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国連女性差別撤廃委が「皇位の男系継承」の改正を勧告(令和6年10月30日)
報道によると、国連の女性差別撤廃員会(CEDAW)が昨日(2024年10月29日)、日本政府への勧告を含む「最終見解」を発表したという。皇位継承を「男系男子」に限定する皇室典範の改正を勧告しているというから穏やかではない。
朝日新聞の報道では、「男系男子」継承を定める皇室典範について、「委員会の権限の範囲外であるとする締約国の立場に留意する」としつつ、「男系男子のみの皇位継承を認めることは、条約の目的や趣旨に反すると考える」と指摘し、「皇位継承における男女平等を保障するため」に法改正するよう勧告した。政府側は17日の審査で、「皇位継承のあり方は国家の基本に関わる事項であり、女性差別撤廃条約に照らし、取り上げることは適当でない」と反論していたと伝えている。
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◇1 天皇の制度を認めることは「平等」概念とは別なのに
さっそく委員会のサイトを開いてみた。
今月24日づけの「最終見解」(Concluding observations)は、「E. 主な懸案事項と推奨事項」の2番目に、「女性差別の定義と差別的法律」の小見出しのもとで、次のように記述している。
11. The Committee notes the absence of a comprehensive and explicit definition of discrimination against women, covering both direct and indirect discrimination against women in the public and private spheres, in line with article 1 of the Convention, resulting in inconsistencies in legal interpretations and enforcement. It also takes note of the State party’s position that the provisions of the Japanese Imperial House Law are not within the purview of the Committee’s competence. However, the Committee considers that allowing only male offspring in the male line belonging to the Imperial Lineage to succeed to the throne, is incompatible with articles 1 and 2 and contrary to the object and purpose of the Convention. The Committee also notes with concern that several of its previous recommendations regarding existing discriminatory provisions have not been addressed, in particular:
(委員会は、条約第1条に則り、公的および私的領域における女性に対する直接的および間接的な差別を対象とする、女性に対する差別の包括的かつ明確な定義が存在しないことに留意するとともに、法解釈および執行に一貫性が生じていることに留意する。委員会は、日本の皇室法の規定が委員会の権限の範囲内にないという締約国の立場にも留意する。しかし、委員会は、皇統に属する男系の男子だけに皇位を継承させることは、第1条および第2条と両立せず、条約の目的と目的に反すると考える。委員会はまた、既存の差別的規定に関するこれまでの勧告のいくつかが、とくに取り組まれていないことにも懸念とともに留意する。)
たしかに日本国憲法は「世襲」を定め、皇室典範は「男系の男子が継承」と規定している。歴史を振り返れば、8人10代の女性天皇が存在し、女性天皇・女系継承が否認されたのは明治以後のことである。それはヨーロッパ王制に学び、終身在位制が採用された結果である。譲位が認められない近代の継承制度では、女子の継承は「万世一系」の「王朝の支配」を崩すことになるからだ。
とすれば、なぜ悠久なる皇室の歴史に根本的変更を加えてまでして、「女性差別」を撤廃し、「ジェンダー平等」を実現しなければならないのだろうか? 皇室典範は一方で、皇后や皇太后が摂政に就任することを認めている。民間から入内した女性でも、摂政となれる。これは「差別」であろうか?
そもそも天皇という国民から超然たる法的地位を認めることは、「法の下の平等」とは異次元の世界を法的に認めることであろう。したがって、「平等」概念とは異質であるはずの「皇位継承」に、「平等」概念を持ち込むことは矛盾も甚だしい。委員会のメンバーはそうは思わないのだろうか?
◇2 喜びに沸く「愛子さま」応援団と「スルーして良い」と強気の男系派
委員会のサイトを見ると、9回目となる今回の定期報告に関連して、日本政府のほかに、さまざまな団体等から文書の提出があったことが分かる。そのなかで、「愛子さまを皇太子に」と応援する団体からの情報提供が目を引いた。
どうやらオンラインで署名活動を展開する団体らしいのだが、文書の冒頭は次のように始まっている。
We would like CEDAW to know Japan’s Imperial succession rule is still standing on serious gender discrimination. Japanese are living in a country where “women” cannot be the emperor, the symbol of Japan!
(女性差別撤廃委員会(CEDAW)には、日本の皇位継承制度が依然として深刻な性差別に基づいていることを知ってもらいたいと思います。日本人は「女性」が日本の象徴である天皇になれない国に生きている!)
In my opinion, this is because the Japanese government (dominated by LDP politicians with a very large percentage of older men) is strongly biased against gender discrimination.
(これは、日本政府(自民党の政治家が支配し、年配の男性が非常に高い)が性差別に対して強い偏見を持っているからだと思います。)
文書は、現行制度を「性差別」と断定し、その原因は「自民党政府の偏見」にあると決め付けている。ただそれだけである。初代神武天皇以来、126代にわたって、皇位が男系で紡がれてきた意味を謙虚に考えようとする姿勢はない。そして、委員会が陳情を取り上げてくれたと喜びに沸いている。思索に深みがない。
それなら男系派はどうなのか? 報道では、今月14日、同委員会の会合に参加した「皇統を守る国民連合の会」の葛城奈海会長が、「天皇は祭祀王だ」「内政干渉すべきでない」と、わずか35秒の持ち時間のなかで訴えたという。
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35秒といえば、早口で話しても、400字詰めの原稿用紙1枚分にもならない。皇統はなぜ男系主義なのか、そこにどんな価値を日本人は見出してきたのか、説明することは至難であろう。わざわざ遠くジュネーブにまで出かけて、会合に参加し、発言の機会を得たことは、大きな意味があったのは間違いないが、委員会のメンバーの心にどこまで響いただろうか?
報道によれば、葛城会長は委員会の勧告について、「毅然と『国家の基本』を継承していく姿勢を貫くべきだ。勧告はスルーして構わない」と語ったという。強気の姿勢は立派だが、さらなる一歩を期待したい。
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