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陛下の御公務をなぜ女性皇族が「分担」しなければならないのか──皇室典範改正、制度改革がどうしても必要なのか(2012年9月23日)


 久しぶりのメルマガ更新です。引き続き、いわゆる「女性宮家」創設問題について書きます。

 今年2月の政府の公表資料によると、その問題関心は「皇室の御活動」の維持であり、「両陛下の御負担」軽減でした。

「現行の皇室典範の規定では、女性の皇族が皇族以外の方と婚姻された時は皇族の身分を離れることになっていることから、今後、皇室の御活動をどのように安定的に維持し、天皇皇后両陛下の御負担をどう軽減していくかが緊急性の高い課題となっている」(「有識者ヒアリングの実施について」)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koushitsu/yushikisha.html

 しかし、この文章はかなり非論理的です。

 前半の「現行の皇室典範の規定では、女性の皇族が皇族以外の方と婚姻された時は皇族の身分を離れることになっている」は現行の皇室制度の中味ですが、後半の「今後、皇室の御活動をどのように安定的に維持し、天皇皇后両陛下の御負担をどう軽減していくかが緊急性の高い課題となっている」とは直接的に結びつかないはずなのに、いとも簡単に順接的につながっています。論理の飛躍です。

 政府の資料は、「このため、各界の有識者の方々から、皇室の御活動の意義や、女性の皇族に皇族以外の方と婚姻された後も御活動を継続していただくとした場合の制度の在り方等について幅広くご意見を伺い、今後の制度検討の参考とする」と続きますが、これも飛躍です。

 いつのまにか「天皇の御公務」が「両陛下の御活動」に衣替えし、「皇室の御活動」にすり替わっています。


▽1 御負担軽減に失敗した宮内庁

 宮内庁は御在位20年を契機として、陛下の御公務御負担軽減に取り組んできました。その場合の理由は「ご健康問題」でした。

 20年暮れの御不例を経て、翌21年1月には、御公務と祭祀の進め方についての方針が発表されました。春と秋の叙勲に伴う拝謁は回数・日程を削減する。首相級の外国賓客のご引見などは公賓・公式実務賓客の場合に限る。新年や天皇誕生日の祝賀行事は行事内容の見直しを行う。全国植樹祭などはご臨席のみで、「お言葉はなし」とする。宮中祭祀の新嘗祭は「夕の儀」のみ、旬祭は5月と10月のみ親祭とする──などとされました。

「調整・見直し」の背景には、「昭和の時代,例えば,昭和天皇が74歳になられた昭和50年当時と比べると,外国賓客や駐日大使との御会見・御引見等については,約1.6倍,赴任大使や帰朝大使の拝謁等については,約4.6倍,都内や地方へのお出ましについては,約2.3倍と,大きく増加しており,これらに伴い,両陛下の御負担も増大しました」という認識がありました。

 ところが、それから3年、今度は、御公務御負担軽減のために皇室典範改正が必要だというのです。女性皇族に婚姻後も皇室にとどまっていただき、御公務を「分担」していただく、というのです。目的も「ご健康問題」ではなく、「皇室の御活動」の維持です。

 キーマンである園部逸夫内閣官房参与は有識者ヒアリングでたびたび、こう述べています。

「天皇陛下の大変な数の御公務の御負担をとにかく減らさないと。それは大変な御負担の中なさっておられるわけでして、そうした天皇陛下の御公務に国民はありがたいという気持ちを抱いていると思いますが、国民として手伝えるのは天皇陛下の御公務の御負担を減らすことなんです。そのためには、どうしてもどなたかが皇族の身分をそのまま維持して、その皇族の身分で皇室のいろいろな御公務を天皇陛下や皇太子殿下や秋篠宮殿下以外の方も御分担できるようにする。そして、減らしていくというのが最大の目的です」

 天皇陛下の御公務の御負担が大きいから、軽減が必要である、ということは理解できます。けれども、陛下の御公務を、なぜ女性皇族がご結婚したあとも「分担」しなければならないのか、が分かりません。明らかに説明不足です。

 まして、政府の資料にあるように、現行制度では婚姻後、女性皇族は皇籍離脱するから、「皇室の御活動」の安定的維持、「両陛下の御負担」軽減が緊急課題だ、という論理は理解不能です。

 天皇は天皇であって、天皇の国事行為・御公務と両陛下の御負担は別であり、「皇室の御活動」などとひとくくりにされるべきではありません。

 結局のところ、宮内庁は数年前から「御負担」軽減策を具体的に進めたけれども、成果は実らなかったのです。私が一貫して指摘してきたように、祭祀が激減した一方で、御公務はかえって増えたのです。何が、どう増えたのか、なぜ減らないのか、という客観的な検証もなしに、女性皇族による御公務「ご分担」、皇室典範改正に一足飛びに飛躍させています。


▽2 宮内庁の数字に見るご多忙ぶり

 あらためて、天皇陛下のご多忙ぶりを、宮内庁の公表資料に基づいて、見てみます。

 宮内庁は、毎年暮れ、陛下のお誕生日に合わせて、「この一年のご動静」をリポートしています。そのなかで、内閣の上奏書類等にご署名・ご押印なさった件数、内閣総理大臣の親任式、国務大臣などの認証官任命式、新任外国大使の信任状捧呈式の人数などが具体的に示されています。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokanso-h23e.html

 以下の表は、それらの数値を、平成19年から昨年までまとめたものです。[]内の数字は私が調べました。宮内庁算出の数値がリポートにないからです。


内閣上奏書類のご署名・ご押印 19年1051件 20年1074件 21年(注1) 883件 22年885件 23年(注2)957
内閣総理大臣・最高裁長官の親任式 19年1件 20年2件 21年1件 22年1件 23年1件
国務大臣など認証官任命式 19年126件 20年136件 21年76件 22年136件 23年109件
新任外国大使の信任状捧呈式 19年29件 20年37件 21年24件 22年32件 23年34件
外務省総合外交政策局長のご進講・各種ご説明 19年[31件] 20年30件 21年46件 22年47件 23年54+33件(注3)
勤労奉仕団・献穀者などの御会釈 19年55件 20年52件 21年56件 22年54件 23年53件
宮中晩餐 19年2件 20年2件 21年1件 22年1件 23年[0件]
公式実務訪問賓客の午餐 19年6件 20年4件 21年6件 22年6件 23年[6件]
外国首相・国会議長ご引見 19年[14件] 20年[20件] 21年10件 22年10件 23年4年
海外国王・王族との御所でのご昼餐・ご夕餐 19年[7件] 20年[3件] 21年2件 22年[5件] 23年[3件]
都内・近郊へのお出まし 19年[43件] 20年49件 21年[38件] 22年45件 23年37件
地方行幸啓 19年1道1府8県[17市8町1村] 20年8府県[13市4町] 21年2府6県[12市1町] 22年9府県[29市5町1村] 23年12道県[24市5町1村]
宮中祭祀 19年38件 20年34件 21年[26件] 22年28件 23年21件

注1:平成21年7月3日~7月17日まで、カナダ及びアメリカ合衆国公式ご訪問。この間、皇太子殿下に国事公使臨時代行を委任。
注2:平成23年11月7日~12月6日までご入院・ご療養のため、皇太子殿下に国事行為臨時代行を委任。
注3:定例の外務省総合外交政策局長によるご進講や各種行事に関するご説明などが計54回、東日本大震災に関する諸分野の関係者・専門家のご説明が33回。


▽3 大震災で倍増したご進講・ご説明

 宮内庁が気にしていた外国賓客、首相・議長級のご引見は確実に減っています。都内・近郊へのお出ましも増えていません。私が指摘してきたように、祭祀のお出ましは文字通り半減しました。

 けれども、ご進講・ご説明は逆に増えています。宮内庁の説明では、大震災の影響があるようです。

「定例の外務省総合外交政策局長によるご進講や各種行事に関するご説明などが合わせて54回ありました。これに加え,東日本大震災に関し,諸分野の関係者や専門家より33回にわたりご説明を受けられました」

 いつも申し上げるように、古来、国民の喜びのみならず、悲しみや憂い、さらに命をも共有し、国と民のためにひたすら祈られるのが天皇です。天皇の祈りは、危機のときにこそ発揮されます。民の命をわが命とし、民の苦しみを共有し、民の前に命を投げ出されています。未曾有の天災を真正面から受け止め、その実態を正確に知ろうとするお姿が、ほとんど倍増したご進講・ご説明の数字にはっきり表れています。

 他方、宮内庁は内外の外交官とのご引見、拝謁が多いことに着目し、「しかるべき調整」をすることを表明していましたが、その成果はあったのかどうか、「この一年のご動静」の数字からは見えてきません。

 そこで、宮内庁のHPに掲載されている「両陛下のご日程」から、新任外国大使との「お茶」や滞日3年を超える外国大使夫妻の「午餐」などを抽出し、表にまとめてみました。
http://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/gonittei01.html

新任外国大使夫妻とのお茶 19年8件 20年8件 21年9件 22年10件 23年12件
滞日3年を超える外国大使夫妻の午餐 19年5件 20年5件 21年4件 22年6件 23年4件
離任外国大使夫妻のご引見 19年18件 20年21件 21年22件 22年21件 23年24件
外国赴任日本大使夫妻の拝謁・ご接見 19年13件 20年14件 21年10件 22年13件 23年14件
帰国日本大使夫妻お茶 19年10件 20年5件 21年11件 22年4件 23年11件

 これを見ると、少なくとも数値において、陛下のご多忙はまったく変わらないということが分かります。


▽4 外務省の抵抗が強い?

 具体的に見ると、軽減策が打ち出される前の19年と直近の23年とで、方法も変わっていないことが分かります。親任外国大使のお茶や外国大使の午餐、赴任日本大使の拝謁や帰朝日本大使のお茶も、だいたい5カ国までをひとまとめにして行われていますが、軽減策がまったく採られていないように見えます。

 このため23年には、たとえば新任外国大使のお茶では12月12日、16日、20日と9日間に3件、行われ、外国に赴任する日本大使の拝謁は4月4日の次は4月7日、9月6日の次は翌日7日、9月13日の次は15日、21日の次は22日、という具合に3日と上げずに日程が組まれ、帰朝大使のお茶は1月17日には2回、行われているほどです。

 5カ国ではなくて、10カ国にすれば、件数は減るだろうし、さらに月ごとにまとめれば陛下の御負担は格段に軽減することができるでしょうが、無理なのでしょうか?

 それどころではありません。もっと驚くのは、離任大使のご引見です。1カ国ごとに行われるために、23年7月には次のように日程がたて込みました。

6日、離任ハンガリー大使。7日、離任エジプト大使夫妻。11日、離任リトアニア大使夫妻。13日、離任メキシコ大使夫妻。14日、離任デンマーク大使夫妻。同日、離任オーストラリア大使。15日、離任キルギス大使夫妻。19日、離任スウェーデン大使夫妻。20日、離任ローマ法王庁大使。25日、離任コスタリカ大使夫妻。

 新任外国大使の信任状捧呈式でさえ、まとめて行われています。月ごととはいわなくても、週ごとにまとめることはできないのでしょうか。外務省の抵抗がそれだけ強いのでしょうか? 今回の「女性宮家」創設論は外務省出身の渡邉前侍従長が提唱者ですが、皇室典範改正の前にもっとやるべきことが、まだあるように思います。

 考えてもみてください。陛下の御公務をご結婚後の女性皇族に御分担いただくとして、海外の賓客や大使の接遇などを本気でお願いするつもりなのでしょうか? 今年2月、今上陛下が入院されたとき、皇后陛下がお一人で、外国に赴任する日本大使夫妻との「お茶」に臨まれ、3月には離任する外国大使を「ご引見」になりましたが、法的根拠に疑いがあります。いわんや、女性皇族においてをや、です。

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