気体問題の解法(PV=nRTで良い!?)
解法の紹介
苦手な人も多い気体問題だが, 次のような手続きを踏むとよい。
Step 0-1. 状態を確認。理想気体であることを確認。液体があれば圧力として蒸気圧を用いる(不明な場合は仮に計算した圧力が蒸気圧を超えていたら液体があることを意味する)。
Step 0-2. 化学反応が起こるかどうかを確認。化学反応が起こる場合は, 化学反応式や表(反応前・変化量・反応後についてmolあるいは分圧をまとめたもの)を書き始める。
Step 1-1. 気体の種類ごと, 容器ごと, 状況(状態)ごとになるべく細かく分けてPV=nRT立式。
Step 1-2. 「全圧=分圧の和」に関する関係式を立式。
Step 2. ここまでで立てた式を比較し, 共通なものを見つけてそれ以外の部分に関して新しい式を立てる。PV=nRTのうち何が一定となっているかによってどんな式なのかが異なる。例えば, n, Tが一定ならPV=一定という式になるし, 例えばV, nが一定ならPはTに比例という式になる。
教科書の記述は歴史的背景を踏まえている
この単元の教科書の記述は歴史的背景に基づいている。
1662年 ボイルの法則: PV=一定 を実験的に結論
この時期はまだ空気が混合物であることさえわかっていなかった時代であることに注意。古代から空気自体が一元素と見做されていた。
1787年 シャルルの法則: V/T=一定 (ただし, 発表は1802年ゲイ=リュサックによる。ゲイ=リュサックは1808年に気体反応の法則(反応体積比に関する法則)も発表している)。
注目に値するのは, ボイルの法則から125年も後に発見されているということである。この間に水素, 窒素, 酸素という気体が発見されている。
1811年 アボガドロの分子説
分子説が提唱されていたのがこの時期であり, しかも提唱初期はこの説は受け入れられていなかったことに注目する必要がある。気体反応の法則は原子説と矛盾し, 分子説でその矛盾が解消される。上述のボイルの法則・シャルルの法則は気体分子のイメージをせずに発見された熱力学的(≒マクロな視点に基づく)法則である。熱でさえ物質と考えられていた(熱素説)時代である。
化学はマクロ的視点ではなくミクロ的視点からの方が楽!?
しかし, 上記の歴史的背景を忠実に頭に入れている高校生は少数であろう。原則, ほぼ現代的な視点から化学を捉えることが主であり, 気体についてもミクロ的な視点を踏まえておく必要がある(容器の中に気体分子が飛び回っているイメージを持つようにし, 温度が高いと激しく飛び回っているイメージを持っておくと良い)。実際, 教科書でもマクロ的な視点とミクロ的視点を並列しているため, 教師側が注意して教えない限り, そして生徒側も注意して授業を受けない限り, この分野を咀嚼できないだろう(いわんや化学史的素養をや)。
そのため, 問題を解くだけなら, ミクロ的視点で捉え, 結果論としてこれらの法則を総合した状態方程式PV=nRTさえおさえていれば良い。ボイルの法則・シャルルの法則を別途覚えておく必要性はない(法則名が知識として問われること自体はあるが, それはどちらかというと歴史の問題)。というのも, ボイルの法則・シャルルの法則はPV=nRTから導けるからである(歴史的には逆ではあるが実践的には役立つ)。
ただし, 問題を解くときに解法のStep 2を意識している生徒は少ない。比較の結果, ボイルの法則(PV=一定), シャルルの法則(V/T=一定)が出てくるのでそれを使うという感じである。私自身は初めからボイルの法則だからこう, シャルルの法則だからこうと考えているわけではない。
個人的に重視していること
私自身は割と分子論的な解釈ができるようになるかどうかを重視している。自分達の周りには「目には見えない」けれども空気というものがあることは小学生のときから理科で扱うことである。圧力・大気圧に関しても自分で実感するのは稀な気がしていて, 学習や理科実験によって教わることなので自明とは言えない。しかし, 分子論的に解釈すれば, 自分達の周りには気体分子が飛び回っており, 気体分子が壁に衝突することで圧力が生じることもイメージしやすい。「目には見えない」のは人間にとってミクロであるからであるという考えである。なので, 気体分子をイメージして現象を説明するようにしている。
† なお, 似たような指摘は原点からの化学 化学の発想法でもなされており, 今回の記事を書くにあたっても適宜参照している。
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