、案外、深い闇があるのかもしれません。