24.5月ゲネプロ
いよいよ明日が定期演奏会本番。
ゲネプロではあるが、本番会場は取れなかった。
師匠がいるプロオケのコンサートが入っているからだ。
我々は隣の小ホールでのゲネプロとなる。
「夜がゲネプロしているとき、ボクは隣でブルックナー本番やっているから。
相当疲れていると思うけど、今日明日、がんばれよ。」
昨夜、師匠からそうLINEがあった。
曲目はブルックナー交響曲第9番。
とてもかっこいいやつ。
ゲネプロじゃなかったら、聴きに行きたかった。
私は昨夜出向先から戻ってきた。
今日も午前中、仕事をしてきた。出向していたからといって、コチラの仕事が減るわけではないのだ。
しかし、今は気が張っているから、あまり疲れは感じていない。
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小ホールに入ると、コントラバスJさんに話しかけられた。
「先週Kくん(私の師匠)から例のトラのことで連絡あったよ。」
師匠がJさんにエキストラをお願いしたいというので、私が伝書鳩になってJさんに事前連絡していたのだった。
「だいぶ酷い依頼だねぇ!参ったよ。」
Jさん、盛大にため息をつく。
「酷い?そうなんですか?」
「そうだよ!夜はKから聞いてないの?」
「うーん、詳しくは聞いてないですね。良かったら教えてください。」
「Kってば、優男なフリして凄いことをサラッと依頼してくるから酷い奴だよ。僕を便利屋と思っているに違いない。まったく。」
そんな文句を言えちゃうのは、Jさんと師匠が仲良しだから。
師匠の皮肉な笑顔が目に浮かぶ。
「スミマセンねぇ。」
なぜか私が謝る。
ここでマエストロがお出ましになったので、Jさんとの話は途切れた。
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はじめに、エキストラの紹介があった。
ウチの団体は基本弦楽合奏団なので、金管木管打楽器はエキストラだ。
節目の定期演奏会とのことで、大きい編成の曲となっている。総勢80人がステージに乗る。
私にとってこの規模は学生オケ以来だ。
金管木管の華やかの音色に包まれて演奏するのは、テンションが上がる。
指揮台に立ったH先生が、改めて全体に挨拶する。
「このメンバーで明日の本番を迎えます。どうぞよろしく。」
パチパチ。
「明日皆さんが乗るステージでは、今、◯フィルが演奏しています。ココに来るとき、開場待ちのお客さんがいっぱいいたでしょう?今日のチケットは2か月前に完売だそうです。」
師匠もそう言っていた。やっぱりブル9は人気だなぁ。
「で、さっき、本日のマエストロTさんと話してきたんですけれど。」
H先生は元々そのオケの出身だ。
「皇帝2楽章の終わりの部分、どう(指揮棒)振れば正解かと聞いたんですね。」
ふんふん。ピアノ独奏の前ですね。
「結局、難解すぎて何言ってるんだかわかんなかったです。」
皆爆笑。T指揮者はそういう人だ。
「じゃ、始めましょうか。ブラームsymphony3から。」
H先生、指揮棒を振り上げた。
ここまでくると、ほとんど曲指導は入らない。
一部、エキストラの方々へ曲のニュアンス確認があったくらいだ。
我々、もう半年ほどこの曲と向き合っている。
H先生の指導は3か月前から。先生の言いたいことは、みんなもうわかっている。
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全体練習後。
ロビーコンサートメンバーだけ残って、チェロ指導者M先生に演奏を聴いていただいた。
「うーん、もうちょっと練習して曲の精度を高めた方がいいわ。これじゃあ、何を表現したいのかわからない。」
と、厳しい評価。
M先生がお帰りになった後、会場予約時間いっぱいまでさらに練習した。
お互いの音が聴けるようになった。
「今日は皆お揃いのTシャツ着ているから、記念に写真を撮りましょう。」
とのパートリーダーの提案。
チェロバスパートでTシャツを作ったのだった。
「Jさん、夜さん、いつまでも遊んでないで。こっちに入って。」
Jさんと私、いつの間にか謎にくすぐりあいっこして広いホールを走り回っていた。
泣いても笑っても、明日が本番。