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「立皇嗣の礼」=国事行為を閣議決定。もっとも中心的な宮中三殿での儀礼は「国の行事」とはならず(令和2年3月24日)


政府は今日の閣議で、来月に予定される「立皇嗣の礼」のうち、「立皇嗣宣明の儀」と「朝見の儀」について、天皇の国事行為として行うことを決定しました。


▽1 国民を前にして伝進される壺切御剣


先々月末、1月29日に開かれた宮内庁の大礼委員会では、以下のような関連行事が予定されていました。◎が国の行事、○が皇室行事とされています。



○4月15日 神宮神武天皇山陵昭和天皇山陵に勅使発遣の儀(宮殿)
○4月19日 神宮に奉幣の儀(神宮)
○同日 賢所皇霊殿神殿に親告の儀(宮中三殿)
○同日 神武天皇山陵に奉幣の儀(神武天皇山陵)
○同日 昭和天皇山陵に奉幣の儀(昭和天皇山陵)
◎同日 立皇嗣宣明の儀(宮殿)
○同日 皇嗣に壺切御剣親授(宮殿)
○同日 賢所皇霊殿神殿に謁するの儀(宮中三殿)
◎同日 朝見の儀(宮殿)
○同日 一般参賀(記帳。皇居等)
◎4月21日 宮中饗宴の儀(宮殿)
○4月23日 神宮御参拝(神宮)
○4月27日 神武天皇山陵御参拝(神武天皇山陵)
○5月8日 昭和天皇山陵御参拝(昭和天皇山陵)

先週18日に政府は饗宴の儀の中止を決めていますので、2つの行事のみが「国の行事」とされることとなりました。

換言すれば、もっとも中心的な宮中三殿での「賢所皇霊殿神殿に親告の儀」「賢所皇霊殿神殿に謁するの儀」は「国の行事」とはならず、「皇室行事」として行われることが確定したことを意味します。「国の行事」とされるのは、あえていうなら、付随的な行事のみです。壺切御剣の伝進を中核とする立太子の礼はかつては皇祖を祀る賢所大前で行われるものでしたが、いまは主権者たる国民を前にして行われるべきものに変質しています。

▽2 依命通牒が廃止されていないなら


背景にはいうまでもなく、憲法の政教分離原則への厳格主義的な法的判断があります。一連の御代替わり行事全体に対する政府の対応と同じです。なぜ「国の行事」と皇室行事に二分されなければならないのでしょう。布教の概念も信者もいない宮中祭祀の厳修が国民の信教の自由を侵すはずもないでしょうに。


ご承知のように、日本国憲法施行に伴い、旧皇室令は全廃されたものの、宮内府長官官房文書課長名による依命通牒によって、「從前の規定が、廢止となり、新しい規定が、できていないものは、從前の例に準じて、事務を処理すること」(第3項)とされ、宮中祭祀などは存続してきました。



平成の御代替わり直後、宮内庁高官が国会答弁で、依命通牒は「廃止の手続きが取られていない」ことを明言していますから、立儲令(明治42年2月)は廃止されているにしても、その附式に準じて粛々と行えないものでしょうか。占領中でさえ、貞明皇后の大喪儀は皇室喪儀令に準じて行われたではありませんか。

今回の御代替わり全体がそうでしたが、政府は皇室の儀礼に干渉しすぎではありませんか。政府が皇室の宗教的儀礼に口を差し挟むことこそ政教分離原則に反しませんか。もしダメだというのなら、弥縫策ではなく、改めて宮務法の体系を作り直したらどうでしょう。


最後に、ご参考までに立儲令本文および附式を引用します。なお原文は正字カタカナ混じりですが、読者の便宜に考慮し、書体を変え、ひらがな混じりに改めるなど、適宜編集してあります。原典は国会図書館デジタルコレクションにあります。〈https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10213280〉

立儲令@国会図書館


立儲令

第一条 皇太子を立つるの礼は勅旨により、これを行ふ
第二条 立太子の礼を行ふ期日は宮内大臣、これを公告す
第三条 立太子の礼を行ふ当日、これを賢所、皇霊殿、神殿に奉告し、勅使をして神宮、神武天皇山陵ならびに先帝の山陵に奉幣せしむ
第四条 立太子の礼は附式の定むるところにより、賢所大前においてこれを行ふ
第五条 立太子の詔書はその礼を行ふ当日、これを公布す
第六条 立太子の礼、訖(おは)りたるときは、皇太子、皇太子妃とともに賢所、皇霊殿、神殿に謁す
第七条 立太子の礼、訖りたるときは、皇太子、皇太子妃とともに、天皇、皇后、太皇太后、皇太后に朝見す
第八条 立太子の礼、訖りたるときは、宮中において饗宴を賜ふ
第九条 前各条の規定は皇太孫を立つるの礼にこれを準用す

附式

立太子の式(立太孫の式、これに準す)

 賢所、皇霊殿、神殿に奉告の儀
当日早旦、御殿を装飾す
時刻、宮内高等官着床
 ただし服装、大礼服。関係諸員(式部職、掌典部、楽部職員を除く)また同し
次に御扉を開く
 この間、神楽歌を奏す
次に神饌(式目ときに臨みこれを定む。以下、神饌または幣物につき別に分注を施さざるものにはみなこれに倣ふ)を供す
 この間、神楽歌を奏す
次に掌典長、祝詞を奏す
次に天皇御代拝(侍従奉仕、衣冠単)
次に皇后御代拝(女官奉仕、袿袴)
次に諸員拝礼
次に神饌を撤す
 この間、神楽歌を奏す
次に御扉を閉つ
 この間、神楽歌を奏す
次に各退下

 神宮に勅使発遣の儀
 山陵に勅使発遣の儀
 山陵に奉幣の儀

以上、その儀、皇室祭祀令附式中各その式のごとし

 神宮に奉幣の儀
その儀、神宮の祭式に依る

 賢所大前の儀
時刻、文武高官、有爵者ならびに夫人および外国交際官ならびに夫人、朝集所に参集す(召すべき者はときに臨みこれを定む)
 ただし服装、男子は大礼服〈白下衣袴〉。正装正服服制なき者は通常礼服。女子は大礼服。関係諸員〈式部職掌典部、楽部職員を除く〉また同じ
次に皇太子、皇太子妃、綾綺殿に参入す
次に天皇、皇后、綾綺殿に渡御
次に天皇に御服(御束帯黄櫨染御袍)を供す(侍従奉仕)
次に天皇に御手水を供す(同上)
次に天皇に御笏を供す(同上)
次に皇后に御服(御五衣、御唐衣、御裳)を供す(女官奉仕)
次に皇后に御手水を供す(同上)
次に皇后に御檜扇を供す(同上)
次に皇太子に儀服(束帯黄丹袍、未成年なるときは闕腋袍、空頂黒幘)を供す(東宮侍従奉仕)
次に皇太子に手水を供す(同上)
次に皇太子に笏を供す(同上)
次に皇太子妃に儀服(五衣、唐衣、裳)を供す(女官奉仕)
次に皇太子妃に手水を供す(同上)
次に皇太子妃に檜扇を供す(同上)
 この間、供奉諸員(宮内大臣、侍従長、式部長官、侍従、皇后宮大夫、東宮大夫、東宮侍従、東宮主事、女官)、服装を易ふ(男子は衣冠単、女子は袿袴)
次に式部官前導、諸員参進、本位に就く
次に御扉を開く
 この間、神楽歌を奏す
次に掌典長、祝詞を奏す
次に式部官、警蹕を称ふ
次に天皇出御
 式部長官、宮内大臣、前行し、侍従、剣璽を奉し、侍従長、侍従、侍従武官長、侍従武官、御後に候し、親王、王、供奉す
次に皇后出御
 皇后宮大夫、前行し、女官、御後に候し、親王妃、内親王、王妃、女王、供奉す
次に天皇、内陣の御座に著御、侍従、剣璽を外陣御座の傍に奉安し、簀子に候す
次に皇后、内陣の御座に著御、女官、簀子に候す
次に天皇御拝礼、御告文を奏す(御鈴、内掌典奉仕)
次に皇后御拝礼
次に天皇、皇后、外陣の御座に移御
次に皇太子、外陣に参入し、内陣に向て拝礼し、御前に参進す
 東宮大夫、前行し、東宮侍従長、東宮侍従、東宮武官長、東宮武官、後に候す
次に皇太子妃、外陣に参入し、内陣に向て拝礼し、皇太子の掖座に著く
 東宮主事、前行し、女官、後に候す
次に侍従長、壺切御剣を御前に奉る
次に勅語あり、壺切御剣を皇太子に授く
次に皇太子、壺切御剣を奉し(東宮侍従捧持)、皇太子妃とともに簀子に候す
次に親王、親王妃、内親王、王、王妃、女王、拝礼
次に天皇、皇后、入御
 供奉、出御のときのごとし
次に皇太子、皇太子妃退下
 供奉、参進のときのごとし
次に諸員拝礼
次に幣物神饌を撤す
 この間、神楽歌を奏す
次に御扉を閉つ
 この間、神楽歌を奏す
次に各退下
 (注意)皇太子、襁褓にあるときは、女官これを抱く。以下これを倣ふ

 賢所皇霊殿神殿に謁するの儀(賢所大前の儀に続てこれを行ふ)
時刻、御扉を開く
 この間、神楽歌を奏す
次に神饌幣物を供す
 この間、神楽歌を奏す
次に掌典長、祝詞を奏す
次に皇太子、内陣に参進
 式部長官、東宮大夫、前行し、東宮侍従、壺切御剣を奉し、東宮侍従長、東宮侍従、東宮武官長、東宮武官、後に候す
次に皇太子妃、内陣に参進
 東宮主事、前行し、女官、後に候す
次に皇太子著座、東宮侍従、壺切御剣を奉し、外陣に候す
次に皇太子妃著座、女官、外陣に候す
次に皇太子、皇太子妃、拝礼、訖て退下
 供奉、参進のときのごとし
次に幣物神饌を撤す
 この間、神楽歌を奏す
次に御扉を閉つ
 この間、神楽歌を奏す
次に各退下

 参内朝見の儀
時刻、皇太子(正装)、皇太子妃(大礼服)、参内
 ただし関係諸員服装、男子は大礼服正装正服、女子は大礼服(以下、服装に付き、別に但し書きを置かざるものは本儀に同し)
次に皇太子、皇太子妃、便殿に参入す
次に天皇(御正装)、皇后(御大礼服)、正殿に出御
次に式部長官、前導、皇太子、皇太子妃、御前に参進、恩を謝す
次に勅語あり
次に皇后、懿旨あり
次に皇太子、皇太子妃、御掖座に著く
次に御臺盤を立つ
次に御饌御酒を供す
次に天皇、皇后、御盃を皇太子、皇太子妃に賜ふ
次に御箸を立つ
次に侍従長、御禄を皇太子、皇太子妃に伝進す
次に女官、御禄を皇太子、皇太子妃に伝進す
次に皇太子、皇太子妃、拝謝す
次に天皇、皇后入御
次に皇太子、皇太子妃退下

 皇太后に朝見の儀(太皇太后に朝見の儀、これに準す)
時刻、皇太子(正装)、皇太子妃(大礼服)、皇太后の本宮に行啓
次に皇太后(御大礼服)、正殿に出御
次に式部長官、前導、皇太子、皇太子妃、御前に参進、恩を謝す
次に懿旨あり
次に女官、御禄を皇太子、皇太子妃に伝進す
次に皇太子、皇太子妃、拝謝す
次に皇太后入御
次に皇太子、皇太子妃、退下

 宮中饗宴の儀
その儀、ときに臨み、これを定む

以上、引用終わり。


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