パラレルパラダイムパラドックス 2
おじいちゃんの分まで出汁巻き卵をもらい、お腹いっぱいに食べたシンヤは近所の幼馴染、ゆうちゃんの声に慌てて家を飛び出した。
「もう、シンヤおっそーい!」
「ごめん、ゆうちゃん!」
もう、とぷりぷり怒るツインテールの少女。その背中には、お姉さんのおさがりだと言う、ちょっとだけ古ぼけた赤いランドセル。
「そんなんだから、シンヤはモテないのよ、まったく」
お姉さんの口調を真似て口を尖らせるゆうちゃん――夕夏に、シンヤはごめん、ごめんね、を繰り返す。
「ばつとして、今日の給食のゼリー、私がシンヤの分をもらうからね!」
「そ、それはやだよ!! なんでさ!」
藪から棒なことを言われ、謝罪から一気に喧嘩モードになる二人の会話。
『おはようございます、夕夏さん、シンヤさん』
「あっ、おはようございます!」
「おはようございます! あーるさん!」
にっこりと優しい笑みを向ける青年に――正確には、そのホログラムを投影しながら路上清掃を行う全自動ロボットに、二人はいつものように挨拶をする。
この挨拶によって、彼ら小学生が無事登校をしていることが小学校とそれぞれの家庭にネットワークを介して送
られる。
『今日は雨が降るようですから、気を付けてくださいね』
最新の天気予報プログラムによってはじき出されたやり取りも、いつものことだ。
「シンヤは傘もってきた?」
「ちゃんともってきたよ!ほら」
二人の手には、それぞれピンクの傘と水色の傘。
「じゃ、だいじょうぶだね! よーし、シンヤ、学校まできょうそうだよ!!」
「え、ちょ、まってよ、ゆーちゃーん!!」
朝露きらめく木陰を、二人分の小さな影が飛び跳ねていった。