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「皇室制度改革ありき」の誤り──政府の「皇室制度」改革に幕を引いた天皇誕生日会見 3(2017年10月02日)


(画像は平成24年のお誕生日会見に臨まれた陛下。宮内庁HPから拝借しました。ありがとうございます)


あとがきにかえて



▽3 「皇室制度改革ありき」の誤り



 ところが、宮内官僚たちはこれに反して、ご負担軽減どころか、その目的をはるかに超えて、大胆不敵にも「皇室制度」改革に踏み出したのでした。現行の皇室典範では女性皇族が婚姻後、皇籍離脱(臣籍降嫁)する制度になっているから、「皇室の御活動」が安定的に維持できない、御公務が軽減されない、と強引に理屈づけて、です。

 これは謀叛というべきものではないでしょうか。武器を用いない宮廷革命です。

 天皇制否定論者が少なくないらしい民主党政権有識者ヒアリングを実施し、

「象徴天皇制度の下で、皇族数の減少にも一定の歯止めをかけ、皇室の御活動の維持を確かなものとするためには、女性皇族が一般男性と婚姻後も皇族の身分を保持しうることとする制度改正について検討を進めるべきであると考える」

 とする「論点整理」をまとめ上げ、皇室典範改正案を翌年の通常国会に提出する勢いでした。

 政権交代で、歴史にない「女性宮家」を創設する皇室制度改革は遠のきました。けれども、本当の意味でのご負担軽減も実現されずに終わりそうです。

 つまり、政府・宮内庁は、御負担軽減策の実施にもかかわらず、「陛下の御公務」の何がどう増えたのか、何がご負担増の原因なのか、なぜ減らないのか、問題点を明らかにすることもなく、なぜ宮内庁のご負担軽減策が失敗したのか、について、原因を分析しようともしません。

 一方、歴代天皇が第一のお務めと信じ、実践されてきた祭祀の簡略化はそのまま放置されています。

 外国の賓客などとの「ご会見・ご引見」や国内各分野の功労者との「拝謁・お茶・ご会釈」が増えたのなら、皇太子殿下をご名代に立てるなど、工夫のしようがあるだろうし、陛下のご希望による「都内・近郊のお出まし」が激増しているというのなら、

「陛下、お控えください」

 のひと言があってしかるべきでしょう。

 しかもそれら今上陛下の御公務すべてが次代に引き継がれるとも限らないでしょうに、政府は、「象徴天皇制度」の下での天皇陛下の「御活動」の意義を考えると大上段に振りかぶり、「御活動」を調整・見直し、削減するのではなくて、ご結婚後の女性皇族にまで「御分担」いただくことが、緊急に求められている、として、皇室典範改正、皇室制度改革という大袈裟な挑戦を始めたのでした。

 要するに、「制度改革ありき」の発想と論理がそもそもおかしいのです。

 陛下は24年のお誕生日会見で、

「しばらくはこのままで」

 と語られましたが、実際、23年11月のご入院の際、国事行為は皇太子殿下が臨時代行され、秋篠宮殿下が御公務を代行されました。御不例時に、皇太子殿下と弟宮殿下とで、御公務を「御分担」できるなら、もっと以前からご負担削減は可能であり、皇位継承問題に波及する「皇室制度」改革など不要でした。

 すでに書いたように、かねて宮内庁がご負担軽減で注目していたのは、「ご引見」「拝謁」の多いことでしたが、宮内庁の公表データによると、ご負担軽減策の実施後も、外国大使との「お茶」「午餐」は減っていません。一カ国ごとに行われる離任大使の「ご引見」は驚くほど日程がたて込んでいます。叙勲に伴う「拝謁」もほとんど変わりません。

 皇室の基本法に手をつけるまえに、陛下のご負担軽減のためにできることが現実にあるのです。側近たちが信じ込んでいるらしい、「御活動」なさる天皇・皇室論に立脚する「皇室制度改革ありき」の姿勢に誤りがあるのです。

 ご負担軽減の標的とされた宮中祭祀についても、原則なき簡略化以外に方法はあったはずです。


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