海外在住相続問題(2) 直前引き出し金と戻らない時間
こんばんは。
海外在住者が直面する争族問題について自分の経験から書いています。
私の場合は妹による多額の直前引き出しがありました。
直前引き出しとは
相続の前に親の預金を相続人(子供)が引き出す事を直前引き出しと言います。
日本の銀行は口座名義人の死亡を知ると口座を凍結します。親の口座は生活費に使っていたりして凍結されると困ってしまいます。そのため相続発生前にお金を引き出す事があります。
引き出して使った残りは親の遺産ですから、相続資産に計上して分割相続します。
これがまともな直前引き出しです。
隠す目的の直前引き出し
問題は隠す目的での直前引き出しです。
なぜ隠す
隠すのは相続税逃れ、もしくは他の相続人から隠すためです。それ以外ありません。
直前引き出しによる資産隠しはよくある話だそうです。
もちろん税務署は百も承知なので、必要なら親の口座、相続人とその家族の口座まで調べ上げます。海外在住者への送金記録も調べます。
税理士さんも言ってましたがATMでの連日引き出しは税務署が真っ先にチェックするそうです。税務署に目をつけられたら隠し通せるものではないですね。
海外在住者は巻き込まれる側
日本政府は資金洗浄防止のために海外への送金に厳しい規制を設けています。だから海外から親の預金を勝手におろすことはできません。
なので海外在住者が直面する直前引き出し問題は、知らないうちに親のお金が引き出されていた、という被害者の立場が多いと思います。
ところが残念なことに日本の法律では直前引き出しの被害者でも脱税になります。相続税は相続人全員に納付義務があるから知らなかったでは済まないのです。
多額の直前引き出金を隠していたのが見つかった場合、例え被害者の立場でも問答無用で追加の相続税と延滞ペナルティーを払うことになります。
日本で何が起きてるか知れない海外在住者は知らずに資産隠しの脱税に巻き込まれるリスクがあるのです。
直前引き出しに巻き込まれた私
私の両親は一ヶ月ぐらいの間に相次いで亡くなりました。父が入院し、その後母が死去、そして入院したまま父が死去、といった経緯です。
残った相続人は海外在住の私と日本在住の妹の二人。
妹とは子供の頃からとても仲が悪く、十代で違う国に住むようになってからはほとんど関わりがありませんでした。
この妹が知らないうちに多額の直前引き出しをしていたのです。
親の預金の引き出し
ことは老齢の父が入院したところからはじまります。
父が入院してすぐに妹が父の書斎からエンディングノートを探し出します。
エンディングノートには父名義の銀行口座情報、そして年寄りあるあるですがATMカードの暗証番号が全部記載してありました。妹はATMカードも全部探し出します。
預金はかなりの額が定期に入っていました。定期預金は解約しないと引き出せません。
そこで妹は入院中の父に面会し、嫌がる父の手をつかんで書類に署名させ解約します。
妹はその後連日ATMから上限金額を引き出し、増殖し続ける札束をリュックに入れていつも持ち歩いていました。
父が入院しているうちに母が亡くなると、妹は母の預金も引き出しはじめます。母名義の預金額もそれなりの金額でした。
最後に入院していた父が亡くなった頃には妹が引き出した現金はちょっとしたマンションが買える金額になっていました。
直前引き出しの理由
なぜ多額の直前引き出しをしたか
妹夫婦は十分な資産があり、お金には全く困っていません。
義弟は大手メーカーの管理職。妹も外資系勤務で合わせてかなりの収入があります。タワマンとまでは行きませんが郊外のしゃれた大きいマンションに住み、そのローンも完済しています。
ここまで経済的に恵まれた妹がなぜ多額の直前引き出しをしたのか。
それは脱税するためでした。
驚いたことに妹は相続税の事を全く知りませんでした。相続税が幾らになるかも知らないのにすぐ税務署にバレるやり方で脱税をしようとしていたのです。
私の親は富裕層でもなんでもなく、資産は相続税がちょびっと発生する程度のものでした。税務署に見つかって恵まれた人生を棒に振る事を考えたら全く割に合わないリスクです。
妹の行動心理はいまだによく理解できません。
どうやって知ったか
ところで海外在住で日本にいなかった私がなぜここまで経緯を詳しく知っているのでしょうか。
種明かしをすると、全部本人から直接聞きました。妹ははじめは隠していたのですが、途中から全部聞いたのです。
なぜ聞けたかというと、妹は私も直前引き出し金を山分けして脱税するだろうと思っていたのです。「脱税したくないの?」とまで聞かれました。
妹の多額の直前引き出しを知った時は私はとても腹を立てました。特に父の手をつかんで署名させたと知った時は内心煮えくりかえる思いでした。
しかしですよ、ここはとにかく事情を全部知るのが優先だぞ、と考え直します。そして適当に話を合わせ、おだてたりして全て聞き出したのです。
札束の山
妹が引き出して持ち歩いてる現金も確認しました。
妹の小ぶりのリュックから次から次へと際限なく札束が出てくるのはまるで手品のようでした。あの手のリュックってけっこう入るんですね。
札束を目の当たりにしてもほんとにこんな事するんだ、とちょっと信じられない気分だったです。増え続ける札束の山を何ヶ月も持ち歩く神経も全く理解できません。
私はその一方で「時々大金の入ったカバンを拾ったってニュースになるけど、あれってこういう事なのか」と妙に納得したりしてました。
起こるべくして抗争勃発
一通り妹から聞き出し札束も確認したところで、私は脱税など不法行為はしたくないし親の預金を引き出すのはやめてくれ、親の資産を動かすならまず自分に連絡してくれと伝えました。
すると半ば予想していた事ですが妹はすごい勢いで怒りだし、「親の資産はお前には関係無い」と言ってきました。
こうなるとこちらも引き下がる訳にはいきません。妹との関係は一挙に険悪なものになりました。
仁義なき戦いの勃発です。
そこからはさらにいろいろありました。現在は弁護士を立てて調停中です。
直前引き出しの教訓
一番良い結末は
他の相続人が隠れて多額の直前引き出しをしていた場合、一番良い結末は直前引き出し金が相続財産として戻される事です。
感情的には腹が立ちますが、相続を進めるためには直前引き出し金をとにかく相続財産に戻させて計上しないとなりません。
妹も私に知られてしまったので多額の直前引き出し金は遺産に計上して分割することになりました。
もちろんその分の相続税も払いました。
直前引き出し金を隠されたら
直前引き出しは隠されたらとても見つけにくいです。海外在住者にとってはなおさらです。
相続手続きの際、相続発生時(親が亡くなった日)の銀行残高を調べますが、その前に引き出されていたらわかりません。ちなみに妹は相続発生の数ヶ月前から引き出しを始めていました。
通帳から調べる
一番手軽なのは通帳から出入金記録をたどる事です。ただこれは海外在住者には難しい話です。私の場合はさらに妹が親の通帳類を全部持ち去って隠してしまいました。
口座取引履歴を取り寄せる
他には銀行から口座取引履歴を取り寄せることができます。これは一番確実ですが相当の時間と手間がかかります。銀行によって違いますが相続人が銀行窓口で申請しないとならないし、かなりの手数料もかかります。
できなくは無いと思いますが海外在住者にはちょっとハードルが高いと思います。
白状させる
私のように同じ穴のムジナのフリをして引き出した額や手口を聞き出すのもありだと思います。その際はできるだけ記録(会話の録音やLINEのスクショなど)を残すようにした方が良いです。
記録は相手と争うためではなく、全部知ってるんだからもう悪い事をするなよ、という抑止力として使うつもりでいればいいと思います。
ちなみに私もいろいろ記録しましたがうっかりして札束の写真を撮り忘れました。これだけが残念でならないです。
もし時間が戻れたら
今思い返すと、親が元気だった時に率直に相続を話し合って遺言書を作っておけたら一番良かったと思います。
あとせめて老齢になった親の口座をオンラインで確認できるようにしていたらよかったと思います。これなら海外在住者でもできますよね。
父とは月に数回動画通話していて金銭状況なども把握していました。でも父が入院してしまったら妹が自分からバラしてくるまで直前引き出しには気がつかなかったです。
そして、もし時間が戻って父にもう一回会えるなら、
と伝えたいです。
時間は戻らないし、親父はもういないのですけど。
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