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「反共」「抗日」のシンボル・韓国「顕忠院」──韓国から日本、北朝鮮への「答礼」がない(「神社新報」平成17年9月)
(画像は大田顕忠院で献花する鳩山総理。官邸HPから拝借しました)
「終戦六十年」の今年、お隣の韓国では「日帝」支配からの独立を祝ふ「光復六十周年」で、八月十四日から「自主平和統一のための八・一五民族大祝典」が開かれ、開会式には北朝鮮の当局者や民間代表も参加した、と伝へられる。
なかでも注目すべきは、祝典の開幕式出席に先立って、三十二人の代表団(団長=金己男労働党書記)がソウルの国立墓地顕忠院を表敬参拝したことである。
▽1 「驚きの行動」か
顕忠院はもともと「反共」のシンボルで、前身の国軍墓地は朝鮮戦争後の一九五五(昭和三十)年に造成された。十年後、国立墓地に昇格し、六七年には顕忠院のシンボル「顕忠塔」が建てられた。
塔の左右には二十三メートルの壁が翼を広げ、左側は朝鮮戦争、右側は「抗日独立戦争」をテーマとするレリーフが刻まれてゐる。顕忠院は「反共」「抗日」といふ二大国是のシンボルなのである。
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顕忠塔内部には朝鮮戦争時の戦死者十万四千人の位牌が並び、地下には無名戦士六千二百余柱の遺骨を納める納骨堂がある。塔の前には祭壇があり、朝鮮戦争で戦死した将兵の認識票を溶かし込んだ香炉が置かれる。
他方で、広大な顕忠院の敷地内には三・一独立運動や抗日武装闘争の活動家を祀る慰霊碑なども設けられてゐる。
七〇年六月には、「朝鮮戦争開戦二十周年」の記念行事が予定されてゐた顕忠院を、侵入した北朝鮮ゲリラが高性能爆弾で爆破するといふ事件も起きた。行事に出席する朴正煕大統領の暗殺が狙ひだったといはれる。
その顕忠院に北朝鮮関係者が参拝したのである。献花・焼香こそなかったが、「反共」の国家シンボルの前で北の関係者がしばし黙祷したのは前代未聞といはざるを得ず、韓国マスコミは「驚きの行動」と報道した。
しかし今回の行動は本当に「驚き」と見るべきものなのかどうか。
金大中政権から盧武鉉政権に代はり、韓国は一段と「親北」の姿勢を強め、それに反比例するかのやうに「反日」姿勢が強まってゐる。北の顕忠院表敬は韓国の「北朝鮮化」といふ状況下での必然の流れであり、同時にこの流れを促進するものと見ることはできないか。
金団長は顕忠院訪問の理由について「祖国光復のために命を捧げた人たちが祀られてゐるから」と語り、朝鮮戦争については言及しなかった。 つまり北朝鮮側は顕忠院を「反共」のシンボルではなく、あくまで「抗日独立」のシンボルとしてのみ見据ゑてゐる。
北朝鮮の国営中央放送は顕忠院表敬のニュースを伝へたが、顕忠院の説明も黙祷した事実も伝へなかった、と韓国マスコミは不満げに伝へてゐるが、「光復六十年」の節目に、「自主平和統一」の祝典を機会を巧みに捉へて、顕忠院を訪問した北朝鮮の政治的意図を見定めるべきであらう。
▽2 どうなる「答礼」
「民族統一」を強調する北朝鮮側に対して、韓国マスコミは「たった一度の黙祷で、しかも参拝の対象と意図を意識的にせばめた参拝で、南北間の新しい未来が開かれるとは思へない」「過度な友好的解釈は禁物」と戒めてゐる。
けれども、与党ウリ党はじめ韓国の各政党は参拝を一様に歓迎し、とりわけ親北政策を採る盧武鉉大統領は北の代表団に「顕忠院への表敬訪問は非常によいこと」と語ったと伝へられる。
このやうな韓国内の反応をいちばん「歓迎」してゐるのが北であることは間違ひあるまい。
そしてさっそく、新たな問題が生まれてゐる、と韓国マスコミは指摘する。今回の顕忠院訪問への答礼として、北が金日成廟などへの表敬を要求した場合、韓国側はどう対応するか、が課題となる、といふのである。
この指摘はまったく正しいが、同じことは日韓にもいへる。
日本の首相はしばしば韓国の顕忠院を表敬してゐる。とくに平成十三年八月に小泉首相が靖國神社に参拝したあと、中国、韓国から猛然たる反撥がわき起こったとき、首相は同年秋に訪韓し、顕忠院で献花、焼香した。
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けれども韓国大統領が靖國神社に答礼表敬したことはない。
かつて金大中大統領は「戦犯が合祀されない国立墓地のやうなものを日本が造るなら、参拝する用意がある」と語ったが、日本の首相は「抗日」活動家を祀る顕忠院に何度も表敬し、慰霊の誠を捧げてゐる。平成十四年には高円宮・同妃両殿下が表敬された。
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