ナイトライドラッシュアワー 1
星峰彗華、それが私の名前。けれど私は星よりネオンを愛した。
「すいか」
舌っ足らずな声。ついと頭上を見ると、小さい、虹色の光。
「イリーゾ」
くるくる、と色を変えながら頭上の光、イリーゾは目の前に降りてきた。
「あそぼ」
「ちょっと待って。もう少しだけ、この景色を見せて」
ビルの安っぽい手すりに持たれる、私の眼前に広がるのは、
赤青黄色緑白紫ショッキングピンクウルトラマリンブルーエメラルドグリーンアンバーウルトラバイオレットパステルピンクシアンマゼンタターコイズグリーン、その他色々。
「うるさいね」
イリーゾはちかちかと光りながらつぶやく。
「そうだね」
けれどそれが私にとって心地よい。薄っぺらく、それでいて目を背けられない存在感を持つこの光たちを一生眺めて暮らしたいくらいだ。
「ねえ、あそぼ」
イリーゾは赤く輝きだした。どうやら我慢の限界らしい。思わず、くすり、と笑ってしまう。
お姫様へ伸ばす様に、イリーゾへふわり、と右手を差し伸べる。ちかり、と一瞬強く光り、私の手中へ収まる。
瞬間、私の姿は「星峰彗華」でなくなっていた。
うっすら青みがかって見える、ロシアンブルーの毛並み。
イリーゾへ伸ばした右手――今は右前脚だが、それだけ足先が白い。
そして瞳は、ウルトラマリンブルーとエメラルドグリーンを混ぜたような、それでいて何色にも輝く様に。
元「星峰彗華」の猫は、一つ大きく伸びをすると、ビルの屋上から颯爽と繁華街へ飛び降りていった。