移民と、同性婚と、台湾と
友人(私はそう勝手に思っている)が「夫婦別姓や同性婚が認められると外国人がそれをいろいろ使って日本人になって、生活保護や日本の医療制度にただ乗りして不動産も企業も政治も外国産の日本人に奪われてしまう気がする」という感じのことをSNSで書いていた。
ネットではよく見かける声なんだけれど、エコーチェンバーとでもいうのだろうか、私の知人関係では誰もこういう声を発する人がいなくて、知りたい欲求そのままに、「どうしてそう思うの? 教えて!」ととっさに書き込んでいた。
その後ちょっとやりとりしてみたが、自分としても発言の根拠や考えを整理したいと思ったので、調べつつ、ここにまとめておくことにする。
ちなみに私のスタンスは「大勢に影響がないから、どっちでもいい」「身近にそれを希望する人がいて、それらを実現したいと言っているから、実現の方向で動く(実現したい人がいないなら動かない)」である。
夫婦別姓と国際結婚
夫婦別姓に関して言えば、日本人は外国人と結婚しても、戸籍制度の仕組み上、あえて家裁に申し立ての手続きをするとかしないかぎりは姓が変わらないから、国際結婚は基本、夫婦別姓である。だから、彼らには日本で夫婦別姓を実現させる自発的な動機はない(他の人ができなくて、「こんなに都合がいいのにできないなんて残念だから」「男女平等、社会正義」等、別の動機はいろいろありうる)。
※国際結婚で同姓を選ぶ割合は、ちょっと調べてみたけれどデータがなく、よくわからなかった。よかったら誰か教えてください。
ちなみに日本における外国人数は2023年末時点で341万992人で総人口の2.7%。国際結婚は全結婚の3.5%(こちらは2022年のデータまでしか見つからなかった)と、結婚のほうが若干数値が大きい。とはいえ、
1、国際カップルが日本で安定的に暮らすには法的な結婚が必須である
2、日本人の結婚率が世界的に見てだんぜん低い
ことを考えると、この数字は当然というかなんというか、在留資格のための偽装結婚なんて事故・事件レベルであると言えるんじゃないだろうか(とはいえ事故・事件だって当事者にとっては重大な問題で、統計数字だけですべてを語れるわけではけっしてない)。
同性婚が合法化した台湾の事情
さて今度は同性婚である。
日本のLGBTの人口の約3~10%と言われていて、そのうちLGBが主に同性婚によって影響を受ける人たちである。つまり最大見積もっても10%を超えることはない。心情で「同性愛を偽ってさらに国際偽装結婚するなんて、二度手間じゃね? 異性婚ができるんならそっちを選ぶんじゃね?」というのはあるのだが、これはあくまで私のような横着ものの考えだから、もしかしたらまるで別のところからの考え方もあるかもしれない。
そこで同じ東アジアの台湾の事情を見てみたらいいんじゃないか?と思いついた。欧米圏の国ではモラルも家族観・人間観、法律体系もいろいろ違いすぎて、指標として役に立たなそうな気がする。台湾は2019年5月に同性婚を合法化している。以来5年が経過し、ある程度、その数字や社会への影響など、読みとけるものが出てきているはずだ。
国際通貨基金(IMF)の発表する一人当たりGDP(2022年)だと日本の4万2347ドルに対して台湾は4万4821ドル。アジア開発銀行(ADB)の発表する一人当たり実質GDPは日本3万3815ドル、台湾が3万2888ドル。経済水準はほぼ同等だと言えそうだ。さらに日本同様、血統に基づく管理を行う戸籍制度がある点でも、「日本社会に同性婚が導入されたら?」を想像する際に「都合がいい」。
2024年3月時点で台湾の人口が2,342万人(同月日本は1憶2397万人)。2023年2月の婚姻総数1万855組に対し、同性婚は273組だった。全体の約2.5%である。同性婚成立後約4年で1万組を超えたということだから、月平均250組、このあたりの数字で落ち着いているといえそうだ。
そして日本同様、少子化に悩む台湾だが、在留外国人の数は約81.5万人(2021年4月)で全人口の約3.5%。日本は2023年末時点で約2.7%だから、台湾のほうが外国人比率は高い。
https://ichijoshin.com/taiwan-foreigners%E2%88%92population
そして特筆すべきなのは国際結婚の数だ。年間約12万組の結婚のうち約2万組、その比率は14~16%にも及ぶという。ちなみに妻が外国人(中国本土やベトナムが多い)のケースが約70%となっている。
https://ipss.repo.nii.ac.jp/record/231/files/CJK2021_Nakagawa.pdf
一方で日本の場合、2022年に全50万4930組の結婚があり、そのうち1万7685組が国際結婚となっている。比率はわずか3.5%。…うむ、少ない。
(気になったので確認してみたが、韓国の場合、同じ2022年に全19万組の結婚のうち、国際結婚は2万組で10%を超える)
台湾に見る同性婚と国際結婚の共通部分
さて、最後にこの数字が必要だ。台湾において同性婚でさらに国際結婚というカップルの数。
実は2021年までは、台湾籍同士、または同性婚が法的に認められている国の相手との結婚としか認められていなかったので、そこに数字の揺れはあるだろう。その後、中国本土の相手以外なら可能になった。東アジアではじめて同性婚が認められた台湾でこその逆の数字の揺れもあるはずだ。
運よく数字が見つかった。2023年12月時点で約1000組。同年2月に同性婚が計1万135組という数字から算出しておそらく同性婚の総数は1万2000~1万3000組だろう。国際結婚率は8%前後というところだ。全結婚の場合と比べて約半分にしかならないことがわかる。
いろいろ掘っているうちにもともとの疑問を置き去りにしてしまっていたが、「同性婚は偽装結婚の温床になるか」という問いについては、私の最初抱いた印象どおり、「ならない」が正解ってことで大丈夫そうだ。
追記
ここへ来て最後におまけ。婚姻成立と国籍取得をごっちゃに考えている人がいるが、日本人と結婚したところで日本国籍が取れるわけではないということは知っておいてほしい。条件が揃って順調にいっても7年程度はかかるし、悪くすると一生無理。審査するのは万年人手不足の入管庁。だから「外国産の日本人」なんて、よっぽど国が方針転換しないかぎり、大量発生しようがないので、ご安心ください。