ナイトライドラッシュアワー 5
その時、ひゅん、とかすかな風切り音が彗華の耳に届いた。
ふわり、とロングヘアが宙を舞い、スカートの裾が大輪花の様に開く。
彼女がその場でバク宙をすると同時に、コンクリートへ深々と突き刺さる光の矢。
「誰かしら?」
刺々しく、矢が放たれた方向をにらみつける。勿論光球は彼女の腕にしっかりと抱かれたままだ。
「この違反者め!」
語気荒く表れたのは、一人の少女だった。
ネオンを受け群青に輝くボブカットが印象的な、スレンダーな女の子の手には、身の丈ほどもある大きな弓が握られていた。
「星の光を食べるなんて、なんて傲慢なやつだ!」
「傲慢?どこが傲慢なの?私はこれを毎日食べているわけじゃないわ。週3回に、やっとの思いで抑えているのを寧ろ褒めてほしいくらいよ」
豊満な胸を強調させるように(本人にその意図は一切無いのだが)、彗華はふんぞり返った。
その態度が少女の怒りに油を注いだのは言うまでもない。
「違反者に滅びを!」
ギュイ、と弓を絞ると同時に、光の矢が三本現れる。キリキリキリ、と引き絞られるそれは、星の光を集めたかのように淡い光を放っていた。
「その矢、とっても美味しそうね」
ひゅん、と空を切る音が聞こえた瞬間、放たれた三本の矢は彗華を貫いているはずだった。
「いただきます」
彼女の手中に、三本の矢がいつの間にかしっかりと握られていた。
そしてあろうことか、彼女は矢じりに勢いよくかぶりついた。
「ひ、ひえっ!?」
少女の声が裏返ったのは言うまでもない。自身の武器を、眼前でバリバリとおいしそうに食べられているのだから。
「これ、クリームソーダ味ね。面白いわ!」
バリバリと、それこそ飴細工を食べるように彗華は三本の矢をかけらも残さず食べ切った。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「な……な、なんなのよっ、あんた!!」
行儀よく両手を合わせ、にこりと優雅にほほ笑むその姿が、少女には文字通り「悪魔」にしか見えなかった。