記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【鑑賞メモ】フジコ・ヘミングが奏でる”音色の源泉”はどこにあるのか?~映画『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』

上映中の、フジコ・ヘミングさんの映画『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』を見てきました。

惜しくも、2024年4月に92歳でお亡くなりになったフジコさん。
最晩年の4年間を丁寧に追ったドキュメンタリーです。フジコさんの感情表現豊かな音色を伝えるライブの様子だけでなく、インタビューも豊富で、チャーミングなお人柄や、新しいことへチャレンジし続ける姿勢など、クラシック音楽の心地よさとともに、とっても刺激をいただいた映画となりました。

自分自身、クラシックは、たまに聴く程度なので、残念ながら演奏自体について、何かを語れるわけではないのですが、そんな自分でも、フジコさんの奏でる音色の柔らかさというか、フジコさんのお人柄が出ているような音色の魅力の由来を、映画で確認できました。これまでの深い(深すぎる?)波乱な人生経験から、醸し出されている音色なのだろうなとも感じました。

実は、今、本作の製作に関わられたWOWOWエンタテインメントさんにて、冨澤さん・加藤さんに機会をいただき、and seeds 小畑さんと一緒に、”現場巻き込み型の理念策定プロジェクト”をご一緒させていただいております。普段お世話になっている方々のお名前が、エンドロールにたくさんでてきます! それぞれの専門性を活かしながら、バックオフィスも含め一丸になって、こんな素晴らしい作品を創りあげるなんてと、エンドロール見ながら、テンションあがっておりました(笑) ライブ/ インタビューの映像(カメラワーク)や音声は、お世辞抜きに美しいので、ぜひ大きなスクリーンと、音響設備で楽しんでいただきたいです。

以下、ネタバレというか、映画の内容/ セリフにも触れますので、まだご覧になってない方は、スキップをお願いします。

個人的には、ファシリテーションや対人支援に関わる方々にも、ぜひ、見ていただきたい映画です。(そこが繋がってくるあたりが職業病ですね苦笑)

劇場や、時間帯も限られていますので、早めにご覧になることをお勧めします!





では、改めて(笑)

フジコさんは、1931年にドイツのベルリンで、スウェーデン人の画家 ヨスタ・ゲオルギー・ヘミングさんと、日本から留学されていたピアニストの大月投網子さんの間に生まれます。

家族で日本に戻ってくるものの、父は日本に馴染めず、数年後に一人スウェーデンに帰国されてしまうのですね。

幼心に、父と会えなくなってしまった寂しさは伺い知れません。
映画のなかで、幼少期の記憶として、蓄音機を鳴らしながら、父とダンスを踊っているのが記憶に残っていると話し、それを絵にされていたのが、とっても印象的でした。

また、戦時中に、「外国の血が入っていることは、絶対に知られないようにしていた」ともおっしゃっていました。当時の日本の状況を考えると、自分の出自に対する複雑な想いを抱えられていたのかなとも思います。

フジコさんは、捨て猫の保護や、コンサートを通じての慈善活動にも積極的だったなのですが、”幼少期の寂しさ、不安や孤”を昇華させ、”他者に尽くす”という道を大事にされたのかなとも。

そうした幼少期の経験や、60歳代になるまで、ピアニストととしての自分を確立することに苦労・苦悩するといった、つらい経験もまた、フジコさんの音色を豊かにする土台になっているのだろうなとも感じます。

映画のなかで、確か、人生で一番大事なものは何か? と問われたときに、「」と、答えられていました。それも、撮影中、窓の外を見て、通りを「歩いている人、一人一人に幸せを祈るんです。みんな幸せでいてほしいと」と。

このお話を聴いたとき、マサチューセッツ工科大学で上級講師を務める、オットー・シャーマー博士が、『U理論』という書籍のなかで紹介していた、ベス・ジェンダーノアという、卓越したファシリテーションスキルをもった女性のエピソードを思い出しました。

「何もしていないように見えるのに、一瞬のうちに部屋全体と心と心の繋がりを持ってしまうのだ。私のような普通の人間は少なくとも2、3日は経たないと、それも努力しなければ、とてもそんな関係にまで至らない。とこらが、ベスはただ立ち上がり、聴衆を見て、心からの笑みを目に浮かべるだけで、全員を引き込んでしまうのだ」(p.247)

そして、オットーは、ベスに、その秘訣について質問し、彼女は、こう答えます。

「とても簡単なことです。立ち上がる前に心を開き、部屋の中の人に無条件の愛を意識的に送るんです。30年以上やってきたことなの。それが愛の場というか環境を作るのです」(p.247)

「無条件の愛を無意識的に送る」というのは、フジコさんが語った、自分自身や、周囲の家族、友人という範疇を超えて、自分と繋がりがあろうとなかろうと、あらゆる人々の幸せを願う気持ちにも繋がるのではないかと。

おそらく、彼女は、コンサートにいらっしゃる観客についても、ピアノを聴きに来てくれたことへの感謝と、幸せを願っていたのではないかと思います。

最新の量子力学では、人の存在や意識もある種の”波動”を出していると言われています。

音が、波(Vibration)として伝わるとしたら、楽器の腕前の良しあしももちろん大事ですが、それを奏でる演奏者の”人柄や想い”も、一つの波として、楽器の音に加わり、音色の魅力を増幅するのではないかと。Use of Selfの最高の形ですね! フジコさんのピアノの魅力は、テクニックはもちろん、そんな彼女の存在自体にあり、みんながその演奏を聴きたがったのではないかと思います。

生前、残念ながら生で聴く機会を創れなかったことが悔やまれます。
でも、こうして、人生の最晩年の大事な時期が、記録として残り、素晴らしい映像作品として見られるというのも、決して偶然ではないとも感じます。

フジコさんの自然体で、チャーミングな様子を拝見していると、映画を監督・演出された小松莊一良監督とフジコさんが、深いところで通じ合っていた(表現者として理解し合える「愛」があった)からこそ撮れた映画なのかもしれません。

90歳を超えても、毎日数時間のピアノの練習を重ね、新しいアルバムやコンサートへの挑戦に「プレッシャーを感じる」とおっしゃってました。その年齢になっても、「プレッシャーを感じる」チャレンジをされてるのですよ!? 驚きしかありません。生涯、現役のピアニストであり続けたのだなと思います。

本作品を通じて、フジコさんの生き様に触れる中で、人を慈しむことや新しいチャレンジを通じた創造性など、自分自身の生き方についても考えるきっかけをいただきました。人生の節目節目で、ときおり、見返してみたい作品の一つです!

#フジコ・ヘミング
#ピアノ

いいなと思ったら応援しよう!