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もっぱら「退位」を検討した「負担軽減」会議の矛盾──有識者会議の最終報告書を読んで(2017年4月23日)


 おととい、天皇の公務の軽減等に関する有識者会議の最終報告書が安倍総理に提出された。昨秋以来、短期間の間によくぞここまでまとめられたものだと思う。関係者各位のご努力にまず敬意を表したいと思う。

 ただ、報告書の中身を眺めていると、結局のところ、「天皇の公務の軽減等に関する」という会議の名称とは完全に相違し、もっぱら「退位」問題の検討に終始したのだとあらためて感じ入っている。

▽「退位ファースト」になった理由


 報告書は以下のように6章立てになっている。1はいわば序章だから、6章以外本論はすべて「退位」問題だということになる。

 1 最終報告のとりまとめに至る経緯
 2 退位後のお立場等
 3 退位後の天皇およびその后の事務をつかさる組織
 4 退位後の天皇およびその后に係る費用等
 5 退位後の天皇のご活動のあり方
 6 皇子ではない皇位継承順位第一位の皇族の称号等

 なぜ「退位ファースト」の会議になったのか。報告書がいちおう説明するところによれば、こうである。

 まずご負担軽減について検討するようにという安倍総理の要請を出発点として、有識者会議は議論を重ねてきた。軽減策にはさまざまな方策があることがわかったが、今年3月、衆参正副議長による「『退位等についての立法府の対応』に関する議論のとりまとめ」が政府に伝えられ、安倍総理が直ちに特例法立案に取り組む発言があったのを踏まえ、関連する課題について議論を進めてきた、というのである。

 ここにはメディアが伝えてきた、陛下による「生前退位」の御意向表明や昨年8月のお言葉がない。一連の動きは陛下のお気持ちが出発点であることは誰の目にも明らかなのに、その事実にはフタをするかたちで議論が進められ、報告書がまとめられている。

 それはなぜかといえば、天皇は「国政に関する権能を有しない」とする憲法上の制約があるからだろう。天皇の発議によって新たな法制度をつくるなどということは憲法上あり得ない。あえて行うというなら、皇室典範どころか、まずは憲法を改正するのが筋である。

 この法的な制約を打開しつつ、陛下の御意向に添うにはどうすればいいのか、関係者にとっては最大の苦心だったろう。会議の名称が「退位」でなかったのもその結果だろう。

 逆にいえば、なぜそこまで手の込んだ援護を必要とするむずかしい事態に立ち至ったのか、である。

▽翻意を促すべきだった


 おとといの日経新聞は、その辺の事情を浮かび上がらせていて、おもしろい。

 退位のご意向が宮内庁から官邸に伝えられたのは平成27年10月ごろだったが、「即位と退位の自由は憲法上、認められない」が官邸側の結論で、同年暮れの誕生日のお言葉での表明も見送られた。官邸サイドは風岡宮内庁長官に「摂政ではダメか」と繰り返し陛下の翻意を促したが、否定的な返答しか返ってこなかった。

 そこへ昨年7月、NHKのスクープ報道があり、官邸は方針転換を余儀なくされていった、と伝えている。とすると、あのスクープは誰が何の目的でリークした結果だったのか。日経によれば、情報提供者は長官でも次長でもないらしい。

 さらに日経は、8月8日のお言葉の作成段階に、異例にも安倍総理が関与したことを伝えている。「宮内庁の初稿は海外の退位事例を紹介するなど、陛下の退位の意向があらわになる文面だった」から、官邸は削除を要求した。

 なるほど陛下ご自身が発表されたメッセージは、メディアが「退位の意向をにじませた」といくら報道しても、「退位」表明と素直に読めないのは道理である。文章のつながりが不自然に感じられるところがあるのは、削除の結果だったろうと想像される。

 ここでどうしても指摘しなければならないのは、宮内庁トップの役割である。退位の否認は官邸のみならず、宮内庁の方針でもあり、国会でもそのように何度も答弁してきたはずである。長官は職を賭してでも翻意を促すべきではなかったか。

 もうひとつ、なぜ陛下は憲法や皇室典範の規定に基づく、従来の政府の方針にまっこうから抵抗なさるような「譲位」表明をなさることになったのだろうか。皇位継承以来、何度も「憲法を守る」と表明されてきたはずなのにである。最大の謎といえる。

▽もう時間がない


 ともかく来年12月には御代替わりがやってくることは確実らしい。即位の礼・大嘗祭は再来年の秋という日程になるだろう。ある宮内庁OBによると、御代替わり儀礼を瑕疵なく執行するには、祭儀を担当する職員の人数を増やす必要があるし、練習も必要で、来年の新嘗祭を経験させる必要があるという。

 そのことは当然、来年度の予算にも関わってくる。宮廷費、内廷費の増額が必至である。だとすると、今年夏に来年度予算の概算要求があり、12月に財務省原案が策定され、政府案が閣議決定されるというタイムスケジュールにあわせて、作業を急ぐ必要がある。

 ましてや御代替わり諸儀礼の正常化を願うなら、実質的にはほとんど時間的余裕はない。

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