パラレルパラダイムパラドックス

シンヤの住む町は、小さな小さな山の町だ。

そこには、シンヤのすべてが詰まっている。

深淋(みそそぎ)町。山間の小さな、風光明媚と言えば聞こえのいい町。



シンヤの朝は、お母さんの作る味噌汁の匂いで起きることから始まる。

敷布団から跳ねるように起き、自分の部屋の襖を開ける。かすかに聞こえるのは、包丁の音と朝のテレビニュースの音。

冬には凍るほど冷たくなる板張りの床を、早歩きで居間へ向かう。

「おはよう! お母さん、お父さん、おじいちゃん!」

「おはよう、シンヤ。顔洗ってらっしゃい」

「おはよう、今朝も元気だな」

「おはよう、シンヤ」

 とっくに居間に揃っていた、お母さん、お父さん、おじいちゃん。お母さんは奥の台所で、今は出汁巻き卵を作っている。

 手前のテーブルで、お父さんとおじいちゃんはテレビをのんびりと見ている。

 庭からは、おじいちゃんが貰って来た雑種のコロ太が元気にワンワンと吠えている。

「ほおら、シンヤ。早く顔を洗いなさい」

「はあい!」

 元気よく返事を返し、そそくさと居間の隣にある、洗面所へと向かった。

 少し高いため、シンヤ専用の踏み台を置いてから、蛇口を捻る。キンキンに澄んだ水が、寝ぼけた顔を一瞬で締めるようだ。

「っぷわっ」

 思わずそんな変な声が漏れる。顔を洗い終わり、居間に向かうと、もうテーブルには朝ごはんがきちんと並べられていた。

「シンヤ、いただきますするよ」

 おじいちゃんの声にせかされるように、シンヤは自分の席に座る。

 目の前には、ほかほかとおいしそうな湯気を立てるごはんにお味噌汁、出汁巻き。

「いただきまあす!」


 シンヤの元気な声が、家いっぱいに響き渡った。


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