バレーボール・ゲームにおける局面をどのように捉えるのか
バレーボール・ゲームの中では一体何が起こっているのかを突き詰めて考えていく上で各々の局面を体系化しようと、サッカー・ゲームの局面整理においてよく使われている4局面を参考にし、下記のようなプレー局面図を以前作成してみた。
※サッカーの4局面については下記記事を参照ください。
この図が完成したときの興奮は忘れない。「そのとき」は素晴らしい局面図ができたとかなり自己満足していた。
これがあればもっとバレーボールの本質を理解できると。まずは、局面図、プロトタイプ第一弾を再度示す。
上図の通り、4局面で整理してみた。実際のところサッカーの4局面を参考にして、ほぼそのまま真似してつくったものであるとも言える。とはいえ、上図が完成したときにはそれなりにうまくできたという感覚もあったのが正直な気持ちである。
しかし、多くのバレーボール愛好家、そしてバレーボールの専門家の方々と話をしたり、色々な書籍を読んでいくプロセスの中で上図に対する違和感は日々増幅していったのである。目の前にいつ晴れるか分からないような霧が充満している。そんな日々であった。
本記事では、上図を思考の始点としてバレーボール・ゲームの局面をどのように捉えるのがよいのかを思考錯誤する軌跡を記録したものである。そして、ここでの記録がいつか遠くない未来にアップデートされる日が来るのかもしれない。いや、アップデートされていくに違いない。
局面とは
ある物事について考察を深めていくにあたって、その言葉自体の定義をすることは極めて重要である。
まず最初に局面とは何かについて考えていきたい。
この部分をクリアにしておくことが極めて重要だと考える。
局面という言葉を調べてみると「 碁や将棋の盤面」「勝負の形勢」「 物事の、その時の状況・状態」といった説明が出てくる。
それこそ、「局面」という言葉を使う局面によって、その「局面」が意味する内容は変わってくるのだと分かる。
そこで、本記事で取り扱う局面をバレーボール・ゲーム中の状態を客観的に示したものであると定義したいと思う。
局『面』と局『点』
では、早速上記で紹介した局面図についてツッコミを入れていきたいと思う。もう一度下記に図を示そう。
まず様々なディスカッションや書籍を読んでいく中で気がつかされたことが、そもそもバレーボールにトランジションという局面は存在するのかという疑問である。
バレーボールを語る上で、確かにトランジションという言葉は用語として存在していて、1つのラリーの中でボールを扱うチームが切り替わる場面を指すようだ。さらにもう少し具体的にこのトランジションを説明するとすれば、ボールがネットを越境する「瞬間」だと言えないだろうか。
ここで注目すべきは、バレーボール・ゲームにおけるトランジションとは「ある瞬間」(ネットを越境する瞬間)を指していて、それは局『面』ではなく局『点』だということである。
ザ・モーメント
こうした思考プロセスを経た結果、ポジティブトランジションとネガティブトランジションを局面の一つとして表現することには、いささか抵抗感が生まれてきたわけである。
さらに言うと、客観的に状況を示すべきものであるという『局面』の定義に反して『ポジティブ(積極的な)』や『ネガティブ(消極的な)』といった超主観的な表現が局面のネーミングに使われていることにも違和感があるなと思ったわけである。
イン・プレー局面
こうした気づきから再考した局面図が次の2つである。下記2つの局面図が高速回転するのがラリー(イン・プレー局面)だと考えていただければわかりやすいのではないだろうか。
どうだろう。イメージいただけるだろうか。あまりにシンプルになってしまい拍子抜けしてしまった方もいるかもしれない。
『いやいや。当たり前すぎだろう、それは。。。』という声が聞こえてきそうだ。
しかし、その通り!当たり前すぎるのだ。しかし、これが今の私の結論である。
それではもう少し丁寧に解説していこう。今一度、局面図を下記に提示する。
ネットを挟んで、赤色のコートと青色のコートがある。
赤色のコートがオフェンス局面であり、青色のコートがディフェンス局面。
そして、この2局面を次のように定義する。
自コート側にボールが浮遊しているときがオフェンス局面であり、相手コート側にボールが浮遊している局面がディフェンス局面。
ボールがネットという境界面を越境する度に、この両局面が瞬間的にスイッチしていると考えてもらえればいいのではないだろうか。
アウト・オブ・プレー局面
さて、ここまではイン・プレー局面について定義を進めてきた。
しかし、忘れてはならないのが、アウト・オブ・プレー局面である(実は私も記事を書きながら思い出した)。
実はバレーボールのアウト・オブ・プレー。
ゲーム時間全体の約8割を占めるとのデータもあるのだ。アウト・オブ・プレーという名前ではあるが、この時間中プレーヤーは本当にプレーしていないのだろうか。
私の答えは完全に『ノー』だ。
ボールは動いておらず、単なるゲームの「間」とも思えそうな時間だが、このアウト・オブ・プレー局面のプレーヤー、ひいてはチームの行動がゲームの勝敗に甚大な影響を与えているということを忘れてはいけないだろう。
では、アウト・オブ・プレー局面についても考えていきたい。下記の2つの図をみてほしい。
改めて図を提示するほどでもなかったかもしれない。基本的にイン・プレー局面と同じである。
アウト・オブ・プレーを言葉として定義するなら次の通りだ。
サーブ権を保持しているのがオフェンス局面であり、サーブ権を保持していないのがディフェンス局面である。
サーブの語源を辿ると、攻撃として分類するには少し抵抗感があるが現代バレーボールのトレンドやサーブ権を持っている(ボールの主導権を持っている)という点から考えれば、オフェンス局面と定義しても違和感はないのではないだろうか。
局面の定義から導き出すものとは
さてここまで、局面をどのように捉えるのかを考えてきたが、この作業によって何が得られるのだろう。
ただ局面の定義が目的となってしまってはあまり意味がない。局面の定義はあくまでバレーボールを探求するための手段でしかない。
局面の定義することによって、各局面でプレーヤーに求められるものが一体何なのかを見極め、それを体系化していくことこそが目的である。
ここで言う体系化とは、グッド・プレーヤーを構造化している要素は一体どんなもので、どの要素が特に重要なのかを見出すことであったり、普遍性を担保できるようなプレー原則を見出すことであったりする。
バレーボールの歴史はスポーツの歴史としては正直まだまだ浅く、誰もまだ知らない世界がこの先にはある。
バレーボールを愛するからこそ、そんな世界をいつか覗き見たいと思っている。
記事を書きながら、永遠に繰り返される思考錯誤を続けていこうというまた改めて想うのだ。