「密約」問題で大騒ぎする愚 by 花岡信昭(元産経新聞副編集長。2010年03月15日)
(画像は首相官邸。同HPから拝借しました。ありがとうございます)
◇ 鳩山政権の幼稚さ ◇
日米の「核密約」問題は、有識者による報告書が出たのだから、これで打ち止めにすべきだ。自民党政権時代の「ウソ」を暴き立てるのが、鳩山政権の目的のように見えるが、声高に騒げば騒ぐほど、政権の幼稚さが際立つことになる。
この種のことは、外交秘話として歴史の中におさめておくことだ。それが賢明な政治というものだ。
だいたいが、日本の安全保障はアメリカの「核の傘」を基盤としているのである。その有効性に傷をつけてはならない。
密約の存在を一部にしろ認めるのは結構だとしても、これによって、「非核3原則」で日本の外交、安保政策の枠をがちがちに縛り付けるのは、愚策以外のなにものでもない。いざ有事というときに、アメリカの核の傘が有効に機能しなかったら、どういうことになるか。そのほうがはるかに恐ろしい。
日本政府はこれまで、米側から事前協議の申し出がなかったから核持ち込みはなかったと判断する、という基本方針を取ってきた。これでいい。これが政治の巧緻というものである。
実態としては、アメリカの核は潜水艦発射ミサイルが主体となっているから、今後、核の持ち込み、一時寄港が現実のものとなることはまずない。もっとも、有事となれば別だ。そのときには、最大限の力を発揮してもらわないと困る。
◇ 一時寄港容認を止めた宮沢 ◇
宮沢喜一氏から生前に聞いた話を思い出している。外相当時のことだ。外務省内で「非核3原則を2・5原則にしたい」という構想が検討されていることを知ったという。一時寄港は認めようというものだ。
リベラルの代表格の宮沢氏らしいところだが、これを聞いて、ただちにやめさせたという。その理由がいかにも宮沢氏のリアリズムを象徴している。
「2・5原則への変更を言い出したりしたら、反対派がデモ船を大量に動員して東京湾を埋めるだろう。これを1週間もやられたら日本経済はもたない。いま、国論を二分するような話を持ち出す時期とは思えない」
宮沢氏の指示により、外務省内でひそかに検討されていた「2・5原則への変更」は立ち消えとなった。
非核3原則にしろ、武器輸出規制にしろ、日本の安全保障をあやうくする縛りが多すぎる。こういうことをやっている先進国がどれだけあるか。外交、安保政策の裁量の幅を自ら狭めてしまっては、抑止力もなにもあったものではない。
民主党政権に発想の大転換を求めてもムダであることは百も承知しているが、一見、「よいこと」のように見える方針が実はもっともあやういのだ。
【産経配信記事】
日米密約「3密約を認定」有識者委員会
日米4密約問題を調査した外務省有識者委員会(座長・北岡伸一東大教授)は9日、報告書を岡田克也外相に提出した。昭和35(1960)年の日米安全保障条約改定時の核持ち込み容認と、47年の沖縄返還時の原状回復費肩代わり、朝鮮半島有事の米軍出動をめぐる合意の3つを密約と認定。44年の沖縄返還決定時の沖縄核再持ち込み合意については、政府内で引き継がれていないことなどを理由に密約としなかった。
政権交代を受け、岡田外相は「国民の理解と信頼に基づく外交」実現に向けて取り組んだ。被爆国でありながら米国の「核の傘」に依存してきたことを背景に形成された一連の密約を同委員会は「政府のうそと不正直」(報告書)と評価した。ただ「持ち込ませず」などとした非核三原則と矛盾する密約の内容を今後、鳩山内閣が対米外交上、どう扱うのかが焦点となる。
【日米密約有識者委員会のメンバー】
北岡伸一東大教授(座長)=日本政治外交史▽波多野澄雄筑波大教授=近代日本外交史▽河野康子法政大教授=戦後日本政治史▽坂元一哉大阪大教授=日米関係論▽佐々木卓也立教大教授=米国外交史▽春名幹男名古屋大大学院教授=国際報道論
[斎藤吉久から]花岡さんのご了解を得て、花岡信昭メールマガジン780号[2010・3・10]から転載しました。読者の便宜を考慮し、若干の編集を加えてあります。
http://www.melma.com/backnumber_142868_4787601/
以前、書いたように、鳩山首相の「友愛」は「友愛の元祖」クーデンホーフ・カレルギーとは違って、現実的感覚がまるで欠けています。密約問題もしかりで、市村眞一先生が指摘したとおり、まさに書生論です。政治とはいえません。政策の優先順位を完全に見誤っています。
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