スチームパンクの歯車に関する私見

 スチームパンクを扱った作品や絵画、コスプレなどにはよく歯車が登場しますが、この歯車が論争の的になることがしばしばあります。今回は、歯車の扱いに関する私の意見を記そうと思います。

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スチームパンクとは何か

 スチームパンクって何? という状態でこのページを読んでいる方もいるかもしれないので、本題に入る前に、まずスチームパンクについて説明しておきます。

 スチームパンクの源流は、サイバーパンク(cyberpunk)というサイエンス・フィクション(SF)の一分野です。サイバーパンクは、パンク(反骨精神を柱とするロック)という言葉がついていることからわかるように、既存のSFに反抗する形で1980年代に興りました。

 サイバーパンクの特徴は、科学が異常な発達を遂げ、生体と機械が融合したり、精神が機械を通してネットワーク空間につながれたりして、人間の情緒(人間性)が疎かにされた社会を描くことです。「科学によって明るい未来が訪れる」という既存の考えに対する反逆(=パンク)ということです。その都合上、退廃的で暗いイメージのジャンルとなります。

 サイバーパンク要素のある作品としては、『マトリックス』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『ブレードランナー』『サイバーパンク2077』などがあります。


 スチームパンク(steampunk)はサイバーパンクから生まれたSFの一分野です。スチームパンクとサイバーパンクの大きな相違点は、サイバーパンクは近未来を舞台とするのに対し、スチームパンクは蒸気機関が異常に発達した、近代の社会を舞台とすることです。(これは個人的な考えですが、スチームパンクにはパンクの精神が少ない傾向にあると思います。)

最近では、レトロだったり、セピアがかった色味があったり、近代イギリスっぽかったりする作品群をまとめてスチームパンクに含むこともあります。

 スチームパンクを扱った代表的な小説として、『ディファレンス・エンジン』が挙げられます。階差機関(計算機の一種)が開発され、それに連動して産業革命と情報革命が進んだ近代のイギリスを舞台とする小説です。『ディファレンス・エンジン』は、こんにち多く溢れているスチームパンク作品と違って、やや暗い雰囲気であり、コンピューターも登場することから、サイバーパンクに近い作品といわれることもあります。

 スチームパンクの特徴は、その名の通り蒸気機関が発達した社会を描くことです。巨大な煙突や圧力計、立ち上る黒い煤煙、煙る空、汚れた空気から身を護るためのマスク、蒸気機関車、湯気、そして歯車

 スチームパンクというと、おおむねこういった要素が出てきます。有名なアニメである『天空の城ラピュタ』や『ハウルの動く城』も、スチームパンクの要素を含んでいます。

何が論争の的となっているか

 いよいよ本題に入ります。

 スチームパンクには意匠やデザインとして歯車が登場することがよくあります。例えば、以下のように。

注意:例示する商品を批判する意図はありません

画像1

画像引用元:メカニカルスチームパンク アストロレーブ スター トラッカー ウォールクロック 17インチ(Amazon)

 実際にはこの壁掛け時計は電気で動くのですが、あえて蒸気の力で動かすことを考えてみましょう。そのとき、すべての歯車が、動力を伝達してくれるでしょうか?

 ……おそらく、その答えはです。この時計についている歯車のいくつかは、独立していてどの歯車とも嚙み合っていません。すこし侮蔑する言い方になってしまいますが、嚙み合わない歯車は、機能を果たさないという点で無益な仕掛けといえます(あくまで、工学的にのみ考えた場合の「無益」であり、ここに芸術的な観点は含みません)。

 工学的に考えるとき、歯車に求められる機能とは動力を伝えることです。それにもかかわらず、スチームパンク的な作品(時計や風景画、衣装など)には機能しない歯車が散見されます。

 スチームパンクにおいて議論の的となっているのは、この「機能しない歯車」「装飾としての歯車」です。「機能しない無駄な歯車があるのはおかしい、合理的でない」というわけですね。設定の手抜きを批判している、ともいえそうです。(手の届かない場所にまで本がズラッと並べられている図書館が、「本を読めない所に置くな」と批判されるのと似たようなものです。)

 実際、Twitterにおいて、「一見、無駄に見える歯車に何らかの有効な設定があれば、掌を返すだろう」という趣旨のつぶやきが9000件以上の「いいね」を集めています。

 論争の的となっているのは、仮に実用を考えたとき、機能しない歯車を置くのはよいか否か、ということである、といえます。

私見

 ここからは私の意見を述べます。

 個人的には、よっぽどでない限りは、装飾としての歯車はOKです。もちろん、数十、数百の歯車が層状に積み上げられているゴテゴテの歯車の群れ、というのは受け付けられませんが。

 私は、帽子や時計などに無用の歯車がつくのは、スチームパンクの世界でもファッションとしてありえるのではないか、と思っています。

 スチームパンクを表すのに歯車が使われるのは、「わかりやすい」という理由もありましょうが、「かっこいい」とか「見た目がいい」という理由もあるのではないでしょうか。現代社会でも、スチームパンクの社会でも、人間の美の精神というのはそれほど変わりないでしょう。

 であれば、スチームパンクの世界の人間が、あくまでファッションとして、歯車を衣服や時計、建築物などに用いるのはあり得る話と思われます。


 この記事は以上です。お読みいただき、ありがとうございました。