ダークパターンに翻弄されてしまう私たち
オンラインショッピングにおける意図しない商品購入
皆さんは、オンラインで商品やサービスを購入しようとした際に、タイムセールのカウントダウンタイマーが表示され、購入を急かされた経験はありませんでしょうか?
それとも、「1か月のお試しセット」を申し込もうとした際に、そのサイトの下の方をよく見るととても小さい文字で注意書きが書いてあり、お試しセットを申し込むことにより定期購入を契約させられてしまうことに気づいた方もいるでしょう。もしかして、すでにそのような購入をしてしまった方もいるやもしれません。
これは、ダークパターンと呼ばれており、消費者に意図しない購入や不利益を与える恐れのある販売方法です。
ダークパターンとは?
ダークパターンとは、オンライン・ショッピングサイトにおいて、消費者に生ずるバイアス(誤解や判断の偏り)を悪用することなどにより消費者利益にはならない選択を彼らに行わせる多様な行為のことです。
それは、消費者が望んでいる範囲を超えて商品やサービスを購入させたり、個人情報を開示させたり、又は注意時間を費やさせることを目的としているものです(OECD, 2022)。
スラッジとナッジ
このダークパターンは、スラッジの一形態であると言われています。「スラッジ」とは、欺瞞的な意図により、その人にとって利益になる選択を行わせにくくすること(Thaler, 2018)であり、偽りや誤解を招くような誘導により、情報を提示する側(オンラインショッピングの場合は出店者)の利益に誘導する行為を指します。
読者の方は、ナッジという言葉を聞いたことがあるかもしれません。「ナッジ」とは、行動科学の知見・洞察(行動インサイト)を活用することにより、「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする」方策です(Thaler & Sunstein, 2008)。例えば、お店のレジの前に足の足跡がペイントされていると、レジ待ちする人はその足跡に沿ってレジの列に並ぼうとします。そうすることで、レジの割り込みを防ぎ、待っている人の順番が保たれます。
これらの定義から、
ナッジは、その人にとって良いことに導くものであり、
スラッジはその人にとって望ましくない方向に誘導するものであると言えます。
言い換えるとスラッジはナッジの悪用とも言えるでしょう。
ダークパターンの様々な形態
OECDの報告書である「Dark commercial patterns」では、多様なダークパターンの形態を紹介しています。
●行為の強制
会員サイトに強制的に登録させる。
必要以上の範囲を超えて、個人情報の開示を強制する。
●インターフェース干渉
重要な情報を視覚的に不明瞭にする(隠された情報)。
事業者にとって都合のいいデフォルトを提示することにより選択を誘導する。
事業者にとって都合のいいように、視覚的に誤認識するように表示する。
誤解を招く又は偽りの参照価格に対して割引した値段を表示する(不当参照価格)。
ひっかけ質問により意図的な又は明らかな曖昧さを持たせる(二重否定)。
感情に訴える言葉遣い又はフレーミングにより消費者を操り特定の選択肢を選ばせる(羞恥心の悪用)。
●執拗な繰り返し
通知や位置追跡機能を有効にする。
事業者にとって好都合な行為を行うよう消費者に繰り返し要請する。
消費者の限られた気力や時間を奪う。
●妨害
ある行為を断念させる意図で、タスクフローを必要な範囲を超えて困難にする。
サービスのキャンセルを困難にしたり、分りづらくする。
オプトアウトを困難にする。
アカウント若しくは消費者情報の削除を困難にする。
●ドリッププライシング
後出しで諸費用が追加表示される。
●こっそり(スニーキング)
消費者の決定に関わる情報を隠す、偽装する、後出しする行為。
同意なしに商品を消費者の買物かごにこっそり追加する。
●社会的証明
ほかの消費者のアクティビティに関する情報を通知する。
購買に関するお客様の声を悪用する。
ステルスマーケティング(広告であることを偽る)を行う。
●緊急性
消費者に時間的圧力をかけることにより、急かして購買させる。
時間的・量的な制約を意図的にもしくは虚偽的に表示する。
終了間近のオファーや割引を表示する。
カウントダウンタイマーを表示する。
消費者庁による介入
この様な、オンラインショッピングをする消費者の適切な購買行動を歪める恐れのあるダークパターンに対して、消費者庁においても行政的介入を講じています。
消費者庁における主要な介入事例を以下に挙げます。
事例1
オンライン注文の入力画面において、注文を行うとダイエットサプリ製品の定期購入契約への申込みになることの表示を怠ったとして、特定商取引に関する法律第14条第1項に基づき、ダイエットサプリメントに係る表示を是正することを指示した事例。
https://www.caa.go.jp/notice/entry/018692/
事例2
オンライン注文の入力過程の最終段階の画面において定期購入契約及びキャンセルの条件を明確に記載すること、及び顧客が注文の内容を容易に確認、修正できるようにすることを怠ったとして、特定商取引に関する法律第14条第1項に基づき、一定の期間の業務の停止を命令した事例。
https://www.caa.go.jp/notice/entry/022759/
事例3
カウントダウンタイマーなどの虚偽かつ誇大な表示により消費者の被害を生じさせたと判断し、消費者安全法第38条第1項に基づき、消費者被害の発生を防ぐために、消費者に注意を呼びかけた事例。
https://www.caa.go.jp/notice/entry/016537/
ダークパターンに翻弄されないために
以上、述べてきたように、ダークパターンは、オンラインを利用する私たちに身近に起こりえるリスクとなっています。
ダークパターンに誘導されることなく、適切な購買行動がとれるようになるためには、衝動的な購買行動を控えることが重要となるでしょう。
私たちの二つの行動システムから対策を考える
私たちの行動は、二つの行動システム(二重過程理論)から構成されていると言われています。
それは、衝動的・感情的に行動するシステム1と、
冷静に熟慮して行動を決定するシステム2です(Kahneman, 2003)。
ダークパターンは正に、私たちのシステム1による購買行動を悪用した手口です。システム2により、冷静に判断できる時間と精神的余裕をもって商品・サービスを購入することが重要でしょう。
他者のアドバイスも重要
さらに、自分だけでは判断できない時には、購入ボタンをクリックする前に、周りの人に相談することも有効でしょう。その時、できるだけ状況を整理して、相手に伝わりやすく話すように心がけてください。
整理して人に話すという行為は、自分を冷静な状態にすることに導くことでしょう。