各発達段階におけるトレーニングの在り方(STAGE6:Learning to Win)#14
「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第14回です。
前章ではLTADモデルの発達段階におけるトレーニングの在り方『Training to Compete(闘争することを訓練する)』について8項目に沿って解説をしてきました。本章では『STAGE6:Learning to Win(勝利することを学ぶ)』について解説をしていきたいと思います。
STAGE6:Learning to Win(勝利することを学ぶ)
まずは、LTADモデルにおける第六ステージである『Learning to Win』について考えていきましょう。"Learning to Win" とは日本語に訳すならば「勝利することを学ぶ」となります。
これまでのステージと大きく違っていることは『win=勝利する』というキーワードがステージ名に入っている点からも観ても明らかです。
このステージにおけるアスリートは基本的に生活全般の時間を競技に充てることが前提とされており、自身のすべてのエネルギーやリソースを競技に注ぎこみます。そして、試合での勝利へのコミットはこれまで以上に強くなると言えます。
また、このステージのキーワードは「最適化」であり、第四ステージから専門的に取り組んできた自身のプレーロールやポジションにおいて求められるプレー能力を最大限に高めることが目標とされるステージだと言えます。このステージになってくるとコーチはティーチングではなくコーチング手法の活用が中心となっていきます。適切なコーチングを実践していくために、コーチの感性をもってしっかり観察することはもちろん大切ですが、科学的な観点からのモニタリングや評価をすることも必要となってきます。
それでは、次からは8つの項目に沿って第六ステージ『Learning to Win』を深掘りしていきましょう。
Overall Goal(総合的ゴール)
第六ステージでは、二つの主たるゴールが提示されています。第五ステージで洗練してきたバレーボールスキルを安定的に発揮できるようにし、厳しい環境の中でも常に高い身体能力を発揮させる。それが第六ステージで目指すべきゴールとなります。
Chronological Ages(暦年齢)
日本社会の一般的な感覚で言うとすれば、大学卒業後の社会人1年目から3年目あたりが第六ステージに該当します(インドアバレーの場合)。成人しても尚、男女間には身体的特徴の違い等から暦年齢には若干の違いがあります。
Focus(焦点)
第六ステージではプレーヤーの「最適化」に焦点が当てられています。最適化とはある制約条件下で複数の選択肢を組み合わせ、最適なものを探索することです。
ここでいう制約条件下というのが専門化されたポジションやプレーロールとなります。そして、個々のプレーヤーの強みや特徴などをうまく組み合わせ、パフォーマンスを最大化していくことがここでの最適化であり、このステージにおける焦点ということになります。
Skill Development(スキル発達)
第六ステージでは、プレーヤーのプレースタイルは明確となり、理想的なプレー動作が実現しています。様々な状況の中でプレーの一貫性や正確性は維持され、それらはそれほど意識せずとも自動的にプレーが行われている状態となっています。また、プレーの自動化が高いレベルで実現しているため、身体的・精神的負荷がかかる場面であったとしても、外的環境への深い集中力を発揮し、プレーヤーは適切な状況判断をすることができます。そしてその結果、高いパフォーマンスをいつでも発揮することができるようになっているのです。
第六ステージでは、ゲームライクトレーニングの比率をこれまで以上に高め、適切な負荷をかけながら様々な状況判断を伴うトレーニングを増やしていくことが大切です。また、コーチはゲーム中に高頻度で発生する局面やうまく対処のできない状況などを整理し、そうした局面や状況が多く発生するようトレーニングをデザインして、実行することが求められます。さらに、特定の局面や状況のみを切り取ったトレーニングを何度も反復するだけではなく、ある程度プレーヤーの適応が進んだことが確認できれば、制約変更したトレーニングへと移行していく柔軟さを持つこともコーチに求められます。プレーヤーが自動操縦(思考停止)モードでプレーしていないか、常にコーチは意識して観察しておくことが肝要です。
Goal(ゴール)
第六ステージの焦点である「最適化」を、「さらなる向上」「モデル化」「最大化」といったキーワードで具体的に表していることが見てとれます。
また、ここで初めて「計画的な休養」というキーワードが出てきました。第五ステージまでは育成カテゴリの範疇にありましたが、第六ステージからは競技へのフルコミットが前提となってきます。そのため「休養」をしっかりととること自体がこのステージでの一つの具体的ゴールとして設定されているのです。
Discipline Integration(専門分野の統合)
第六ステージの基本的な考え方は、インドアとビーチの競技者はそれぞれ向上を目指して別々の道を進んでいくというものになります。
Periodization(期分け)
第五ステージ同様に、試合に向けての本格的に期分けを行い、十分な準備をして試合に挑みます。
Training to Competition Ratios(トレーニングと試合の比率)
第五ステージ同様の比率となります。
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