後景化する中国問題としての靖国問題──度重なる小泉参拝が江沢民派を後退させた!?(2006年10月17日)
中国問題としての靖国問題が後景化しつつあります。
昨日、都内で始まった自民党と公明党、および中国共産党による日中与党交流協議会で、中国共産党の王家瑞対外連絡部長は、いわゆる靖国問題について、「外交圧力をかけるカードには使わない。(提起は)恨みの継続のためではない」と言明し、先般の首脳会談合意を踏まえて、政党間交流を深めていくことで一致した、と伝えられます。
◇1 熾烈な権力闘争の結果
3年前(2003年)、「反日」の権化とも云うべき江沢民に代わって国家主席に就任した胡錦涛は歴史問題を後景化させ、対日改善を呼びかける「新思考外交」を展開しました。ロシアのサンクトペテルブルクで実現した最初の小泉・胡錦涛会談で、胡錦涛は靖国問題に触れることすらありませんでした。中国ウオッチャーは「首脳会談の主役であった歴史問題がその座を降りた瞬間」と表現したほどです。
けれども、新外交は1年足らずで挫折しました。対日強硬派の攻撃を浴びた末のことでした。
中国の権力中枢では、胡錦涛の対日重視派と江沢民の強硬派との間で熾烈な権力闘争が展開されていることが分かってきました。政争の具に使われてきたのが歴史問題であり、それがまさに中国問題としての靖国問題の核心でした。
けれども、小泉首相の靖国神社参拝を猛烈に批判し、小泉政権および胡錦涛政権を追い詰めてきたつもりの江沢民派は、意固地ともいえる小泉首相の度重なる参拝で十分な政治的成果を上げ得ず、かえって後退を余儀なくされたのでしょう。
今年(2006年)8月15日の参拝の際、いつものように内外の批判がわき上がりましたが、北京の日本大使館に押しかけたデモ隊はわずか20人で、反日行動は完全に当局によって封じ込められていました。
しかもその折も折、江沢民派で政治局ナンバー4の賈慶林・政治局常務委員の失脚さえ伝えられました。そればかりではありません。先月末には江沢民の権力基盤である上海市のトップ、陳良宇・上海市党委員会書記が解任されました。
◇2 異例の厚遇で迎えられた安倍総理
胡錦涛が江沢民派を排除し、いよいよ権力基盤を強化しつつあるとき、温家宝首相による招待というかたちで安倍・胡錦涛会談はセットされ、安倍首相は異例の厚遇で迎えられました。
会談後の日中共同プレス発表には「戦略的」という表現が頻出しています。「両国関係は双方にとってもっとも重要な2国間関係になった」と述べ、日本を重視する戦略的な両国関係を築こうとする新方針を表明した胡錦涛政権樹立当初を否が応でも想起させます。
安倍首相と胡錦涛が固い握手を交わしていたとき、北京では六中総会が開かれていました。六中総会は地域間格差の是正などを目指す「調和のとれた社会」づくりを強調するコミュニケを採択し、閉幕しましたが、「調和社会」の政策目標こそは江沢民時代からの脱却にほかなりません。
江沢民派との権力抗争の終わりは、中国問題としての靖国問題の後景化を意味します。