見出し画像

Walk-in clinic (トロントの個性豊かなお医者さん達)

今日の午後 walk-in clinic(ウォークイン クリニック)に行ってきた。
ここ10年ほどホームドクター(かかりつけ医)がいない私は、医者といったら
近所のwalk-in clinicに行く習慣になっている。

Walk-in clinicとは予約なしで診察を受けられる診療所の事である。

カナダでは通常個人がホームドクターを持っていて、歯医者以外はまずホームドクターに診てもらう必要がある。

耳鼻咽喉院へ直接行くとか予約を入れて診てもらおうと思っても、「ホームドクターのリファレンスはお持ちですか?」と聞かれ、それが無いと診察してもらえない。

私のホームドクターは女医で、職場の近くにあったクリニックに常勤しており
初診の時にホームドクターになってもらった。
長年お世話になっていたが高齢のため現役を終え、同じクリニックで次に紹介してもらったのも女医であった。

この若くキビキビした女医さんに初回の健康診断をしてもらい、翌年になるとまた「健康診断に来なさい」という通知をよこして来た。これを2年ほど無視してからようやく訪れた時、彼女はざっとカルテを見てこう言った。

「どうしていつもwalk-in に行っちゃうの、あなたは。
ちゃんと私の所に来なさい。」

彼女に予約を入れて待つのが面倒で(具合の悪くなったその日に診てもらえる確率はとても低い)、近所のwalk-in clinicで風邪薬を出してもらっていたのがバレバレだったのである。

程なくしてキビキビの彼女がそこのクリニックを離れたため、次のホームドクターの紹介を待っていたがずっと連絡がなく、私からも連絡しないままになっている。

そして医者に行く必要があると近所のwalk-in clinicで済ませる癖がつき、
ホームドクターはいるのかと聞かれても「いません」で通っているので、
専門科に行く必要があると診断された場合はリファレンスもここの先生から出してもらっている。

さてさて、このwalk-in clinicに通い出して数年であるが、持ち回りで三人の医者がいるようである。

三人とも男性だが、一人は年配の小柄な先生で、いつ行っても必ず白いシャツ、
黒のズボンに赤い線の入ったサスペンダーをつけて、その上に白衣を羽織っている。私はこの先生に診てもらうことが多い。

ある時このサスペンダー先生の代わりに診てもらった先生は40代くらいで、半袖に黒く日焼けした筋肉モリモリの腕を見せて、ジーンズを履いていた。
白衣も着ていない。

顔も日焼けした感じで、濃い金髪の、ゆるいカールがかかった癖毛が似合っている。
その日の診察が終わったら大きなバイクをブンブン言わせて帰るのだろうな、という雰囲気だが、話し出すと声は静かでトーンは低く、見た目とは正反対で落ち着いた感じの先生だった。

そして三人目が今日初めて診察してくれた先生で、診察室に入って来た瞬間から「やあ、こんにちは!」とテンションが高い感じだった。
こちらも白衣無しの40代くらいで、冬だというのに半袖のシャツは白と黄色のチェック柄で白のジーンズという出立ちである。

声のトーンも非常に明るく、早口で診察を終えると「じゃあね、この隣りの部屋で血液検査のための採血出来るからやっていって頂戴、
それと超音波の方は隣りのビルの2階で出来るから。
今日この後すぐやってもらえるかもよ、あなた、運の良い日になりそうだね!」と私の膝をピシャリと叩いて喜んでいた。

そして採血のため看護婦さんに準備をしてもらっていると、ドアが開いたまま見えた廊下で、他の患者とフランス語で冗談を言いながら笑っている男性と目が合った。見覚えがあった。どうやらあの筋肉モリモリ先生のようだ。

彼は採血の部屋に入ってくると、看護婦さんと軽いジョークを交わして、彼女は私に目配せをし「この人はいつもこうよ」と言いたげである。

肩までセーターを捲り上げた私の腕に看護婦さんがゴムバンドを固定して、これから針を刺されようとしている私を、モリモリ先生は気の毒そうな、
そして半分からかったような表情で見下ろしていた。

「私が恐怖に慄いて(おののいて)いるとお思いですね?」と冗談っぽく言うと、彼はおもむろに私の後ろの壁に手を伸ばして棚から何かを取ったかと思ったら、
お猿のぬいぐるみを私に手渡し、
「これをしっかり掴んでいなさい」と言って笑みの残る顔で部屋を出て言った。

採血は針を刺した瞬間も分からないくらいで、さっさと済んだ。
私は看護婦さんとお猿に礼を言った。

「お大事にね」といった彼女は背が高く足も長く、そしていつも長い髪を上で無造作に束ねている。
優しくて、眼差しも言葉も柔らかい。そして今日、彼女は採血も上手いのだということが分かった。

通い慣れたこのwalk-in clinicはとてもこじんまりしていて、診察室は二つ。
併用されている薬局のスペースの方が大きい。

小さい受付があり、待合に使うパイプ椅子が8つほどである。
受付の女性も親切でテキパキしており、いま何人待っていて、診察までどれくらい時間があるのか教えてくれる。

混んでいる日は、「あなたはあと何分くらいで診てもらえるわよ」とか、「そこのあなたが次で、その後があなた」とアップデートしてくれる。

今日も私に、「あと一時間待たなくちゃだから、後で戻って来てもいいわよ」というので、その待ち時間で夕飯の買い物を済ませた。

こういうwalk-in clinicであるから、私は今後もしばらくホームドクターを持たずにいるのであろうな、と納得しているのである。


いいなと思ったら応援しよう!