ナイトライドラッシュアワー 4
がぶりと噛みついたそれは、歯ごたえは無いのに、しゅわり、と、まるで炭酸が弾けるような音が、彼女の耳に甘く響く。
舌に響くは、桃に似たとろける甘さ。
炭酸のような刺激が、舌をもてあそぶように跳ねては消える。
恍惚とした表情を浮かべる少女は、残りの光球をぎゅう、と抱きしめた。
「捕まえた。おいしい、おいしい、私だけの、ネオン。美味しく食べてあげるから」
どこにも、いっちゃだぁめ。
熱っぽい吐息は、虹色の光をくるくると揺らす。
何百回もこの光景をみたイリーゾは、いつも通り何もしゃべらない。
いや、そもそもイリーゾに『喋る』という概念は存在しない。
かろうじて『伝える』という概念が存在するのみだ。
『ねえねえ、すいか』
「なあに? イリーゾ」
『"たのしい"?』
彗華と出会って、初めて教えてもらった言葉。
それに対し、彗華は光球に齧りつき、
「ええ、とっても」
二人だけの空間、繁華街の片隅で答えた。