還りたい場所がなくなる前
歩く度にピッピッと赤ちゃんの靴みたいな音が鳴る焦茶色の木の階段があった
何度も駆け上がったし
何度も飛び降りて遊んだ
壁はザラザラした岩みたいな灰色で
黒や白の小さな粒がたくさん埋まっていた
ブラウン管のテレビもあった
古びた扇風機や家具の重さで沈んでいた畳もあった
全部忘れたくなかった
触れていたい と思った
取り壊されてしまう祖父母の家
触れていたい と思った
懐かしい家族の記憶
もう少しだけ 生の残る温もりを感じていたい
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