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UAEのフリーゾーン考察:起業経験から語る、Ras Al Khaimah Free Zone (RAKEZ)

はじめに

UAEでの起業を考えるとき、どこに会社を設立するかは(少なくとも最初の起業においては)多少悩むことになります。UAE国内には約50のフリーゾーンがあり、また万能なメインランドという選択肢もあるからです。
私は、最初のビジネスセットアップに、北部首長国であるラスアルカイマにある、RAKEZ(Ras Al Khaimah Economic Zone・ラスアルカイマ エコノミック ゾーン、通称ラケズ)を選びました、その後、何度か別のフリーゾーンとメインランドでの事業登録を経験しています。別の機会に、UAEの全てのフリーゾーンについて纏めてみたいとは思っていますが…(遠い目)


RAKEZでのアクティビティの選び方

RAKEZに最初のビジネス登録をした時、私はUAEに住んで5-6年ほど経過していました。既にライセンスに関する国の法律やルールをある程度理解していたため、ライセンス登録サポート会社(Business Setup Company)を利用しませんでした。好みのフリーゾーンを選んで、直接契約するのが一番良いと思っていたからです。

RAKEZに電話して、ビジネスセットアップに興味がある旨を伝えると、担当者からすぐに連絡が来て、アクティビティリストを送ってきました。アクティビティとは、日本の定款に書いてある事業目的にあたる部分です。日本と大きく異なるのは、あれもこれもやってみたいからとアクティビティを安易に混ぜ込むことは出来ません。アクティビティリストは通常、事業内容が大まかにカテゴライズされている中に、細かく活動内容が詳述されていて、それらに一つずつ番号が振られているものになります。アクティビティのミックス&マッチが可能かどうかは各フリーゾーンのルールに従います。当時、ベース料金では同じカテゴリ(ライセンスタイプ)の中から2つのアクティビティを選ぶことが出来ました。それ以上のアクティビティを追加する場合は追加の料金を支払います。翌年のライセンス更新時のフィーにも響いてくるので追加をするかは要検討です。
当時はライセンスタイプを越えて登録することは出来ませんでした。RAKEZでのライセンスタイプとは、例えばコンサルティングやマーケティングのライセンスタイプは Professional ライセンスですが、トレーディング(貿易)は General Trading がライセンスタイプとなります、レストランやコーヒーショップの経営は Commercial ライセンスとなります。当時は、これらのミックス&マッチが出来ませんでした。Eコマースとマーケティングがやりたかったら、異なるライセンスタイプのため、2つ別のライセンス(別の会社)を作るしかなかったのです。もちろん、このミックス&マッチをOKとしているフリーゾーンはあります、これもフリーゾーン決定時の重要なファクターになると思います。

※重要※

UAEではルールが頻繁にアップデートされます。当時のRAKEZルールもアップデートが行われている可能性があるため、確認が必要です。

契約書サイン

話を戻します、RAKEZ担当者とのやり取りは、WhatsAppでスムースに進みました。WhatsAppでのやりとりは他のフリーゾーンでも行われるので、メールの返信待ちがなく、電話をしたりするストレスが無く良い点です。アクティビティを決めた後、トレードネーム(会社名)候補3つ、そしてパスポートの情報を事前に送った後、最終的な契約書面の締結は、ドバイ・ダウンタウンのオフィスビル内にある綺麗なRAKEZのビジネスセンターで契約を行いました。契約の紙は約30枚ほどあり、各ページにサインをしましたが、「結構疲れるね?笑」と冗談を言うと、「Of course, 起業は家を買うよりも大事なイベントだからそんなものでしょう?笑」と返され、ハッとしたのでした。覚悟が足りていませんでした。

イラン渡航履歴は要注意?

個室で契約書にサインをしている間に、パスポートの提示を求められました、バッグから取り出してハイっと渡します。持っていた10年パスポートは出入国スタンプでほとんどのページが埋められた若いころの冒険の証のようなパスポートでした。しばらくして女性スタッフが私のパスポートを持って帰ってきて、「イランに行ったことがあるんですね?」と聞いてきました。「はい、数年前に出張でテヘランに数日滞在しました」と答えると、予想していなかった答えが返ってきました。RAKEZの方針で、イランに入国した形跡があると会社の登録ができないと言われたのです(驚愕)、ただしチーム内で確認を取り、私のイラン入国は直近ではなく数年前に1回のみなので許可が下りたと言われました。イラン人の多いUAEでそんなことあるの?という驚きしかありませんでした。RAKEZのあとは新しいパスポートになり、イランにも行っていないので他のフリーゾーンでも同じ問題があったかは分かりません。またこのルールも、前述の通りですが変更になっている可能性があります。

ビザ申請

会社の登録が終わると、ビザ申請を行います。フリーゾーンが申請者のビザスポンサーになります。もし、ビザを自分が就労している会社から貰っている場合や、結婚していて夫がスポンサーになっている場合、不動産購入によるゴールデンビザなどを持っているなど、既にビザを持っている場合には不要なステップです。これらはすべてRAKEZのポータルサイトから申請・支払いが出来るようになっているのでシームレスに手続きを進めることが出来ます。逆に言うと、会社の登記までは手取り足取り細やかなケアをしてくれるけれども、登記完了後は、自分でポータルサイトのIDパスワード設定を行い、自分で各種申請を行う必要があります。もちろん不明な点は質問をすれば回答は得られますが、内容により、メールでの問い合わせのみで対応しているケースやポータルサイトからの問合せが必須となり、ワッツアップなどで登録前のように瞬時に質問に対する回答を得られることはなくなるかもしれません。また自動的に細かなガイダンスが与えられることはありませんので自分で能動的に進めて行かなければなりません。これはどこのフリーゾーンにも共通しているように思います。問合せ後、返事が遅い場合は、(しつこく)連絡をしてリマインドをすることも重要です。

メディカルフィットネス、HIV感染者は居住できない

RAKEZのマイナス点をここで挙げるならば、Medical Fitness(メディカルフィットネス)という居住ビザ取得のための健康適性検査を受ける際に、無料で受けられる施設がラスアルカイマにある点です。ドバイからは100km・車で1時間強は離れています。但し、私の場合はドバイ市内のメディカルフィットネスセンターで適性検査を受けました。この場合は有料となります。
UAEの健康適性検査は、就労ビザ・居住ビザを問わず、またどの種類の新規・更新ビザにおいても18歳以上のすべての外国人に適用されます。検査は血液検査と胸部X線のみで簡単なものですが、B型とC型の肝炎、HIV、ハンセン病、梅毒、結核などの伝染病の検査をしています。ここで目に留まるのはHIVではないでしょうか?結果が陽性の場合、居住ビザは拒否され、国外追放になります。メディカルフィットネスの結果を貰ったら、ポータルサイトからファイルをアップロードし、エミレーツIDの申請と支払いをし、エミレーツIDを受け取ります。個人のビザ申請はこれでおしまいです。(当時はパスポートにビザのステッカーを貼る、ビザスタンプもありました。今はビザスタンプは撤廃されましたが、ビザスタンプはRAKEZのドバイ・ダウンタウンにあるサービスセンターですぐに発行されたことを記憶しています。)ところで、ビザの発行地(RAKEZの場合はラスアルハイマ首長国)と居住地(例えばドバイに住みたい場合)が異なることは全く問題が無いことを記しておきます。どこの首長国で発行されたビザかに関係なく好きな場所に住むことができます。

健康保険加入の義務

ビザ以外には健康保険が必須となっているため、保険に加入します、最低限の要件を満たす格安の保険は、500AED程度で加入することが出来ます。もちろんそのような保険は日本人が希望しそうな大手病院での保険適用は出来ず、ホスピタルではなく、クリニックでの利用が可能です。保険サービス選びはどこが良いのか、これは別の機会に纏めたいと思います。

ライセンス更新

ライセンスのリニューアルについても少し触れておきます。最初に何年分かのライセンス料を収めることでフリーゾーンからのディスカウントを受けることも出来ますが、通常は1年更新です。ライセンスのリニューアルは、メールで更新通知が来て(結構しつこいので見落とすことはありません、笑)、ポータルサイトで支払うことで簡単に完了することが出来ます。今もあるのかは不明ですが、ライセンス自体の費用に加えて、更新料として、5000AEDが請求されました。

Transfer-Out (フリーゾーン移転)と De-registration(会社の清算)

逆に、別のフリーゾーンに移ったり、メインランドに移転することもあると思います。その場合はライセンスの Transfer Out が出来るかどうかを確認してみて下さい。これが出来るフリーゾーンでは、De-registration(登録抹消)を行う必要がありません。当時のRAKEZには、そのオプションはありませんでしたので、RAKEZを去る時は、De-registrationを申請しました。会社を解散する旨の書面を提出して、RAKEZとのオンライン面談が1度ありました。引き止めにあうことはありません、解散の意思の再確認と、顔の照合が行われました。記憶が薄れていますが確かカメラが必須で、パスポートを顔の横でかざして見せたり、提出した書面に書いてあるサインの横に、もう一度サインをしてカメラ越しに見せて、実際にその書面も送信したりしました。RAKEZ側はオンライン面談の後、地元の新聞に登録抹消について掲載します。別のフリーゾーンでは自分で掲載する必要があったので、RAKEZのサービスは有難かったです、新聞掲載費用もフィーに含まれているため、お財布にも優しかったです。付加価値のあるサービスと言えば、RAKEZが開催するウェビナーはUAEの情報のアップデートに役立ちます。VATについて、Eコマースについて、雇用の法律改正についてのウェビナーが過去にありました。RAKEZに登録していなくても参加することが出来ます。

法人口座を作る

法人の銀行口座開設は別記事で特集したいと思いますが、RAKEZのダウンタウンのサービスセンターには提携銀行の方が常駐しています、希望すればこちらで口座開設サポートをしてもらうことが出来ます。日本では法人口座維持費がかからないんですってね??UAEの銀行は維持費がかかります。1口座につき、月100~500AED程度です。スタートアップでお金をなるべくかけたくない場合は、口座維持費最安値のネット銀行、Wio Bankの法人口座をお薦めします、一番安いプランでは月額 99AEDで利用することが出来ます。

結局いくら掛かるのか、ビザクォータを増やさずに人を増やす方法

最後に費用感をお伝えします。"当時は" ライセンスが約 16000AED、1人分のビザとエミレーツIDもろもろ諸費用を合わせて約 5000AED 程度でした。途中に書きましたが更新時には更新費 5000AEDが追加発生しました。最近RAKEZの話を聞きましたが、少し安くなっていると思います。その時のプロモーションによりますが、安いものだと年間13000AEDくらいでビザ・エミレーツIDまですべて込みのプラン(アクティビティの種類に制限あり)があるみたいですね。しかも半額を収めて、半年後に残りの半分を収めるという画期的な支払いシステムで。更新費も無いようなことをちらっと聞きました。それを考えると、UAEのフリーゾーンでは一番安い方に分類されると思います。ところで、RAKEZは株主が1人でも、FZ-LLCでした。他のフリーゾーンでは株主が1人だとFZE、2人以上でFZCOになるところがあります。
ところで、バーチャルオフィスのみで良い、Visa Quota (ビザクォータ:企業が従業員にスポンサーできる居住ビザの最大数のこと)の制限、スモールスタートを切りたい等で社員を増やしたくない場合は、雇用ではなく業務委託契約を結ぶことで実現することが出来ます。(どこのフリーゾーンも共通して、バーチャルオフィス・Flexi Desk-フレシキデスク は一定人数の上限があり、それ以上になると物理的にオフィスを借りる必要があります。バーチャルオフィスのみで可能な上限は各フリーゾーンによります、2名まで、5名まで等。)

最後にRAKEZを1-5星★で評価します

RAKEZの評価(1〜5星):

登録プロセスの容易さ: ★★★★☆
ビザ・エミレーツID手続きの容易さ: ★★★☆☆
更新手続きの容易さ: ★★★★★
登録抹消手続きの容易さ: ★★★★★
カスタマーサポート: ★★★☆☆
費用(当時です、今は5つ星ですね): ★★★☆☆

おまけ…

会社の設立から抹消までラスアルカイマのRAKEZ本陣(HQ)を見ることはありませんでした。何年も経ってからたまたまラスアルカイマに旅行に行った時に偶然RAKEZの前を通って、これかぁ~と一人で納得しました。へんぴなところにあります、笑。

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