敵は本能寺にあり──日本政府は国連女性差別撤廃委員会で、「天皇=祭祀王」とは訴えていない(令和6年11月17日)
(画像は女性差別撤廃委員会報告の概要を説明する男女共同参画局HP)
「皇統を守る国民連合の会」の葛城奈海会長は、国連の女性差別撤廃委員会の会合で、「天皇は祭祀王だ」と説明し、男系継承主義が女性差別に当たるとする指摘に反論するスピーチを行いました。他方、3日後の審議会で、日本政府代表団は「委員会がわが国の皇室典範について扱うのは適切ではない」と異議を唱えました。産経新聞の阿比留瑠偉論説委員によると、葛城会長は、「いい意味で官と民とが協力できた」と語ったと伝えられます。
とすると、日本政府代表団は、葛城会長と同様に、「天皇=祭祀王」と説き、だからこそ皇位の男系継承が維持されてきたと説明し、「女性差別」ではないと反論したのでしょうか? とんでもありません。委員会が公開する資料を見るかぎり、政府はそんな主張などしていません。皇位の本質論など、どこにも見当たりません。
◇1 女性差別と断定するペラエス議長
代表団(政府代表=岡田恵子・男女共同参画局長)は、文明の根幹に関わる皇位継承について、どのように訴えたのか、資料を読んでみることにします。
国連人権条約機関のデータベースには、今回の定期報告に関連して、日本政府の主張が盛り込まれた資料が載っています。①10月17日に開催された公開会議の議事要録、②翌日に日本代表団が書面で提出した追加の回答、③代表団長の挨拶の3本です。
まず、①の公開会議ですが、議事要録によると、日本の代表団が委員会のメンバーに回答するかたちで進められています。皇位継承に関しては、英文10ページの要録の最終ページに登場し、次のような発言があったと記録されています。
67. A representative of Japan said that systems such as the Imperial House of Japan and the royal families of other countries were based on the respective history and traditions of the nations in question, supported by their people. In Japan, the succession to the throne, as stipulated in the Imperial House Law, was a matter related to the foundation of the State. In the light of the purpose of the Convention, which concerned the elimination of discrimination against women, it was not appropriate for the Committee to raise the issue.
(日本代表の1人は、日本の皇室や諸外国の王族のような制度は、当該国のそれぞれの歴史と伝統に基づいており、その国民に支えられていると述べた。日本では、皇室法に定められた皇位継承は、建国に関わる問題でした。女性に対する差別の撤廃に関する条約の目的に照らして、委員会がこの問題を提起することは適切ではなかった。)
日本政府の主張の要点は、①王位継承制度は各国固有の歴史と伝統があること、②女性差別撤廃とは範疇が異なり、委員会の管轄外であること、の2点です。天皇=祭祀王と説き、男系主義の由来・理由を説明したわけではありません。
これに対して、アナ・ペラエス・ナルバエス議長(スペイン。欧州障害フォーラム副会長。女性差別撤廃委員会初の視覚障害者女性)が次のように反論したと記録されています。
69. The Chair said that she wished to point out that the Committee’s mandate concerned equality between women and men and the elimination of all forms of discrimination against women, which included issues such as discriminatory royal succession laws. The Committee had raised similar issues with other States parties too. Any and all gender-discriminatory laws were of direct relevance to the Committee and its remit under the Convention.
(議長は、委員会の任務が女性と男性の平等と、差別的な王位継承法などの問題を含む女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関係していることを指摘したいと述べた。委員会は、他の締約国に対しても同様の問題を提起していた。あらゆるジェンダー差別的な法律は、条約に基づく委員会とその権限に直接関連するものであった。)
ペラエズ議長は男系継承が女性差別だと単純素朴に断定しています。けんもほろろです。
◇2 日本政府の反論がない理由
それならこれに対して、日本政府からのさらなる反論があったのかどうか、ですが、少なくとも、②の追加回答、③の審議冒頭の団長挨拶には、皇位継承法についての言及は見当たりません。②は障害者に対する職場での差別などがテーマであり、③は男女共同参画推進のための行政の取り組みや前回以後の進捗状況などの説明に終始しています。
結局、10月29日づけの勧告は、すでに書いたように、「日本の皇室法の規定が委員会の権限の範囲内にないという締約国の立場にも留意する」としつつ、「しかし、委員会は、皇統に属する男系男子だけに皇位を継承させることは、第1条および第2条と両立せず、条約の目標と目的に反すると考える」と明記したのです。
阿比留論説委員によれば、政府代表団は「皇位継承は国家の根幹」と訴えたそうですが、もし本気でそう思うなら、ペラエズ議長に対して、あるいは副委員長の地位にある秋月弘子亜細亜大学教授を通じて、猛然と反論すべきです。しかし、その気配はありません。そもそも日本政府が令和3年9月に提出した実施状況報告にも、そして今回の冒頭挨拶にも、皇位継承問題は取り上げられていません。
それはそうでしょう。ここ20数年来、男系主義の「歴史と伝統」に変革を加えようとしてきたのは、ほかならぬ日本政府だからです。政府の反論にパワーを感じないのは当然です。葛城会長や阿比留論説委員が言う「官民協力」などあり得ません。男系主義が日本の建国と密接不可分な「歴史と伝統」であり、女性差別ではないと信じるなら、改心させるべき対象は、国連の委員会ではなく、日本政府です。「敵は本能寺にあり」なのです。