ナイトライドラッシュアワー 3
『あの、ぴんくのひかり?』
「そう、きっと綿あめみたいにふわっとした口当たりで、けれどはじけるキャンディーのように目が覚めるような刺激のあるピーチの味だわ」
つらつらと自論を展開する彗華に、イリーゾははいはい、といつものように軽く流す。
『じゃあ、すいか。もっとよって』
「ええ」
座っていた看板から、ぴょん、と一跳ね。猫の身体能力を存分に生かしたそれは、体を一瞬で人込みの上に運ぶ。
時が一瞬だけ遅くなったような錯覚。ひゅう、と通りを吹き抜ける風が、煙草の匂いと混ざってロシアンブルーの毛並みを滑る。
彼女がネオンのある店の屋根にとん、と着地した瞬間、時は思い出したかのようにまた一気に流れ出す。
彼女の瞳は、けばけばしいネオンの光を受けてより一層神秘的に光る。最も、その輝きはネオンのせいだけではなさそうだが。
『じゃあ、いくよ』
きらり、と一際神秘的な光が瞳から溢れる。
その瞬間、ネオンが何の前触れもなくフッと消える。幾人かが、何事かというように目をやる。が、すぐに何事もなかったように歩き出す。イリーゾの人払いの魔術にかかったのだ。
消えたネオンの下、大人の手のひらで抱えられるくらいの、ピンク色の塊がふわり、ふわりと浮いていた。
ぱっと見はまるで宙に浮く綿菓子の様。けれど、その中心部からは先ほどのネオンの輝きが、時折ちかり、ちかり、と瞬いている。
突然、ロシアンブルーの猫がぐっと体を丸めた、と思うと、元の星峰彗華の姿に戻る。しかし、人払いの魔術が効いているために、それに気づく人はだれ一人いない。
むっとする夜風にさらさらと髪をなびかせながら、彗華はいとおしそうに、ピンクの光球を抱きしめた。
「こんばんは。おいしいネオンさん」
うっとりと眺めながら、彗華はその光球に勢いよくかぶりついた。