博多~鹿児島へ「好き」をたずねて
先日、TULIPの東京国際フォーラム公演に母と行った話を書いたが、今度は彼らの故郷・福岡でのコンサートに行ってきた。
もともと今回の50周年ツアーは、7/14・15の福岡公演でファイナルを迎える予定だった。
もちろん両日ともFC先行でチケットを申し込んだが、14日は取れたものの15日はファイナル、しかも福岡ということであえなく撃沈。
結論からいうと、今秋~来年までの「アンコール公演」が発表されたので当初のファイナルがファイナルでなくなった(ひとまずの区切りであることは間違いないが)チケットの譲りが出回ったため行けないこともなかった。
が、一般販売でもチケットが取れないとなった時点で15日のファイナルは諦め、さりとて1泊で戻ってくるのもどうかと思った時にひらめいた。
九州で、行ってみたいところがあった。
それは鹿児島市の「かごしま近代文学館」。
鹿児島県にゆかりある文学者の作品紹介や愛用の品、生原稿などが展示されていて、海音寺潮五郎、林芙美子、島尾敏雄、有島武郎……といった錚々たる名が並ぶ。
その2階に、小部屋のように独立して作られているのが「向田邦子の世界」という展示スペース。
向田さんが父親の転勤で10歳~12歳という多感な時期を過ごしたのが鹿児島で、エッセイ「鹿児島感傷旅行」には「なつかしい故郷もどき」と綴っている。
10代前半は人生の方向性を決定づける重要な時期だが、大学時代にある授業で講師が「出身地とは10代前半を過ごした時期と定義する」と言ったのがストンと腑に落ちたのを覚えている。
向田さんの執筆人生に大きく影響したであろう鹿児島にいつか行ってみたいと思いながら、なんとなく鹿児島は遠い、という気がしていた。
そんなわけで、博多でコンサートを観て一泊し、翌日に鹿児島に移動してそこで一泊し、向田邦子聖地巡りをすることにしたのだ。
前置きが長くなったが、ここから旅行記となるのでお時間があればどうぞ。
7月14日(金)博多へ
昼前のフライトで博多へ。何となくだが搭乗前には食べないことにしているので、博多に着いたら大好きな「牧のうどん」に行こうと思っていた。
後述するが、その時期は博多祇園山笠の開催中で、しかも世界水泳が福岡で開催、PayPayドームでは野球があり、複数アーティストのライブもあり。
世界水泳の開幕を祝ってブルーインパルスの展示飛行が行われたという、まあ派手な日。
空の便にも影響があり、福岡への到着は20~30分ほど遅れた。
空腹を抱えて、バスセンターの「牧のうどん」へ。
博多に来たら絶対食べる、ごぼう天うどん。
讃岐系のコシがしっかりしたうどんを食べ慣れているので、絶妙なやわらかさ(コシがないわけではない)にすっかりハマってしまった。
うどんがだしをどんどん吸うので、だし汁がヤカンで別添えされる。
わかめの量が写真で見る以上にどっさり。大満足でホテルへ向かう。
この時点で15:30くらい。
開演時刻は18:30。その前に行きたいところが少なくとも2ヶ所あった。
1つ目は「西門蒲鉾」さん。TULIPファンなら知らなきゃモグリです(笑)。
ドラマーの上田さんのご実家で、大正2年創業という老舗の蒲鉾屋さん。
TULIPのコンサートが福岡である時は、「チューリップ蒲鉾」が店頭に並び、大人気で売り切れることも。
いとより鯛のすり身に色々な具を混ぜ込んで揚げたおつまみ天が美味しくて毎回買っているけれど、いつの間にか消えているのは何故なんだろうか。魔法かな。
今回は旅の途中なので自宅に発送。あれ、また一瞬で消えちゃったよ。
地下鉄呉服町駅近くで、山笠の山車に遭遇。
こちらは博多駅前。
さて、次に向かったのが「珈琲舎のだ」さん。
少し前にNHKのTULIP特番で、財津さんの行きつけの喫茶店として紹介されたところ。
前に別件で博多に行った時は行列していて入れなかったから、空いていてラッキーとは思ったけれど、ゆっくりコーヒーを飲むには時間が微妙。
会場までの所要時間を計算して、せっかくだからと入店。
カウンターに通されたけど、番組で財津さんが座ったあたりかも💛
暑かったのでアイスカフェオレを。
グラスにはミルクが半分ほど満たされていて、別に添えられたコーヒーを注ぐスタイル。
これが驚く程美味しくて、暑かったせいもあり結構なスピードで飲んでしまったのを後悔するくらい。
スタッフの接客も素晴らしく、短時間ながら終始心地よい時間だった。
次回はもっと時間に余裕をもって、ゆっくりコーヒーを楽しみたい。
その後は天神からバスに乗ろうとしたけれど、全くバスが来ず。
そういえばチェックイン後にホテルでTVをつけたらこんなことになってた。
思わず画面を写メしてしまった。道路は軒並み大渋滞で、バスが来たのは定刻の30分後。開演10分前に福岡サンパレス到着!幸いすぐにトイレに入れたので、5分前に無事着席。端っこの席でよかった(笑)
コンサートは言わずもがな最高だったので内容は割愛するけれど、やっぱり地元博多、地元のファン+全国から遠征してきたファンの熱気が凝縮している。ツアー途中から解禁された掛け声や全員での合唱もひたすら熱かった。
終演後に友人と合流し、時間もそこそこ遅かったから「飲む場所難民」と化したけれど、無事ビールで乾杯。
普段飲まないビールを2杯も飲んでしまったせいか、夜中にお腹が痛くなったのは自業自得ということで……私にしては珍しく朝食をパス。
7月15日(土)福岡→鹿児島へ移動
翌朝、チェックアウトが11時だったのでゆっくり休んで身体も回復し、さあ鹿児島へ移動だ!
世の中は三連休なので、博多駅の新幹線きっぷ売り場は長蛇の列。そして通り雨のせいで蒸し暑さがMAX。そんな中で列に隣り合わせた素敵なマダムとあれこれ会話して、お互いに「良き道中を」で別れた。
旅先の一期一会。始めから終わりまで気持ちの良いふれあい。こういうのいいね。
人生初の九州新幹線、指定席はほぼ満席。自由席に賭けてみたら意外にガラガラで、3連席の隣には誰も来ないくらい。
車窓を楽しみながら1時間半ほどで鹿児島中央駅へ到着。
駅前はバス乗り場や市電乗り場、地下道や歩道橋やらどこを通ったら良いのか少し迷いながら、ホテルで荷物を預けて早速動く。
駅ビルで和食ランチ。お腹の調子は問題なし♪
鹿児島市電に乗る前に、Suicaが使えないことを確認。福岡ではふつうに使えるのでうっかり使って恥をかかずに済んだ(郡山ではバスで使えなかったので教訓になっていた)。
まずは鹿児島で最大の目的地、かごしま近代文学館へ。
鹿児島ゆかりの作家たちの展示物をじっくり見る。手書きの原稿は生々しさがあり、鬼気迫るものがある。今は全てデータで、修正痕も残らない。
昔は良かったというつもりは無いけれど、手垢の残る原稿の背後には作家の生き様が見えてくるようだ。
これまで読んだことのなかった、島尾敏雄に興味をもった。
妻のミホが敏雄の出撃命令が出た時に宛てた手紙が、あまりにも心を抉るような叫びであった。
いよいよ2階に上がる。少々緊張しながら階段を上り、常設展示をしばし見る。
そこに向かう渡り廊下のような通路は、明らかに「特別な部屋」へ向かうためのものだったように思えた。
※注:この後ちょっと気持ち悪いファンの言動が出るのでご容赦ください。
三角形の部屋。決して広くはないのだろうけれど、そこには私ひとりきり。
まるで彼女と二人でこの部屋にいるような気がして、「いらっしゃい」と言われているようで涙が出そうになった。
彼女が実際に使っていたモノたちがある部屋は、少し旧さがあって、凛とした生活の匂いがする。
展示物は彼女の足跡そのままのような、手書きの原稿、掲載された雑誌、無数に書き込みの入った台本。
黒いスーツは、昭和55年の紅白歌合戦の審査員として出演した際に着用したものだそうだ。
歌謡曲大好きな子供だった私、その紅白は西城秀樹やゴダイゴが目当てだったので確実に見ていたんだよ……
もうずっとここに居たいくらいの心地よさと名残惜しさがないまぜになりながらも、絶対にまた来ようと思った。
「書く」ことに向き合うことを自分に誓いながら。
そこから歩いて10分くらいだろうか、もうひとつの目的地へ。
向田さんが当時暮らしていた家(社宅)があった場所。
現在は一般の民家となっているけれど、花が手向けられていて訪れる人もそれなりにいる模様。
それにしても、2年と少しだけ暮らした場所に「居住地跡の碑」が建つのって、かなりの偉人でもなかなか無いことなのでは……?
こちらは当時通っていた山下小学校。すぐれた作文に贈られる向田邦子賞という学校賞があるのが凄い!
途中、カフェに寄ってアイスティーでひと息。
頃合いも良いので、そろそろ戻ろうか。
鹿児島の美味しいところを探すのも良いけれど、お腹の病み上がりだしさすがに歩き疲れたので、駅前のイオンで夕食とお茶を買い込みホテルへ。
このホテル(ホテル ガストフ)がなかなか面白いところで、外観は古いマンションみたいなのに内容はクラシカル。
オーナーがヨーロッパから買い付けたという家具や調度品が各部屋や廊下、共用部分に使われていて、映画で見たことのあるようなヨーロッパの古い学生寮にも似た雰囲気。
入り口扉の鍵を回すのにコツがあったり、ベッドが独特の形だったりとユニークで、ビジネスよりは観光だなあ、と思いながらも非常によく眠れた。
7月16日(日)鹿児島~家に帰るまでが遠足です
翌朝は朝食をつけていなかったので、早めにチェックアウト。
この日の予定は、喫茶店でモーニングを楽しみ、天文館を散策し、お土産を買うこと。
なんとなく天文館に行けば何かあるだろうと、空港行きのバスセンターにキャリーケースを預けて身軽になった後で市電へ。
天文館は鹿児島の中心部の繁華街。向田さんのエッセイで天文館によく行ったことが描かれているが、天文館を「テンモンカンという競走馬のような名前」に例えているのに、競馬ファンの私は大いにウケた。
「外からテンモンカンが一気に差し切ったー!」なんて実況が頭に浮かびつつ(笑)
気になったお店「danken COFFEE」さんへ行ってみようと思ったら、ちょうOPEN時刻だったので急激に入店の列が出来始めた。
良い写真が撮れなかったけど、アイスカフェオレとチーズトーストを。
列が出来ていた割には店内は広くて、ゆったりと過ごすことができた。
この後天文館エリアの街並みを散策しようと思ったが、あまりの暑さに日陰を選んで歩き、駅方面へ。
帰りの飛行機は14時台で、ここから空港まではバスで1時間弱。
心配性ゆえ、12時には空港に着いておきたいと思ったので駅ビルでお土産をあれこれ見て歩く。
近々会う予定の友人と、誕生日直前の友人にお土産を買うほかは実家と自宅用。
ここでも向田ファンが出ますよ~!
食に造詣の深かった向田さんが愛した鹿児島の味、明石屋さんのかるかんに、勘場蒲鉾店さんのつけ揚げ(さつま揚げ)。
これだけは必ず押さえておきたかったので事前リサーチ済み。
かるかんは、こしあんの入ったかるかん饅頭もいいけれど、生地だけをシンプルに蒸したかるかんが好き。
(夫に「かるかん買ってくるね!」と言ったら当然のように某キャットフードかと思った模様)
自宅用にはバラで、実家用にはかるかんとかるかん饅頭のセットを。
勘場蒲鉾店さんは駅ビル地下に店舗があるので、そこで「特上つけ揚げ」とさつまいもがごろごろ練り込まれた「いも天」を購入。これが美味しい!!
写真を……、あれ?撮る前に食べちゃったわ!!
通販も可能とのことなので、間違いなくリピート決定。
美味しいものがとにかく好き、という人が愛したものは、本当に美味しい。
彼女が鹿児島に住んでいた頃は太平洋戦争が始まるかどうかといった頃。
70年以上も経ってしまっているので、お店自体が今も残っていることにまず感謝した。
もうひとつ、彼女が好きだったという「じゃんぼ餅(両棒餅)」は今回は断念した。次回への宿題とする。
旅行に行ってやりたいことを全てやり、食べたいものを全て食べてしまうと「次」がないような気がしてしまうのだ。特に遠いところだと。
「また来ます」文学館でそっと心に呟いた。
さて、なんだかダラダラと長くなってしまったが、無事に帰宅。
15日のコンサートも正直行きたい思いはあったけれど、鹿児島、本当に行って良かった。
私も10代前半に好きになったものが今も好きだし、生き方に大きな影響を与えているのは間違いない。
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