最新巻を読む前に、私の十二国記への愛とリスペクトを語りたい。
最近、十二国記を第一作目から最新巻の一個手前まで、11冊を再読した。この骨太なファンタジー小説を初めて読んだのが、私が小学生のときだったので、約20年ぶりに読んだことになる。それというのもすべて、昨年発売された最新巻『白銀の墟 玄の月』を十分に楽しむ為の下準備であった。
この下準備を経て、作品に対する思いがあふれて誰かに語りたくなった。重要なネタバレはしていないので、十二国記を既に読んでる人だけじゃなく、まだ読んでいない人にもこの記事が届いたらいいな、と思っている。
十二国記を知らない方は、とりあえず公式ホームページを覗いてみてほしい。なんとなく作品世界が伝わると思う。
小野不由美「十二国記」新潮社公式サイト
https://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/
シリーズ1作目の内容は、高校生が異世界へ渡って奮闘する話だ。といっても近年、巷に溢れている異世界召喚もののライトノベルとは全然違う。主人公はとんでもなく苦労する。それはもう、ほんとに。1作目の上巻、数百ページのほとんどが、主人公である陽子の過酷な旅の記録となっている。この上巻を読んでいる間、ずっとつらい。救いがない。誰か早く助けに来て、じゃないと陽子が死んじゃうよー!と言う感じ。それでやっと下巻で、楽俊というねずみの姿をした人物と出会い、陽子は救われ、読者はほっと胸を撫で下ろす。本当に、心底、陽子は大変な思いをするわけだが、その経験があってからこそ、後半の展開、さらにはその後のシリーズ全体に深みと説得力が増し、このシリーズを唯一無二の作品にしている。と私は思っている。
正直言って、小学生のときは言葉が難しく、さらに人生経験も浅いのであまり理解できていなかったと思う。でも、よく分からないなりに熱中していた。面白かった。だから数年ぶりに本編の続きが出ると知って、キャラクターの名前もあやふやのまま最新巻を読むのはもったいないと思い、ちょうど時間もあったので図書館で借りて読むことにした。そしたら、まーやっぱり面白い。大人になった今の方が断然、面白い。それになんと私は、毎巻、毎巻、泣いてしまった。陽子と楽俊の友情に泣き、泰麒の健気さに泣き、更夜の境遇に泣き、珠晶の高潔さに泣いた。十二国記が泣く話だなんて知らなかった。でも最近は『魔女の宅急便』でも泣くようになっちゃったからな、涙もろくなったのかも。まあとにかく、作品を読んでいる間はキャラクター達に寄り添い、次を読まなきゃ、彼らの旅路を見届けなくちゃ、と思って読むのをやめられなかった。結局、睡眠時間を削って、全11冊を数日で読破したのだった。
シリーズの中で、とりわけお気に入りの巻を紹介したい。それはシリーズ6作目にあたる『図南の翼』と、短編集第1作目である『不緒の鳥』だ。
『図南の翼』には本編の主人公である陽子は出てこないため、この巻は外伝的な位置づけになる。『図南の翼』の主人公である珠晶は12歳だが、彼女は自国の王がなかなか現れないことを憂い、自ら王になるために昇山することを決意する。十二国記の世界では、天命を受けた麒麟が王を選び、その王が王座にいることによって、国には災害も妖魔の被害も起きなくなる。王が王座にいないということは、すなわち国の荒廃を意味し、民は飢えと妖魔の脅威に晒されることになる。そういった悲惨な自国の状況を見て、たった12歳の珠晶は、麒麟に会うために蓬山へ向かう。蓬山に登り麒麟に会って自分に天命が下るかどうか試すことを、昇山する、と言う。もちろん子供が昇山することは普通じゃないし、大人は皆、考え直せ、家に帰りなさい、と彼女に言う。でも珠晶は譲らない。だって王がいないせいで、彼女の学校の先生は妖魔に殺されたし、今はまだ彼女の家族は無事だけどそれだっていつまで続くか分からない。今まで27年間も王不在の状態が続いていて、結局今に至るまで新王は決まっていない。目ぼしい大人はもう既に昇山した。それでも決まっていないんだから、子供が次の王になる可能性だってあるはず。だからわたしが王になるんだ、そういって彼女は麒麟の元を目指す。
『図南の翼』の何が好きって、この珠晶の性格だ。彼女は、賢く、口が達者、誠実で嘘をつかず、慈悲深くて勇敢。忍耐強く信念があり、人を導く才もある。なんて魅力的で力強い、生き生きとしたキャラクターなんだろう。彼女は、自分の非を認め謝ることもできるし、子供だからこその純粋さと真っ直ぐさで、大人の欺瞞を見抜く。勝気な性格で弁も立つので、周りの人間は口では彼女に勝てない。彼女の行動は彼女の信念に基づいており、見ていて気分がいい。たった12歳の子供に周りの大人が言い負かされ、振り回される様子は笑いを誘う。彼女の高潔さと信念の強さ、勇敢さは私を魅了した。彼女こそ、私の理想のリーダーでヒーローだ。こういう上司の元で働きたいし、こんな人に政治家になってほしい。私は彼女に心酔し、ほんの少しでも彼女みたいになりたい、とまで思っているのだ。
もう一つのお気に入りである『不緒の鳥』は、簡単にいうとお仕事ものだ。この本には、本編や外伝で出てきた主要メンバーは出てこない。短編4つには、それぞれ、仕事を実直にこなす官吏が出てくる。どれもいい話で、自分の仕事を日々懸命にこなすすべての大人に刺さる本だと、私は思っている。特に私が好きなのは3つ目の短編である『青条の蘭』だった。これは植物にまつわる話なのだが、主人公の自分の使命を全うせんとする懸命さ、必死さに心打たれた。雪の中、思い体を引きずって前へ、前へ、一歩でも前へ進もうとするその姿。彼の国を、民を思いやる気持ちと使命感に、自然と涙が溢れた。
十二国記は基本的に王と麒麟の物語だ。王と麒麟と、国とは民とは何か、という物語を通して、私たちに人間について語りかける。王と麒麟はどのキャラクターも過酷な運命を背負っているし、物語の中で彼らは試練を乗り越えるために努力する。
私が昔より今のほうがこの物語に心揺さぶられたのは、私が歳をとって、人間の残酷さや愚かさ、優しさや愛について昔より知っているからだと思う。物語の中の彼らみたいな過酷な人生は生きていないけど、それでも彼らの喜びや悲しみ、怒りややすらぎに繋がるような"かけら"を、私も人生で得てきた。だからこの物語をとてもリアルに感じるし、私に人生を生きるための勇気と希望を与えてくれる。
十二国記には、たくさんの魅力的なキャラクターが出てくる。彼らそれぞれに物語があり、物語の中で彼らは確かに生きている。そんな風に思わせてくれるこの作品が私は大好きだ。
この壮大な物語を読むことが出来て嬉しいし、この作品を生み出してくれた小野さんには敬意を表したい。そしてなにより最新巻を書き上げてくれて感謝してます。ありがとうございます!これから読むのがすっごく楽しみです。