とうとうゼロになった宮中祭祀のおでまし(2009年9月8日)
物書きというのは、などと一般化してしまうと、語弊があるかもしれませんが、とりわけ私は算術・計算が苦手です。一応、高校の数3まで勉強した学生時代ならいざ知らず、物書きになってからは、数字を扱うのはいうにおよばず、もうかる記事を書いて、原稿をカネに換えることなど、思いもよりません。
そんなわけで、友人の新聞記者に「陛下のご公務を統計的に調査してみたら」と勧めたのは今年の早春でした。算数のできない私よりは適任だと思ったからです。
ところが、意味が伝わらないのです。それでは仕方がない、計算間違いがないことを祈りつつ、押っ取り刀で始めたのが、このメルマガで毎月、統計的に追いかけているご公務削減問題です。
おかげさまで、雑誌「正論」10月に記事が載るまでになりました。
http://www.sankei.co.jp/seiron/wnews/0909/mokji.html
友人の記者もその記事を読んで、私の言っている意味がようやく分かってくれたようです。
ということで、今号は、宮内庁のデータも出そろいましたので、いつものように、先月のご公務ご日程について検証します。
▽かけ声倒れのご公務削減
まず、宮内庁のホームページに発表されているご日程の件数を、過去3年間について、1~8月まで月ごとに単純に足し算し、表にまとめると、次のようになります。
19年 20年 21年
1月 41 49 55
2月 44 36 38
3月 53 53 59
4月 50 61 68
5月 39 51 52
6月 40 46 52
7月 43 43 26
8月 39 24 30
小計 349 363 380
8月について比較すると、19年はご日程件数が39件と、前月の43件から約1割減りました。25~27日までの地方行幸啓が影響したものと思われます。20年は8月24~30日まで1週間におよぶ長野県・群馬県ご滞在のためか、ご日程件数は24件。前年8月の3分の2以下に減りました。
それなら、ご負担軽減が打ち出された今年の8月はどうでしょうか。7日には千葉県行幸啓、24~27日には長野県ご滞在がありましたから、件数が減ってもよさそうですが、実際のご日程件数は30件で、前年の24件より2割以上増えています。
1~8月期の合計では、一昨年、去年、今年と、およそ4パーセントずつ増えています。
少なくとも宮内庁発表の数字で見る限り、今年1月に打ち出されたご公務削減は、かけ声倒れに終わっています。
▽いっこうに減らない「拝謁」
中身を見てみます。
以下は宮内庁の分類法に準じ、19~21年8月期のご公務日程を、「宮中のご公務など」「行幸啓など」に分類し、表にまとめたものです。「国際親善」については省略しました。
19年 20年 21年
[1]宮中のご公務など
ご執務など 7 5 3
新年祝賀の儀・新年一般参賀 0 0 0
天皇誕生日祝賀・一般参賀 0 0 0
首相・最高裁長官の親任式 0 0 0
大臣ほか認証官の任命式 0 2 1
大綬章などの親授式 3 0 0
新任外国大使の信任状捧呈式 2 2 1
外国元首とのご会見・そのほかのご引見 3 1 6
国内功労者などの拝謁・お茶・ご会釈 21 15 18
海外賓客の午餐・晩餐 0 0 0
春秋2回の園遊会 0 0 0
宮中祭祀 2 2 0
その他(稲作など) 0 0 0
ご結婚50年祝賀関連 0 0 0
宮中のご公務小計 38 27 29
[2]行幸啓など
全国戦没者追悼式など都内式典ご臨席 2 1 1
植樹祭などご臨席の地方行幸啓 0 0 1
その他の都内お出まし 2 0 2
その他の地方行幸啓 6 3 4
地方ご静養 0 0 0
行幸啓小計 10 4 8
宮中のご公務について見ると、「ご執務」が一昨年、去年に比べ、今年は半減しています。一方で、減らないのが「ご会見・ご引見」、それと「国内功労者などの拝謁」です。
一昨年8月は離任する外国大使の「ご引見」が2件でしたが、今年は5件ありました。各界功労者の「拝謁」は、とくにどれが増えているというわけではなさそうですが、減る気配が見えません。
▽祭祀こそ天皇第一のお務めのはずなのに
これに対して、ご負担軽減の標的にされているのが宮中祭祀であることは、すでにご承知のとおりですが、先月はとうとうお出ましがゼロになりました。
過去3年間について、月ごとの祭祀件数を表にまとめると次のようになります。
19年 20年 21年
1月 8 7 4
2月 4 3 2
3月 2 4 1
4月 2 3 3
5月 4 1 1
6月 3 3 3
7月 3 2 3
8月 2 2 0
計 28 25 17
19年8月は1日の旬祭、堀河天皇900年式年祭の親拝があり、昨年は1日の旬祭、孝昭天皇2400年式年祭の親拝がありましたが、今年は毎月1日の旬祭の親拝が年2回に削減され、歴代天皇の式年祭もなかったことから、結果として祭祀の件数がゼロになったのでしょう。
歴代天皇は祭祀こそ天皇第一のお務めと考え、今上陛下も同様のはずですが、ご健康への配慮を名目に進められるご負担の軽減で、いわゆるご公務はいっこうに減るどころか、増えるばかり、そしてその一方で、天皇の祭祀は側近らによって、ついに奪われてしまったのです。
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