「竹島の日」制定と「慰安婦歴史観」開館──「日韓友情年」に不信と対立が増す皮肉(「神社新報」平成17年4月4日号)
(画像は竹島。外務省HPから拝借しました。ありがとうございます)
日韓両国政府は「国交正常化40年」の今年(平成17年)を「友情年」と位置づけ、多角的な交流を推進しています。ところが、3月下旬、島根県議会が「竹島の日」を制定したことから、韓国側は日本の国旗を焼くなど猛反発しました。これではもう「友情」どころではありません。
火種はもっぱら日本かといえば、そうではありません。折しも第2次大戦「終戦60年」で、韓国ではおよそ友好的ではない「独立60年」記念事業が進行しています。
たとえば、「独立運動が開始された日」の3月1日には、女性省がインターネット上に「日本軍慰安婦サイバー歴史館」(http://www.hermuseum.go.kr/ 韓国語。現在は英語のページもある)を開設しました。目的は「独立60年を機に、日本の悪行に対する韓国人の認識を促進するため」だそうで、これでは不信と対立が激化するのは当然です。
▢1「日本大使館に抗議を」とアニメで教える「子供教室」
「歴史館」のサイトを開くと、木立に囲まれた建物群が立体的に浮かび上がります。「掲示板」「資料室」「運動館」などと並んで、「慰安婦を簡単に学べる」と注釈のついた「子供歴史教室」まであります。「教室」をクリックすると新しいウインドウが開き、中央のスクリーンに元慰安婦のお婆さん(ハルモニ)と女の子がアニメーションで登場します。
メニューから「慰安婦とは」を選ぶと、お腹の大きな女性たちや「身も心も捧ぐ大和撫子のサービス」と墨書された慰安所の正門などがスライドで次々に現れるかたわらで、ハルモニが女の子に「慰安婦というのはね、日本が引き起こした戦争で日本軍に従軍し、性の奴隷になった女性たちを指すのよ」などと、お婆ちゃん言葉で説明します。
いわく、日本は朝鮮侵略では足りず、アジア全域から太平洋地域まで侵略した。慰安所は1930年代初めから陸軍、海軍、空軍全体に設置された。占領地域では強姦事件が多発し、反日感情が高まった。不祥事と性病の発生を防ぎ、あわせて軍人の士気昂揚のため慰安所が設けられた。ある軍医官は慰安婦を「天皇からの賜り物」と表現している。11歳の少女から30歳を超えた、あらゆる年代の女性が動員された。過酷な毎日だった。工場で働くとだまして連れて行かれた──。
日本軍に「空軍」があったとは初耳ですが、それはともかくも、嘘であざむいて女性をさらい、自由のない慰安所に押し込め、慰みものにしたという残虐なイメージを、韓国政府は子供にまで植え付けようとしているかに見えます。
「子供教室」の「問題解決のために」のページでは、元慰安婦は、「歴史を真摯に学」び、「誤った歴史をただす」ことを主張しているだけでなく、関心の薄い国会に投書することや、元慰安婦たちが10年前から続けている毎週水曜日の日本大使館に対する抗議行動への参加を呼びかけ、さらには「豚の貯金箱に毎日100ウォンずつ入れれば、月3000ウォン貯まる」と博物館建設の募金活動への協力を訴えています。
「歴史館」は韓国政府による「反日」教育施設であるばかりでなく、「反日」活動の拠点といえます。
「歴史館」では、元慰安婦の顔写真や証言のほか、裁判記録や学術論文、関係図書、新聞資料、映像資料などが閲覧できます。
けれども、なかには掲載意図が理解できないものもあります。
たとえば、昭和12年に上海派遣軍野戦郵便長として従軍した佐々木元勝の『野戦郵便旗』は郵便局近くにあった「上海寮、皇軍将兵慰安所」に言及しているのですが、「ここは半島人(朝鮮人)が営業していた」とあります。
「日本の悪行に対する認識の促進」が目的のはずの「歴史館」が、図らずも「朝鮮人自身の悪行」を暴露しています。
映像資料には、日本政府に謝罪と補償を要求する圧力団体の総本山といわれる挺身隊問題対策協議会が制作したドラマも含まれています。
このほか、元慰安婦を原告とし、北朝鮮工作員とされる人物が検事役を務め、弁護人不在のまま、昭和天皇を「人道に対する罪」「強姦罪」などで「有罪」とした「2000年女性国際戦犯法廷」の判決資料なども提供されています。
一見、豊富な資料を集める「資料室」ですが、慰安婦問題を客観的資料と証言で総合的に検証した第一級の研究書である、秦郁彦・日本大学教授の『慰安婦と戦場の性』などは見当たりません。
表向きは「IT先進国」ならではの巧緻な「サイバー歴史館」ですが、その内容は一面的で公平性に欠けるといわざるを得ません。結果として、仮想空間内で相互不信が肥大化していくのは避けられません。
▢2 なぜ宮沢首相は「謝罪」したのか。誤った「政治判断」のツケ
慰安婦問題の発端は、韓国ではなく日本だ、と指摘されています。
「真珠湾50周年」の平成3年暮れ、元慰安婦などが日本政府を相手どり、計7億円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしました。「青春を返して」。名乗りを上げた元慰安婦第1号・金学順さんの涙の訴えは、多くの日本人の同情を誘いました。
けれども、家庭の貧困から身売りされたのが転落の人生の始まりだった、という重大な事実は、このときは伏せられていました。訴訟の原告は日本人運動家らがわざわざ訪韓して捜し出し、裁判費用も日本側が提供していたといわれます。
「加害者」の日本人が、「被害者」の韓国人の痛みを代弁して訴える「ゆがんだ構図」と指摘されています。
もともと勝訴の見込みはありませんでした。
というのも、40年前、日韓両国は基本条約の締結と同時に、「日韓請求権並びに経済協力協定」を結びました。日本が無償協力3億ドル、円有償協力2億ドル、民間借款3億ドルという、当時の韓国の国家予算をはるかに上回る経済協力をする代わりに、韓国は国および国民の請求権を放棄し、「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」したからです。
韓国政府は経済協力金の一部を召集・徴用で命を失った国民に補償金として支払いました。誰に戦後補償を実施するかは政府の裁量権の範囲であり、元慰安婦が補償の対象とならなかったとしても、訴えるべき相手は韓国政府でなければなりません。
このため日本政府は「解決済み」との姿勢でしたが、慰安婦に肩入れするマスコミは違っていました。翌4年1月、朝日新聞は、吉見義明・中央大学教授が防衛庁の図書館で「軍関与を示す資料」を「発見」した、という「特ダネ」を掲載し、事態は一転します。
「資料」は「日本軍が慰安所の設置や、従軍慰安婦の募集を監督、統制していたことを示す通達類や陣中日誌」ですが、じつは研究者の間では周知で、しかもその内容は官憲による「強制連行」を裏付けるのではなく、「慰安婦を募集する際、業者などがトラブルを起こして警察沙汰になるなどしたため……募集に当たっては、派遣軍が統制し、社会問題上遺漏なきよう配慮……するよう指示」したものでした。
軍・警察は業者による「強制連行」をやめさせようとしていたのです。
しかし「挺身隊の名で強制連行した」と用語解説し、「軍関与は明々白々。謝罪はもとより補償すべき」という吉見教授のコメントが載る1面トップの「スクープ」は、大反響を呼びます。
韓国マスコミは制度的にまったく異なる「挺身隊」と「慰安婦」を混同し、「小学生までが女子挺身隊に動員された」と報道して「反日」をあおり、韓国民の怒りに油を注いだのです。挺身隊の名目で慰安婦にされた事例は見つかっていないのに、です。
感情むき出しの外圧に屈して、加藤紘一内閣官房長官は「関与は否定できない」と談話を発表し、宮沢喜一首相は、抗議デモが荒れ狂う韓国で、何度も「謝罪」しました。
首相訪韓は以前から予定され、北朝鮮の核武装や南北統一問題を協議するはずでしたが、本題はすっかりかすんでしまいます。
同年7月、加藤長官は「政府は関与したが、強制連行を裏付ける資料はなかった」と報告しました。
他方、同じ時期に韓国政府がまとめた報告書は「黒人奴隷狩りのような手法で」と表現しました。根拠とされる吉田清治『私の戦争犯罪』には「済州島で軍の協力により、1週間で205人の女性を強制連行した」とありますが、地元紙や秦郁彦教授の現地調査によってでっち上げであることが証明されています。
宮沢首相は真相究明も不十分なまま、簡単に「謝罪」してしまったことになります。
翌5年の終戦記念日を前に、宮沢内閣はふたたび調査結果を公表し、河野洋平官房長官は「官憲による強制連行」を事実として認めてしまいます。
けれども、これは石原信雄官房副長官が「根拠は元慰安婦の証言しかない。『強制連行がなかった』とすると韓国世論を抑えられない。賠償は要求しないから『あった』ということにしてほしい、と依頼され、政治的に認めた」と証言し、政治的産物であったことが知られています。
この日、宮沢内閣は総辞職するのですが、誤った外交取引は今日まで禍根を残すことになりました。
「慰安婦」は事実認識の誤りが正されることなく、日韓の教科書に記述され、国際社会に浸透していきました。国連人権委員会のクマラスワミ報告書は十分な歴史検証を怠ったまま、「日本政府は法的責任を認めよ」と迫っています。
戦争中、日本軍が慰安婦を連れていたことは歴史的事実で、否定する研究者はいないといいます。
売春は「世界最古の職業」であり、軍隊用の慰安婦も歴史とともに古い。戦地の慰安所で働くからには「軍の関与」は当然です。戦前は売買春は合法で、大戦中の日本をことさら犯罪的と断じることはできないし、「性の奴隷」と一方的に断定することもできません。
陸軍大将の2倍稼ぐ慰安婦もいるほどでしたから、数カ月で前借金を返済し、自由の身になる者もいました。それでも「商売」をやめなかった、といわれます。
慰安婦と将兵との心情的交流や恋愛話はしばしば元慰安婦自身が伝えています。両者の間には連帯感さえあり、日本軍関係者は慰安婦を「戦友」と呼びます。
先の大戦で朝鮮が日本と戦争した事実はなく、朝鮮および朝鮮人は大東亜戦争をともに戦う最大の協力者であり、慰安婦も同様です。慰安婦出身の女兵伝説すらあります。
けれども反日色を強める当世の韓国では対日協力者=売国奴で、であればこそ、慰安婦たちは生き延びるために「被害者」を演じ続けざるを得ないということでしょうか。
「社会の公器」たるべき大新聞の責任も問われています。
元慰安婦第一号の名乗りを「スクープ」した朝日新聞記者は個人補償請求裁判の原告側代表者と姻戚関係にあるといいます。「軍関与資料発見」の記事は宮沢訪韓にタイミングを合わせたものといわれます。
2000年女性国際戦犯法廷は元朝日新聞記者が代表を務める女性団体などの主催で、のちに、政治家の介入の有無をめぐって朝日新聞とNHKが真っ向から対立した「NHK番組改変問題」の要因ともなりましたが、突然の記者会見で政治的圧力をかける、いつもの手法が繰り返されている、といえば、うがった見方になるでしょうか。
▢3「心からの謝罪と賠償を」と韓国大統領が「正常化」を否定
「慰安婦サイバー歴史館」が開館したのと同じ3月1日、韓国の盧武鉉大統領は「3・1独立運動」記念式典で演説し、「日本は過去の過ちに対して、心からの謝罪と賠償をしなければならない」と強く主張しました。
高野紀元駐韓大使の「竹島は日本領」発言や島根県議会の「竹島の日」制定の動きなどを牽制しながら、「日帝」期の「強制徴用」に言及し、「これまで政府は解決の努力を欠いていた。国交正常化は不可欠だったが、被害者個人の賠償請求権を処理すべきではなかった」と朴正煕政権下での正常化を批判しました。
朴政権下、日韓条約に基づく経済協力金は経済建設に投入され、「漢江の奇跡」とよばれる経済発展の基礎が築かれたほか、一部は国民への補償に充てられました。
「解決済み」の請求権問題を持ち出した盧大統領の「謝罪と賠償」要求は、前年夏の首脳会談で「任期中は歴史問題を提起しない」と述べた大統領自身の約束を反故にしたばかりか、主権国家同士が結んだ正常化の枠組みを公的立場で否定したことになります。
日本政府はちょうど10年前、元慰安婦に対する国民的な「償い」に取り組むアジア女性基金を設立し、「償い事業」を実施しました。韓国側は当初は肯定的態度でしたが、やがて否定的評価に変わっていきました。
女性基金に問題がないわけではありませんが、日本側の問題解決の努力を蔑ろにし、日本糾弾自体を目的としたかのような今回の歴史館開館および大統領演説は、「国交正常化40周年」の今年を「日韓友情年」と位置づけ、「未来志向」的に多角的交流を推進する両政府合意の趣旨に反していないでしょうか。
大統領はさらに北朝鮮の拉致問題に言及し、「日帝時代に従軍慰安婦として強制徴用された韓国人被害者の苦しみを日本人も理解すべきだ」と述べましたが、韓国風に表現すれば、これこそ「歴史の歪曲」といえます。「慰安婦」が「強制徴用」されたという史実はないし、「慰安婦」問題と「拉致」問題を同次元で論ずるべきでもありません。
大統領は演説の中で、国交回復40周年の今年、「二国間協力によって北東アジアの時代を切り開くために誠実を基礎とした親しい隣国として生まれ変わる必要性を強調した」と伝えられますが、「誠実」が求められるのは日本なのでしょうか。
大統領は「過去の真実の究明」を主張しますが、誰がそうすべきかは「サイバー歴史館」の設立とその内容から明らかです。3月1日の大統領発言が過激なのは毎年のことで、あくまで「国内向け」との見方もありますが、それではすまされないでしょう。
新たな事態も生まれています。
日本では、野党議員らが国家の責任を明確にする法案を参議院に再提出しました。国際的な女性団体が夏に向けて、日本の謝罪と補償を求める100万人署名、慰安婦博物館建設運動を展開する動きも伝えられます。署名は国連に提出されるといいます。
韓国では、日本の歴史教科書検定に対する反発もにわかに強まっています。
韓国文化研究者の一人は、「儒教文化が根強い韓国社会では形式が尊重され、現実が軽視される。あらまほしき幻影の正当化に全精力が傾注され、人々は気分だけで突っ走る」と指摘し、「客観性や冷静さを期待できない社会に対抗するには、たとえば韓国・朝鮮人犯罪博物館などを建て、相手が尻尾を巻くほどの『気分論理』でギャフンといわせるしかない」と主張します。
報復合戦は望ましくはありませんが、その場しのぎの「謝罪」では日本の国際的な地位が保てないのも確かで、政府の毅然たる態度こそ望まれます。ちょうど韓国側の反発にも揺るがず、「竹島の日」条例を賛成多数で可決した島根県議会のように。(参考資料=秦郁彦『慰安婦と戦場の性』、上杉千年『検証・従軍慰安婦』、西岡力『コリア・タブーを解く』など)